Scene14
恭一はどうせヲタ活で忙しいだろうから、こんなことをしでかすのはやたらと葵に執着を見せる南波に違いない。いくら明日会う約束をしたとはいえ、葵が誘いに応じるとは限らないのだから。
葵はついさっきまで南波がいたショッピングモールのゲームセンターにカチコミをかけようとしたが、もう閉店時間を過ぎてしまっていて、建物にすら入れなかった。
どうすればいいだろうか? 葵は頭を抱えた。考えてみれば、恭一と南波とも連絡を取る手段がない。それぞれの本拠地が分かったことですっかり安心してしまっていた。
このまま恭一の組織がある廃校に行くという手もあるが、もう恭一は家でテレビ三昧だろうし、かといって社長はじめ、あそこにいる人たちといきなり話すのは葵にとってはハードルが高すぎた。
「ちょっと、まだいるんでしょ! 出てきなさいよ!」
どうすることもできなくなった葵は、軽いパニックに陥り、ピクリとも動かないショッピングモールの自動ドアをガンガンと叩いた。ゲームセンターは、はるか先にあるというのに。
「おい、君、何をしてるんだね」
守衛のおじさんが、自動ドアを手で開いて中から出てきた。
「すみません。ちょっと忘れ物しちゃって…… 入れてもらえませんか」
葵はここぞとばかりの渾身のキラキラ眼と良い子声でお願いした。
「嘘つけ。絶対ちがうだろ。さっきの丸聞こえだったぞ」
秒で一蹴された。
……てへッ
「てへッ じゃない。私の質問に答えなさい。このまま扉をたたくなら警察を呼んでもいいんだぞ」
このおじさんの表情は緩むことがない。
「そんな厳しく言わないでくださいよ~」
普段はお小遣いをねだるときしか使わない渾身のぶりっこフルバーストで時間を稼いでいる間に、ここを突破するためにどうすれば良いか、葵は真剣に考えた。
「大体、もうこんな遅い時間にうら若い乙女が一人で出歩くもんじゃないよ。全く親御さんの顔が見てみた…た…t…」
葵が少しよそ見している内に、おじさんの声が不意に止んだ。いつの間にかおじさんがいなくなっていた。
「え?」
葵は辺りを見回した。そこは一本道で基本的には見晴らしはよかったが、どこにもおじさんの姿はなかった。ショッピングモールの中を覗き込んでも見える範囲にはいない。この一瞬の内に、そんな遠くまで行けるものだろうか。葵が訝しんでいると、ドタドタドタ! とアスファルトの路上ではありえないくらいの音量の足音で、誰かが走ってきた。
「おい、南波! いるんだろ! 出てこいよ! なあ! 頼むよ……」
なんかデジャブ。
半狂乱状態でショッピングモール入口の自動ドアをガンガン叩いているその男をよく見ると、それは葵がよく知っている人物だった。
「恭一? 何やってんの、こんなとこで!」
「もえたんが…… もえたんが…… 消えちゃったんだよう……」
恭一は半べそをかきながら、その場にへたり込んでしまった。
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