第21話 お昼ごはんに誘われて

 週明け、出社してみると、旧会議室のドアが開いていた。見てみれば、スズモリさんが先に出社していた。


「・・・お、おは、おはようございます」


 また、元の距離感に戻ったかのような、たどたどしい挨拶。


「はい、おはようございます」


「あの、先日は大変失礼致しました。過去の経緯を知らなかったとは言え、失礼な態度をとっていたと思いますし、一方的な言い方というか、あの、その・・・」


 顔真っ赤にして、何か釈明しないといけないと思っているのが分かる、あたふたさ。それを見て、笑う。


「ま~ま~」


 と落ち着いてもらった。すると、スズモリさんが、また口ごもりながら


「ワタシが、ここに配属された理由を先日お話できなかったのですが、あの・・・」


 言いかけた所で


「朝礼、始めまーす」


 と、集合がかかった。


「また、時間があるときにでも」


 そう声をかけ、朝礼に参加した。


 サポ班からの振り分け作業も一段落して、旧会議室は相変わらず、自らやることを生み出す必要がある。私は、またエプロンをして、パソコンの分解・清掃を始めようとした時


「あの~、それって難しいですか?」


 スズモリさんが質問してきた。


「パソコンの構成って知ってる?」

「分からないです。箱の中に、みっちり部品詰まっているイメージです」


 そんなやり取りから、パソコン部品の説明をして、スズモリさんにパソコンの組み立てをやってもらうことになった。


「時間はあるので、ゆっくり組み立てましょう。慎重さも大事なんで」


 掃除もしながら組み立てをやっているので、窓の方で埃を出していると、視線を感じた。


「ん?」


 隣のビルからトナリ秘書のフチガミさんが、指差しして、何かアピールしているようだった。あ~、スズモリさんを見たことないから、誰だ?って言いたいのかな。


「スズモリさん、向かいのビルの人に手を振ってあげてください」

「誰です、あの人。」

「株式会社トナリ秘書のフチガミさん。多分、その内、絡まれるから覚えてた方がいいよ」

「か、絡まれるんですか?何もしてないですよ?」

「トナリ社長が先かな~」

「例の社長ですかぁ」


 小さく手を振るスズモリさん。大きく振り返すフチガミさん。


「秘書って、暇じゃないと思うんだけどね、ちょいちょい見られてるから。気付いてないと、鏡で光当てられるよ」

「・・・学生じゃん」


 そうこうしてたら、お昼になった。コンビニさんが、忙しそうにしてたので、スズモリさんとお昼を買いに会社を出た。株式会社トナリの前を通った時、入り口から、トナリ社長とフチガミさんが出くわした。


「お、なんだキミか!横の子は誰だ!」


 デカいよ声。


「こんにちは。旧会議室に入られたスズモリさんです」


 合わせて、スズモリさんが挨拶をした。


「初めまして、スズモリと言います」

「あ~、そうかそうか。隣の喫茶店に二人も行かないか?」


 そういうと、ひっぱられながらついていった。特に予定もないから、たまには良いかとスズモリさんと、軽く確認をしあって、『喫茶 象の杜』へ入っていった。


「何にする?社長のおごりだって」


 フチガミさんが言う。


「まぁ、ここの料金くらいならな。この前の小料理屋では、二度とおごらない。」

「接待費で落としたくせに、小さい!」


 親子のような掛け合いだが、猛獣使いだよ。しかし、おごりと言われても気を使う。高い品言えないし。結局、オムライスが3つに、トナリ社長が日替わり定食を注文した。


「最近どうだ、確認作業は?」

「フルタワー等の大きめを扱ってます。今日は、スズモリさんにパソコン組み立ての説明をしてました」

「ほぅ。部品の名前くらいは知っておいて損ないからな」


 フチガミさんが、なるほど!という顔をしていた。


「二人で何やってのか?と思ったら、技術指導ってことだね。いちゃいちゃしてるように見えた」

「ま゛っ!」


 スズモリさんが、オムライスを頬張っていたので、変な声を出した。

 なので、私が


「よく見てますよね。バードウォッチング的な感じでしょ?」

「いえ、業務の一環です。あなた方は、監視下におかれています」

「え、マジですか」


 フチガミさんが、若干まじめなトーンで言うので、思わず聞き返したが、サボってないかは、本当に確認しているようだった。ん?思い出したので、フチガミさんに突っ込んでみた。


「鏡で光反射させるのは、気が散るんですが」

「うん、あれ、いたずら」


 自由過ぎるフチガミ氏。横で笑うトナリ社長。


「あ、そうそう、二人の連絡先を交換してもらってもいい?」


 フチガミさんが言い出した。


「我々の必要ですか?」

「えぇ、秘書やってるので、幅広い交流が大事なんです」


 まぁ、悪いことに使われるわけじゃないだろうから、連絡先の交換をした。


「自分達も、交換しませんか?」


 と、この際だからと、スズモリさんに聞いてみた。


「そうですね、遅刻や急用の連絡とか、他窓口使いにくいですし」


 二人で、やり取りをしていると


「お前ら、連絡先知らなかったのか?あの部屋いっしょにいるのに」


 スズモリさんと顔を見合わせ


「連絡を必要な時が、これまでなかったんで」


 そう返答した。


 トナリ社長が、もっと仲良くするようクドクド言い出したので、フチガミさんが立つよう促して、店を出た。


「ごちそうさまでした」


 皆でお礼を言い、それぞれ会社に戻った。

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