Scene25
「ねえ、恭一、あれで本当に良かったの?」
葵が恭一にそう尋ねる。今、二人は協力して(手を繋いで)、天国を解体し、負のエネルギーを地上に還す作業を再開していた。それに伴って、怪物達の勢いも衰えていく。
「地上も大変なことになってるし、こっちも怪物だらけだし、悠長なこと言ってる場合じゃなかったんじゃないの?」
葵の口調は少し尖っている。
「まあまあ、もうここまできちゃうと、あいつが母親と再会する時間なんてわずかだよ。俺達が並行して頑張れば、十分取り返せる時間だ」
「そうだけどさ……」
「それにね、葵ちゃん」
恭一は葵のもう片方の手も取った。少しかがんで、葵に目線を合わせる。
「俺は君となら、何でもできる気がしてるんだ」
「え……」
え、ちょ、ちょ、急に何言ってるの!? 葵は恭一の顔をまともに見れなかった。胸の高鳴りが止まらない。顔がまたまた真っ赤になる。
「さ、お喋りはここまでだ」
そんな葵を尻目に、恭一は再び迫りくる怪物達と、もう半分ほどの大きさになった天国の方に向き直る。そして葵の右手を、再びぎゅっと握りしめた。
葵の心臓の鼓動がまた跳ね上がる。その次の瞬間に、恭一が発動した能力はすさまじい威力を誇っていた。
それまで何分もかかって解体した量と同じくらいの負のエネルギーが、一瞬の内に地上に流れていく。
「な、なんだ……」
恭一は面食らっている様子だった。しかし葵の方は、もはや不思議とも感じなかった。葵自身も、恭一の言葉を聞いてから、恭一と手を繋ぐと何でもできるような気がしていた。
その思いと素直に向き合ってみる。すると葵の中で、自身の身体の奥の方から、何かが滝のようにあふれ出てくる感覚があった。
葵は、今度は自分の意思で左手を前にかざした。地上に還る負のエネルギーの勢いが、さらに倍増した。
「おお、すごい!」
恭一が横で目を瞠る。
「俺が媒介することなく、直接能力を使えている。葵、やっとできるようになったのか!」
「恭一がいるからだよ」
葵は照れることなく、自然とその言葉を口にしていた。
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