第33話 流れる二人

 あのトナリ社長との出張から、数週間経ったある日、タナカ社長が直々に旧会議室へ来られた。


「今日の午後、二人共空いてるかな?会議室に集合で」

「何か資料作成が必要ですか?」

「そういうのは、いらないから」


 なんだろな、出張かな、むしろ解雇かも。また、勝手な想像が始まる。スズモリさんも、顔が引きつっている。

 そして、午後。会議室に呼ばれ、入ってみれば、いつもの顔ぶれだよな。対面している左から順に、タナカ社長、トナリ社長、統括部長。どっしりとした濃厚さを感じる空気。

 発言は、タナカ社長から始まった。


「今日集まってもらったのは、これまでの報告会や作業内容、各チームとの対応等を考慮した結果から、あなた方二人に対しての今後について伝えます」


 ぁ~、何言われんだろ。今回は、フチガミさんいないから、キツめの内容か。

 続けて、タナカ社長が言われる。


「今後は、株式会社トナリに所属を移し、今やっている資源再利用・活用を目的とした業務にあたってもらいたい」


 トナリ社長が食い気味で話し始めた。


「以前からの会議室での話や資料の内容・見せ方とか見たらね、ま、いいんじゃないかって。この前の出張で言ったあのまんまだよ。ウチに来るかどうかは、二人で決めて」

「この場で決めるんですか?」


 そう質問すると、タナカ社長が答えた。


「明日、返事聞こうか」


 15分もかからない内容の説明だったが、とうとうこの話を言われる日が来たのか。上司の方々は、話し終わると会議室を出て行った。スズモリさんと、顔を見合わせ、んふー、と鼻息が出た。

 旧会議室に戻っても、言葉が出なかった。どちらとも、何と言っていいか分からなかった。良い話なんだろうけど振り回されてる感は、やはり否めない。

 気分転換に、1階自販機に向かい、何人か、並んでいたので待った。その間に、統括部長が後ろに並んでいた。


「お疲れ様です」

「ん、お疲れ」


 挨拶を交わし、飲み物を飲みつつ、統括部長が言われる。


「さっきの話、迷うよね。トナリ行っても、仕事になるのか。音成に残っても、やること続くのか。会社辞める選択肢もある。ただ、音成に残っても、サポ班の補佐程度かも。各チームに入る気ある?それもどうだろうって思うよね」

「私が旧会議室に入ってからは、何か試験的というか実験的な内容だったわけですか?」

「いや、それは無い。トナリ社長の勝手な振る舞いの結果が今のような形になってるから」

「すみません、ワタシは、それに関係していいものですか?」


 スズモリさんが、いつの間にか話に加わってきた。


「あなたの場合はね、経理部での実績と2階に来てからの資料作成や分析力の評価がある。マルタ君とも、うまくやってきてるでしょ。君ら二人は、いろんな所で見られてるから、仲が悪いなら、今回の提案は無いと思う」


 そう言うと、統括部長は戻っていった。我々も、言葉かわさず、旧会議室に戻った。

 終業時刻となり、スズモリさんが声をかけてきた。


「今日、この後、どこか行くんですか?」

「うん、例の場所に行こうかと思う」

「ついてっていいですか」


 会社を出て、繁華街の方に向かった。例の場所、そう、商業ビル内ホームセンターの夜景の見えるベンチ。


「また、ここですか」

「またって、言わないの」


 二人して、ぼんやりと眺めている。すると、私の携帯にメールが届いた。久しぶりに、アカネーサンだった。


「ょぅ、調子はどうだい。問題あった会社は続けているの?」


 ホントに、この姐さんのメールのタイミングは絶妙過ぎる。・・・聞いてみるか。


「ども、です。配属変わって、どうにか、もがいてますが、親会社に移管されそうです。断ることもできるけど正直、迷ってます。どっちに動いても、見通せず。また、同僚もいっしょの移管です」


 返信を待つ間、スズモリさんに、アカネーサンのことを少し話した。第三者の意見も聞いてみようって。

 あまり待たずに、返信がきた。


「時にはね、流れに身を任せてみるというのも大事だよ。それだけの試行錯誤と努力を見られてただろうから。ダメ上司からの異動判断なら、話蹴ってもいいかもね」


 この返信内容をスズモリさんに見せ、『あっ』と呆気に取られる表情をした。アカネーサンには、お礼メールを出した。


「相談役ですね」

「そう、この姐さんって、不思議なタイミングでメールくれてアドバイスを投げてくれる」

「流れに任せますか」

「そういうことなんだろう。二人の社長には給料の話、聞けなかったけど、その段階じゃなかったからね」


 二人して、ふっ、と力が抜けた。


「今後もよろしくお願いします」


 自分から手を出した。


「よろしくお願いします」


 スズモリさんと握手をした。


「あ、これ、この前の手をつなぎたいって続きでしょ!」

「そこまで、気が回る状況じゃねぇよ」


 二人で高笑いした。ようやく笑った気がする。


 流れに任せてみるのか。

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