Scene15
恭一が少し落ち着いてから葵が改めて事情を聞き出すと、もえたんが出演しているテレビ番組を一緒に見る生配信の画面上から、もえたんの姿がいきなり跡形もなく消えてしまったらしい。
「こんなことする陰険なやつは南波くらいしかこの世にいない。あいつを見つけ出して絶対にメッタメタのギッタギタのブリュンブリュンにしてやる」
ブリュンブリュン? ねえ、恭一、私の方も家族がいなくなっちゃったんだけど。
「へー。あ、そう」
うわー興味なさそう。
「あいつの根城はゲーセンだったな?」
恭一がキッとその方角を眺める。
「行くぞ!」
恭一は右手を前に突き出し発光させた。その光球がどんどん大きくなる。中から超ドデカい本物の戦車がキュラキュラと現れた。
「ギャーーー!!!」
恭一は軽々と葵を担ぎ上げ、ひらりと戦車に飛び乗った。そのままその戦車はメキメキメキとショッピングモールの壁を破壊し、進撃し始めた。
「南波はどこだ! あのバカはどこにおる!」
「ちょちょ、こ〇亀のオチみたいになってるから!」
葵の悲痛な叫びにも、恭一は止まろうとしない。
いくつもの階段を崩壊寸前にまで追い込みながら、戦車は迷いなくゲームセンターの方に突き進んでいた。しかしやはり不思議なことに、ショッピングモールの中は人っ子一人いなかった。
あまりこういうことに詳しくはないが、普通営業時間が終わっても片付け作業で沢山の店員が残っているものではないだろうか。
やっとこさ3階のゲームセンターにたどり着いたが、懸念していた通り、そこももぬけの殻だった。
「どこだ…… どこにいる……」
恭一は悪鬼のような顔で砲塔を右に左にブン回す。キャタピラが、様々な筐体を容赦なく踏みつぶしていく。
そんなときに葵のスマホが鳴った。見知らぬ番号だ。誰だろう?
恐る恐る出てみると、社長の声がした。
『葵ちゃん! 今、恭一と一緒か?』
戦車の騒音が酷い中、そう言っている声が何とか聞こえてくる。
『今、南波のところにカチコミかけようとしてるんだろ?』
「そうです!」
『恭一に伝えてくれ! そこじゃない!』
「はい?」
『外を見ろ!』
理由はよく分からなかったが、とりあえずここにいてもただいたずらに器物破損を繰り返してしまうだけなので、葵は急いで恭一に呼びかけた。
「恭一、外だって! ねえ、恭一!」
「ああん?」
しばらく葵の声に気付いていなかった恭一であったが、何回かの呼びかけで般若と化している顔を葵の方に向けた。
「社長から電話。何か外で起きてるらしいよ」
恭一は完全に正気を失っていたが、その言葉にわずかに反応し、進行方向を外壁の方に向けた。そのまま壁を突き破る。もう二十三時近かったのに、空が妙に明るかった。
「なんだ?」
その光景にはさすがの恭一も驚きを隠せないようだった。
「あっちだよ!」
葵が光源となっている場所を見つけた。太い柱のような光が、天に向かって伸びている。
そこは駅から商店街を抜けた先にあるバスのロータリーだった。そこには、クリスマス以外の季節でもいつでもイルミネーションが点灯している、一本の大きなモミの木が埋められている。
「また近所じゃん……」
葵はどんよりした気分になった。
「よし行くぞ、怪しいところに南波ありだ」
一瞬の内に葵たちが乗っていた戦車が消えた。
「わっ」
葵はそのまま床に落ちるかと思ったが、ふわっとした感触でクッションのようなところに座った体勢のまま着地した。そこは戦闘機の操縦席のようなところだった。前には同じような座席で恭一が乗り込んでいる。
二人の乗った戦闘機はとてつもない速度でショッピングモールの穴が開いた外壁から飛び出した。一直線にその光柱に向かって飛んでいき、近づいたときに恭一は何の躊躇もなくミサイルを発射した。
「ちょっと、そんないきなり!」
葵はいつの間にか被らせていたヘルメットのインカムに向かってそう叫んだ。
「うるさい!」
しかし、その光の柱はミサイルを飲み込み、爆発もさせなかった。
「ちっ!」
恭一は怒りのまま、機関銃を乱射する。
「ちょっと! あれがなにかわかってるの?」
「しるか! 今助けるからね、もえたーーん!!!」
ダメだこりゃ。
恭一が頼りにならない分、葵は何がどうなっているのか、よく観察することにした。どうも、この光の柱はやはりあのモミの木のところから出ているようだ。
その周りをよく見ると、逆にそれ以外に変わったところはない。南波一味もいなかった。ただただモミの木から光が出ているだけだ。
「やっぱりあれに突っ込むしか打開策はないな」
平静を失っている中、どうやらそれを恭一も見極めていたようだ。とんでもないことを言い出した。
「え、うそ! やめてよ。あんな得体の知れないもの、近付くのも嫌なんだけど!」
「お前、このまま家族が戻ってこなくても良いのかよ!」
ちゃんと聞いてたのかよ~~! 葵のあふれ出る涙が、Gを受けて飛んでいった。
「で、でもさ、とりあえず社長とかと話して態勢を整えてさ!」
葵はあたふたと恭一を説得しにかかる。
「ダメだ! 事態は一刻を争う! もう何年もこの仕事をしてるが、こんなことは異常だ。異常が過ぎる! もう世界を救えるのは俺達しかいないんだ!」
久しぶりに見た恭一の男らしい一面に、葵はキュンとした。
「う、うん、わかった! 行こう!」
私の手で、家族を取り戻すんだ!
恭一は戦闘機のスピードをさらに上げて、光の柱に突っ込んだ。
「待っててねーーーー!!!! もえたーーーーん!!!!!!」
やっぱりそれが本音かーーーーー!!!!!!
葵は一時のノリに身を任せたことを猛烈に後悔した。だが、戦闘機はもう止まれるような速度ではない。
「きゃーーーー!!!!」
二人が乗る飛行機が光に包まれ、葵の視界が真っ白に染まった。
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