Scene12
葵はそのままミサイルで発射されたかのような勢いで頭から滑空していき、そのまま葵がよく行く近所のショッピングモールに窓から突っ込んだ。
葵を纏う光は、触れただけで窓ガラスを粉々に砕き、障害物となっていた商品棚を吹き飛ばして葵を優しく着地させた。
しかし葵が振り返ると、割れたはずの窓ガラスも、大惨事になっていた雑貨売り場も元通りになっていた。
「もう、何なの……」
これほどの出来事でも、今日様々なことを見てきてしまった葵には、それほどの驚きは生まれなかった。
飛行中に何か落としてないか、葵が自分の持ち物を確認していると、誰かが近づいてくる足音がした。ビクッとしてそっちの方に目を向けると、どこかで見たイケメンが近づいてきた。
「南波……快斗」
「彼らから色々と説明を受けたみたいだね。まあ、こっちで説明するのがめんどくさいから向こうがしてくれるのを待ってたんだけど」
驚かせちゃったかな? と南波がにこやかに近づいてくる。恭一から色々と聞いていた葵は、警戒の眼差しで南波を見た。でもやはりその美形具合に、頬が緩んでしまう。
「一緒に来てくれないかな? 紹介したい人達がいるんだ」
「はい!」
そう勢いよく答えた葵の目は、いつの間にかキラキラと輝いていた。
南波は、葵が落ちたところと同じフロアにあるゲームセンターまで葵を連れて行った。不思議なことに、まだ閉店時間ではないのに人と一切すれ違わなかった。
連れて行かれたゲームセンターは、葵が幼いときによく来ていた、勝手知ったるところだ。そこの太鼓の達人でギッタギタにしてやろうか、などと葵が内心考えていると、「こっちだよ」と南波が手招きする。
示された角を曲がると、そこは左右に音ゲーやドライビング、シューティングなどのゲームが左右にずらっと並んだ通路で、そこにはそれまでとは打って変わって多くの人がいて、そのいずれもが、葵に注目していた。
「もしかして、この人たちが……」
葵が恐る恐る尋ねると、
「そ、僕の仲間たち」
南波の仲間には銃撃された経験があったので、葵は一気に恐怖に襲われた。
それまでは南波の魅力にやられてホイホイと付いてきてしまったことを猛烈に後悔していた葵だったが、そこらへんにもたれかかっていたり、ゲームの筐体に付属している椅子に座っている南波の仲間達をよく見てみると、そこには若い男しかいなくて、そのいずれも、南波ほどではないにしても、いい感じのイケメンばかりだった。
「南波さん、そいつが例のバケモンっすか?」
ピンクに染めたツンツン頭で右耳だけにピアスを沢山つけた、一番手前に座っていた男が、南波にそう尋ねた。
「バ、バケモン?」
葵は目を白黒させた。
「ダメだなぁ。女の子に向かってそんなこと言っちゃ」
南波がそうたしなめた。口調は穏やかだったが、その目が笑っておらず、ピンク頭の男は「す、すみません!」と縮こまった。
「バケモンってどういうこと?」
「んー、なんだろうね?」
南波が本当にきょとんしたかのような顔を葵に向ける。
「世界を滅ぼしうるほどの強大な力…… もう隠していてもしょうがないだろう、南波」
奥の方から新たな声がした。
「余計なことは言うなって言っといたよね~」
南波の声が一段階怖くなる。
「これほどの力を持つ奴が自分の力を把握してないことの方が恐いだろう。どんな大惨事になるか」
そう言いながら近づいてきた男もまたイケメンで、他の人とは打って変わって黒髪の短髪だった。装飾品も何もつけていない。
「私ってそんなにすごいの?」
南波は困ったような顔で葵を見たが、何も言わなかった。気まずい沈黙が場を包む。
「ところでー、やっぱりこの人たちは南波さんの仲間たちなの?」
新参者なのに気を遣った葵が、勇気を出して口火を切った。会話の内容としてはさっきと全く同じだ。
「そ、僕の愉快な仲間達」
ただの不良学生の溜まり場じゃん、という感想はとてもじゃないが口には出せなかった。
「歓迎するよ」と南波が葵の肩に手を回し、奥に誘おうとする。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
葵が焦ってその手を振り払う。いくらイケメンばかりだとはいえ、こんなヤンチャそうな男たちの群れの中に入っていったら、何をされるか分かったもんじゃない。
「ほら、だから言ったろ? そんな丸め込めるほど馬鹿じゃないんだって」
さっきの黒髪短髪のお兄さんが言った。
「何なの?」
葵が南波の目をまっすぐに見てそう言った。
「ほら、正直に言え」
黒髪のお兄さんが追い打ちをかける。
「そうだね……」
南波が少し考えてから言った。
「葵さん、僕と付き合ってくださいませんか?」
「はい!?」
その刹那、黒髪のお兄さんが南波の頭をスパーンと叩いた。「馬鹿」
「え? え?」
葵の思考が追いつかない。
「ごめんごめん、いらぬ誤解を生んでしまうね」
南波が涼しい顔でそう言った。
「言い直せ、この口下手野郎」
「僕と一緒に行ってほしいところがあるんだ」
南波が改めて、葵の目をまっすぐ見てそう言った。
「は、はあ……」
デートの誘いだろうか?
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