Scene7

「ねえ、ところで、〝適性〟って何のこと? だから私にこんな大事な事教えてくれたでしょ?」

 既に場所は移され、そこはとある遊園地だった。一緒に空中ブランコに乗り、売店前のベンチでソフトクリームを食べる二人の姿はもう完全にカップルのそれだった。

 それもこれも昼食としての焼肉を食べた後、葵が半ば強引に恭一をカップルシチュエーションにとなるような場所に誘った結果である。

 この日の朝まではいじらしく自分の想いを内に秘めていた葵は、思っていた何倍も変人だった恭一に対して完全に開き直り、すでに遠慮の一切をなくしていた。

「ああ、そのことね」

 そう言った恭一は、確信犯なのかそうじゃないのか、ついてるよ、と葵の口元についていたソフトクリームを親指で拭った。葵はその場で崩れ落ちかけた。

「君は今までエイプリルフールに幻覚を見てきた。その原因自体はさっき説明したことなんだけど、でも普通の人はいくら負のエネルギーが高まったって具現化された幻を実際に目にすることはまずないんだよ。

 俺らが即座に処理することはもちろん、人間の脳っていうのは自分にとって都合の悪いものからは自然と目を逸らすようになってるからね」

 確かに。葵は今まで自分と同じような経験をしたという人の話を聞いたことはなかったし、ネットでも見たことがなかった。そんな人がゴロゴロいたら、今頃この世はひっくり返ってるはずだ。

「まあ、そんなレアな幻をそんなに見てきたってことは君も俺らと同じ資質を持っている可能性が非常に高い。つまり君にも正と負のエネルギーを自在に操る力があるんだ」

「ええっ」

 葵の胸がときめいた。私にもこの世を支配できる力が……

「それかただピュアなだけかもしれないけど」

 葵は再び崩れ落ちかけた。それって馬鹿ってこと?

「まあ、とにかく君は今までこの現象に迷惑をかけられ続けてきたわけだから。そんな人をほっとくわけにはいかなくてね。特に今はさっき撃ってきたやつみたいな不届きものもいるから、俺が君を護るよ」

 急に出た萌えセリフに動揺しながらも、葵は姿勢を正した。これはちゃんと聞いておかなければならない。

「あいつは何者なの? この現代日本で銃撃なんてありえない。あれも幻なの?」

「いや、生憎だけど、あいつは具現化した幻じゃない。もしそうだったら俺が手を軽く振っただけで消える。そうじゃないから厄介なんだ」

「じゃあ、なんなの?」

「今まで聞いてたら分かるように、この力はとんでもなく強大だ。それこそ世界をどうにかできてしまう。そのために俺らみたいな能力者は生後数ヶ月、遅くても五歳になるまでには教育を開始される。だけど、数年前にある特例が生まれた。南波快斗という少年が見出され、十二歳から訓練が開始されたんだ」

「え、なんで?」

「あまりに強力な力を持っていたせいで制御する術を持っていないと逆に危険だと判断されたらしい」

 うわー、なんか聞いたことあるような話だ。

「そのアナキ……じゃねえや、南波は案の定暗黒面に堕ち、暴走を始めた。力を私利私欲のまま使い始めたんだ。今では世界征服を目論んでいるらしい」

 もう、ガンガン言ってるよこの人。暗黒面って言ったよ。

「なんで、暗黒面に堕ちたの?」

「うーん、お母さんを亡くしてとかだったかな」

 やっぱア〇キンじゃん。まんまア〇キンじゃん。

「南波って、さっきの撃ってきたやつ?」

「いや、あれは奴のシンパだ。南波は離反したとき、若手のカリスマになっていた。悪を知らない純粋な若者が多く彼と共に弊社を離れた」

 この人は絶対、弊、って表現に憧れてるんだろうな、と葵は冷めた目で恭一を見た。

「あなたはついていかなかったのね?」

「世界征服に興味がなかったからね。俺にはSky=Grapesのもえたんがいれば満足だから」

 あー、ドルヲタだったー、この人。葵はガクっと力が抜けた。

「別に今の給料で満足だし、定時帰りできるし、ライブの日休めるし。今は南波のせいで忙しいけど繁忙期エイプリルフールだけだし」

 やっぱり会社組織だったのか、これ……

「ていうか、じゃあ、今日エイプリルフールだけど大丈夫なの? 私めっちゃ拘束しちゃってない?」

「ん、そう言われてみれば今日はトラブルの連絡が少ないな…… いつもだったら四月一日は電話が鳴りやまないんだけど。ま! いいんじゃない? 俺さっきあいつらと交戦して結構頑張ったから、本社が俺に仕事振らないようにしてくれてるんだよ」

 ふーん、そんなもんなのか、結構のんびりしてるんだ。そんな思いを抱きながら葵がソフトクリームの最後の仕上げ、コーンの最端部を口に放り込むと隣で何か考え事をしていた恭一が「あ……」と顔を上げた。

「もしかして、今日案件が少ないのって、南波が何か企んでるから……? ひょっとして今日限定で世界に溢れる負のエネルギーを悪用しようとどっかに溜め込んでる……?」

「え、何それ、やばくない?」

「もしかして、あいつそれ狙ってあのタイミングで組織を離れた……?」

「あのタイミングって?」

「先月」

 いや、それもう確定じゃん。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る