現在 南波  恭一落下直後

Scene35

 風船オバケが発生させた落雷が直撃した恭一が、雲を突き抜けて落ちていく。南波は助けに行きたかったが、一瞬でも気を抜くと本当に命をとられそうなので、風船オバケから目を離すことができない。

 二人でも苦戦していたのに、一人になってしまった南波は、ひたすら防御一辺倒状態だった。風船オバケによる全方位からの攻撃を、自分の周りに張った正のエネルギーによるバリアでひたすら無効化していく。

 これじゃきりがないな…… しばらくその状態で猛攻に耐えていたが、南波にも限界が近づいていた。何より、何も反撃できないという事実によるストレスが、どんどん大きくなっていた。

 そんなとき、下から一筋の光が突き上がってくるのが見えた。わずかにピンク色に光るその光線はそのまま、風船オバケの胴体部を真下から大きく凹ませた。しかし、風船オバケ側が変形し、その光線を受け流した。

 なんだあれは? 南波は急いで、高性能双眼鏡を具現化させて、その光線を眺めた。その光線の先端には、奇妙なアーマーをつけて、天高く正拳突きをかましている葵の姿があった。

 その手があったか…… 南波は得心した。今までの南波や恭一のように、武器でも動物でも何でも、何かを出現させて、それによって攻撃するだけでは、最後の決め手に欠ける。あのクラスの怪物を倒すには、最後はやっぱり自分の手でやらなくてはダメなのだ。

 しかし、葵がやっているような、具現化したものを身にまとうことはとても難しいことだ。一旦生み出したらそれで終わりというわけではなく、刻一刻と変わる自分の身体の動きと状態に合わせて、微調整をかけ続けなければならない。

 今日この日まで、ずっと自分の能力のことすら知る由もなかった葵が、この数時間の間でここまで高度なことができている。そのことを考えた南波は、その場でニヤッと笑った。

「さすがバケモン」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る