Scene31

 恭一と葵の頑張りによって、天国の解体自体はその後まもなく完了した。天国を構成していた全ての負のエネルギーは地上に還った。

「これであとは地上の連中に任せるだけだなー」

 一仕事終えて、恭一は大きく伸びをした。

「気抜いてる場合じゃないでしょ」

 葵が、横からピシッと口をはさむ。さっきの恭一のプロポーズ? による熱はどうにか冷めていた。

 天国の地面が亡くなった今、恭一と葵は、恭一の創り出した龍の背に乗っており、南波は相変わらずジェットパックで飛んでいた。

 しかし、風船オバケは相変わらずピンピンしている。

「いやあ、それにしてもあいつがまだあんな元気だっていうことは、あのバケモンは天国とは無関係だな。正体はよく分からんが、これだけ大量の負のエネルギーにつられてのこのこ現れたってとこだろう」

「え、そうなの? じゃあもうほっとけばよくない? 三人で逃げちゃおうよ」

 葵が、今でも南波を圧倒する風船オバケの攻撃力に戦慄しながらそう言った。

「いやあ、あんな危険なの放置しとくわけにはいかないだろ。それに文献によると、今はあいつくらいしかいないが、昔はああいうバケモノがいっぱいいたらしい。それを俺たちの先人が一匹一匹駆除していったんだ。次は、俺たちの番だ」

 恭一はそう言いながらも、一つの光の円盤を新たに創り出した。一見葵たちが解体したばかりの天国のようだが、それとは比べ物にならないくらい小さい。それこそちょうど、葵一人が乗れるくらいだ。葵は、まさか、と思った。

「葵はここまでだ。あとは俺たちがやる。これに乗って地上に帰ってくれ」

 それを聞いた葵は、驚愕の目で恭一を見た。

「え! どういうこと? 今さら恭一を置いて帰るなんてできないよ! 急に何?」

「あいつは危険すぎる。ここから先は俺とか南波みたいな専門家が対処しなきゃいけない。君みたいに外部の人間を、危険にさらせない」

 その言い方に、葵はひどく傷ついた。

「外部の人間って何? 今さら私を部外者扱いしないでよ! 今までずっと一緒にやってきたじゃない!」

 葵は、恭一の身勝手すぎる言い分にカチンときた。その怒りのまま、恭一に噛みつく。

「ああ。だが、それは天国の解体が一刻を争ったからだ。今までも危険なことは変わりなかったが、君が必要だった。でもあとは、何とかしてあいつを気長に倒すだけだ」

「でも、さっきまで自分と私は相性が良いとか、この二人だととんでもない力が発揮できる、とか散々色々言ってたじゃない! 私がいないとあいつも倒せないんじゃないの?」

「そんなことはやってみないと分からない。とりあえずもう、君はいらない」

 その一言が決定的だった。もう、反論する気も失せた。葵は何も言わずに円盤に飛び乗る。

 ゆっくりと恭一から離れていく円盤の上の葵の目からは、幾筋もの涙が流れていた。


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