Scene30

 戦闘は南波に任せ、恭一と葵は協力して天国の解体を再開した。この天国が出来て、地上が崩壊し始めて、もう随分経っている。二人は急いでいた。

 しばらくは黙々と二人で(手を繋ぎながら)取り組んでいたが、やがて恭一が口を開いた。

「あいつが望んでいたのは、疎遠になってからの、亡くなる直前の母親の許しだ。だがおそらく、会えたのは昔の、仲が良かったころの母親なんだろう」

「なんでそうなったの? だってそのためにここを作ったんでしょ?」

 葵が恭一の方に目をやった。

「そもそも、大前提として俺達の能力じゃ、死んだ人は復活させることができない、っていうのがあるんだ」

「そうなの?」

「そうだ。今まで沢山の先人たちが様々な方法で試してきたが、こればっかりは成功したことがない。だからもうこれは不可能だという結論が出てる。あいつもそのことは当然知ってるはずだが、それを天国そのものを創り出すという裏技で突破しようとしたんだろう」

「本当に無理なの?」

「ああ。これは原理的にも解明されていて、そもそも正のエネルギーも負のエネルギーも言霊だと以前言ったが、死者の言霊は、この世からすぐ失われるんだ。だから、死者の復活はできない。正確に言うと、負のエネルギーによって生み出される死者は本人ではなく、生み出す本人の記憶の具現化にすぎない。今回あいつが会ったのもそれだろう」

「そんな……」

 葵は心配そうな目で戦っている南波を見た。南波は、恭一よりもはるかに猛烈な勢いで風船オバケを攻め立てていたが、風船オバケの反撃もすさまじい。

 しかし南波は一切の躊躇がなく、自分が傷を負っても意に介さずに攻撃を続けていた。

「あいつやばいなあ。もうヤケクソになってる」

 恭一はそんな南波を冷静に見ながらそう言った。

「助けに行かないと!」

 そんな恭一とは対照的に、葵の方はだいぶ熱くなっている。

「いや、天国の解体が先だ。あんなバケモン相手でも、南波なら持ちこたえられる。だがここにいる全員があいつに立ち向かったら、誰も地上を救えない」

「じゃあ、解体は私がやるから、恭一は行ってあげてよ」

「いや…… 二人でやった方が早い。解体が先だ」

「なんでよ!」

 恭一は葵を見た。

「最初に手を繋いで、一緒に能力を使った時から気付いてた。俺たちの相性は最高だ。俺たちは訓練の上で、複数人で手を繋いで能力を協同で使うこともあるが、俺たちが今までやってきたみたいに大それたことはできたことはない。俺が一時期使えなくなった能力を、葵と手を繋いだあとに、いつも以上に使えるようになったのは、おそらくその副産物だ。お互いがお互いの能力を高め合おうという方向に動いてる。俺はそう思うんだ」

 恭一は、なぜか呆然としながら話を聞く葵の方に改めて向き直った。言葉を続ける。

「もちろん君の能力はすごい、それは前提にある。でも、俺たち二人の能力が繋がったときこそ、とんでもない力が発揮できると思うんだ」

 葵は口を開かない。それどころか、何の反応もない。

「あれ? おーーい、聞いてる?」

 恭一が葵の目の前で手をふる。

 のぼせあがって、わずかな意識の中で葵は思った。これがプロポーズっていうんだっけ?



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