第20話 2次会、カラオケですって
「は~い、そろそろお開きです。2次会は、各々でお願いしま~す」
遠くの方で、声がした。サポ班、エース長官、スズモリ氏の陣営に阻まれ、どうやってもカラオケに行くことが決定事項となっているようだ。
お店の外に出て、『お疲れ様でした~』という挨拶の後、それぞれの目的の地に向かう。いろんなお店の看板を眺めていると、マイコーさんが、ボソボソ言っている。あれは、予約電話じゃないのか?
「じゃぁ、行こうか」
良い声で、皆を誘導するエース長官。何気なく横を見ると、スズモリさんがいた。
「大丈夫、酔い塩梅は?」
「はい、一旦落ち着いてます」
と、呂律が安定している。次の場所で、どう変化するか怖いが。
皆に合わせて歩いていたら、来てしまった、カラオケ店。歌うのは、どうしても緊張するんだ。誰も聴いてなくてもね。案内された部屋に入り、飲み物を注文して、私は、存在感を消すことに集中した。
「マルタさんは、何歌います?」
スズモリさん、なんか打ち解けたの~?しっかり隣にいるじゃないの。
「歌うの苦手なのよ」
そう答えたが、何か企んでいる笑顔のスズモリさん。すると、始まってしまった、マイコーライブ。マイコーの奇声が強めの今日は、何曲連続だろう?ぼんやりとレモンサワーを飲んでいると、選曲用タッチパネルを差し出される。
「今の気持ちを歌いなさい」
あまり聞かない低音のサワコさんだった。あ、これマジなやつだ。歌わないとダメだ。
まず、落ち着いてしっとりとした女性歌手の曲を歌った。なんか、しんみりとさせてしまった。
「いや、大変だったもの。アナタそうだよ」
歌詞を察してマイコーさんが語る。次に誰も曲を入れなくなる。
「どうすんの!次何入れていいか分からなくなったでしょ。マルタライブだ!」
さらに、マイコーさんが、ふっかけてくる。あぁ、場の空気を変えればいいのか。なので、一昔前のロックな曲を絶叫してみた。・・・なんか、良かったみたい、コンビニさんが、うなずいてたんで。
「次だ、次!」
何かやらないと、ダメな感じのマイコー・コンビニ両名の圧。サワコさんの横には、エース長官。また視線の熱いスズモリさん。
「ワン・ツー・スリー・ホー♪」
かなり無理して、日本のメタル曲を歌ってみた。ヘトヘトになるさ、そりゃ~激しいもの。席に戻り、レモンサワーを飲んで、メガネを外し、おしぼりを目元にかけた。
「おら~、次~」
と、マイコーさんが言うので、メガネを持ち上げ、上下に動かし
「本日は終了しました」
そう伝えた。メガネ族は、こういう時にメガネに言わせるという特典がある。いや~、休憩したいよ。
「なんか、伝わりました」
隣のスズモリさんが言った。
「おぉっと、マジっすか」
そう、答えた後に、こんなことも言ってきた。
「なんで敬語なんですか?」
「職場の人だから、敬語・タメ口使い分けるのが面倒で、敬語に合わせたら無難かなって」
「私には、普段通りに話してください」
「なんで」
「距離が遠く感じます」
そう言われたら、そうかもね。よそよそしさが、敬語・丁寧語にはある。その距離感が必要な時と仲間意識が感じられるようになった時は、自然なやりとりが大事か。なので、こう答えた。
「少しずつ、自然な感じになるんじゃないの?」
スズモリさんが、『にっ』と笑ってくれた。コンビニさんとマイコーさんも
「そーだぞー」
と、目が座った状態で指さしながら言っている。
その後、何度かトイレに行って、まったりして歌わずに済むか、気配を消していた。
「マルタさ~ん、この先どうするんですか~」
再度、出来上がったスズモリさんが、ねっとりと絡んできた。
「何の、どの先を目的とした話さ?」
「あの倉庫みたいな所で、動作確認で終わっちゃうんですか~?」
あ~、答えにくい。終わる気はないけど、仕事って、やりたくなくてもやらないといけない事が多いし、雑務が実は重要だったり、この酔ってる状況で、どう伝えられるもんだろうか?
「今の環境はね、そりゃ正直窓際族だよ。ただ、辞表受理されなくて、出社拒否することもできるけど、騒動に巻き込まれて、会社来ないって負けた感じがしてね。あの旧会議室で、サボり続けることも負けだろうね。何が勝ちかそんなもん分からないけど、まだ動くのに使われない機械達を別用途で再利用することで、ちょっと周囲を驚かせたらそういうのが、案外面白いのかなって。会社の利益になるかは、それもまた分からないけど、悪あがきして、去るのもいいんじゃないの?」
少しガラガラした声でゆっくり話すと、スズモリさんだけでなく、他の人達も黙ってしまった。また、変なこと言ったよな。
「この前の説明会、独特で良かったよ。手探り感があって」
エース長官なりの感想だろうけど、少しは伝わってたんだ。
「やれば、できる子」
サワコさんが言う。他、サポ班も口を揃えて言う。なんか、気恥ずかしい。そして、スズモリさん、無言の肩パンチ。
変な空気のまま、時間となり、皆、解散となった。お酒の席だから、容赦してくれないかな。
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