Scene6
「ちょっと! あれはどういうことなのよ!」
あれから倒れ、その後二十分程気を失った葵であったが、所変わってとある高級焼肉屋の個室で、モリモリと好物の塩タンと白ご飯を堪能し、デザートまでしっかりと舌鼓を打ったら元気を取り戻した。驚異的な回復力である。
通常よりはるかにテンションの上がっていた葵は バン! とテーブルを叩いて恭一を問い詰めていた。
あれは一体なんだったの! あなたは一体何者なの! とオーソドックスに詰め寄ってみたかと思ったら、死ぬとこだったじゃない、怖かった……と身体を大きく震え上がらせる。
「いや、だからね。あの時ちょうど説明しようとしてたんだけど。まあ、でも良かったよ。結構余裕がありそうで」
「余裕って何よ、そんなんあるわけないでしょ!」
葵はそう言って恭一の頭をスパンとはたいた。しまった、と思った時にはもう遅かった。
嫌われただろうか? ガサツな本性がバレてしまったかもしれない。だが、恭一は特に動じていないようだった。軽く微笑むその顔に葵はやはりドキッとする。
「うん。君にはやっぱり〝適性〟がある」
「適性?」
「襲撃の前に正のエネルギーと負のエネルギーの話をしたことは覚えてる?」
そういえばそんなこともあったような……
「まあ、簡単に言うと正のエネルギーは真実から、負のエネルギーは嘘から生まれるものだ。〝言霊〟っていう言葉は聞いた事があるんじゃないかな?」
うーん、あるようなないような。
「人が言葉で真実を紡ぐときは、現実との整合性がとれているから言霊がそのままの純粋な力を持っているんだけど、人が嘘をつくときはその整合性がとれず、力が醜く歪むんだ。それが負のエネルギーになるんだよ」
「はあ……」
まだ話が全然見えてこない。そもそも言っている内容が荒唐無稽なのはもちろんのこと、それがどのように今までの不可思議な現象に繋がっているのかも分からない。
「負のエネルギーは強くなっていくと現実そのものを歪め出す。それを打ち消すことができるのは正のエネルギーだけだ。つまりこの世界において、正のエネルギーが拮抗、もしくは上回ってないといけないんだ」
何それ。
「普段は大丈夫だよ? 人は恒常的に嘘をつく生き物だけど、それ以上に本当のことを言っているから平均して六対四の割合でだいたい推移する。でも、その均衡が崩れるのは? 人が必要以上に嘘をつきまくるのは?」
「エイプリルフール……」
葵は茫然として遠くを見つめた。
「思い当たる節があるだろう? 今まで君は普通ではありえないような幻覚を見てきたはずだ。それもエイプリルフールに限って。それは負のエネルギーの高まりによって、人がついた嘘や、そのとき丁度見ていた夢なんかの非現実が具現化したものを見ていたんだよ」
葵はこの説明を妙に納得しながら聞くことが出来た。だって実際に今まで散々、〝ありえないもの〟を見てきたのだから。
「じゃあ、空に浮かぶ黄色い大きな怪物は?」
「誰か小さい子どもがホラをふいたのかもしれない」
「じゃあ、空から降ってきた青い目をした忍者は?」
「さあ? 前の晩に見たマイケル・ダディコフの『アメリカン忍者』が、居眠りしてた誰かの夢にでも出てきたんじゃない?」
「でも、そんなことありえない! 今まで生きてきてそんなこと聞いた事もないし、そんなこと本当にあったら大ニュースよ! この世の物理法則のほとんどが崩れるし、この世は不可能犯罪ばかりになるじゃない」
葵は、ここで折れたら負け、くらいの勢いで吼えた。だが、恭一は表情を崩さない。
「そう、だから俺たちみたいな人間がいる。正のエネルギーと負のエネルギーを自在に操り万物を自由に創造できる能力を持った人間が。負のエネルギーが集結して幻が現実になりそうなところに駆けつけて、そうならないように正のエネルギーを使って散らすんだ。君みたいな一般人が普通に暮らすために、知らないところで多くの人が戦ってきたんだよ」
話のスケールが一気に大きくなり、葵は途中から理解する気を喪失していた。何それ、万物を創造? なら今すぐ私を億万長者にしてよ。
「それは出来ない相談だ。俺たちはこの力を私利私欲のために使わないように厳しいルールでがんじがらめにされてるし、さっきも言ったけど非現実を現実に変えるにはとっても多くの負のエネルギーが必要になる」
恭一は葵を諭すように優しく語りかけた。
「確かに正のエネルギーと負のエネルギー自体はそこらにありふれているものだけど、それを一ヶ所にずっと集中させておくのは、これまたとんでもないエネルギーがいるんだ。支払ったはずの金が消失して大きなトラブルを各所で起こすのは避けたいからね」
なんか、体の良い言葉で騙されているような気がする。でも、さっきまでの出来事を思い返すとそれが嘘だと断じることもできない。だって実際にこの男は目の前で、乱射された銃弾を受け止め、ビルの崩落も防いだのだから。
「なんであなたはそんなことができるの? だって普通の高校生じゃない?」
「まあ、基本的にこの仕事はエイプリルフールだけだからね。だからそれ以外の期間プータローやってるわけにもいかないし」
いや、質問の答えになってないし。
「ああ、そういうこと。この能力の発現は完全ランダムだよ。知られてないけどこの世には一定数この能力を持っている人がいて、そういう人は赤ん坊の時から見出され、この能力を使いこなす英才教育と、この力を悪用しないための倫理教育を受ける。この能力は親にも秘密だよ」
え、じゃあ自分の子どもが知らない間にそうなってることもあるってこと? そんなことってできるの?
「弊社ではジ〇ダイの騎士システムを採用してますんで」
拉致ってんのか。あと社ってなんだ、社って。
「大丈夫、大丈夫。ちゃんとこっちの訓練をしている間は本人のコピーを生成してるから」
もっと悪質だった。
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