第31話 ジャージパーティー

 風呂上がりのスズモリさんは、以前と同様、ジャージ姿だった。


「どうぞ、入って」

「ジャージで、お邪魔します」


 お互いに飲みたい物を持ち寄り、改めて乾杯。普段見ることのない、他の地域のテレビ番組をBGMにしながら、今日の疲労を称え合ってた。たまに、外を眺めたり、テレビ内容にあれこれ言ったり、気兼ねなく会話した。本題はまだ。


「この階からの夜景はイマイチですね」

「夜になったら、見え方変わるかなと思ったんだけどね、光の見え方が良くないね」


 そんなことを話しながら、自分から、今日の重要な話をぶっ込んでみた。


「トナリへの異動、どう考える?」

「本題ですよ、あっさり乗っていいものやら」

「確かに、旧会議室でこのまま社内にある確認作業だけでは、数ヶ月で目処が立つ。それから先、何するか」

「相変わらず指示はないし、フリマやオークションに売却参加は許可がおりないでしょう。飼い殺しみたい」

「トナリの話にあっさり乗っても、まだ給料とか待遇面が分からないから、答えようがない」

「音成で、他部署に異動できても、偏見がつきまとう」

「では、辞表出して、新たな職場を選ぶか・・・」


 お互いの我慢していた葛藤をさらけだした。トナリ社長の誘いをあっさり飲めないのは、これまでの職場の人に振り回されたり、巻き込まれた経験が、信用していいものか警戒心が最大限に働いているからである。

 スズモリさんが、またいい塩梅に酔いだして、プチシューを食らっている。酔っている時に、本音を言ってからしらふになったら、ドン引きされた体験もあるので、言うべきか、言葉に迷っていた。


「何すか、何考えてるんすか」


 口を真一文字にして、スズモリさんを見ていた。


「言ったら、どうですか~」

「ん。トナリ社長が、自分だけを引き抜こうとしたんなら、会社辞めるって言っただろう。スズモリさんもいっしょにどうか?と言ったから、株式会社トナリに移ってもいいんじゃないかって、考えもある」

「ワタシは、あの部屋で何も出来てないでしょ」

「何言ってんの、持ってる技術と知ろうとしてる知識欲、そういうのを出してくれるから、スズモリさんがいるならあのトナリ社長の元でも、踏ん張れるかなと思うんだよ」

「そう思ってたんですか。へ~」


 ニヤニヤしながら、こっちを見てくるスズモリ氏。何言ってくるか、すげぇ怖い。


「なんか、告白された感じです」

「本音だから、告白と言われたら、そうかもね。それが仕事の話だけど」

「はい、色気ないです」


 トイレに入る、スズモリ氏。自分の部屋のトイレに行けばよかろうに、酔いで羞恥心とかないのか?


「は~、マルタさんの告白で、尿意がきました」

「そういう報告は、ナシの方向で」


 水をがぶ飲みするスズモリ氏。ふらふらとベッドに横になる。


「寝るなら、部屋に戻りなよ~」

「面倒くさい」

「なっ、この子は」


 寝る前に、起こしてしまおうと近づくと、腕を引っ張られ、添い寝の状態になった。


「ワタシも、すごい考えてるんです。音成にいても噂が残り、辞めても何すればいいか分からないし、トナリは未知数だから、不安で仕方ないんです。マルタさん、ワタシ必要ですか?」

「だから、必要だって。大事だよ」


 そう答えた後、す~っと寝入るスズモリ氏。そろりと抜け出し、シーツを掛けて、私は後片付けをした。飲みかけ、食べかけの物が机の上に置いてあるし、テレビや照明もつけっぱなし。なるべく静かに音を立てぬように。

 そして、私は、机の下に、小さくなって寝た。


 やがて、朝になっていた。

 背中を突かれるので、身をよじると、スズモリさんがいた。


「なんで、この部屋にいるんですか?」

「他人の部屋で、寝たのは誰だ?」


 しばらくの沈黙の後


「申し訳ありません」


 早朝謝罪である。まだ、日が大して昇ってないし、目覚ましも鳴ってないので、また机の下で寝ようとした。


「ベッド使ってください」


 また腕を強引に引っ張られ、投げられるようにベッドに巻き込まれた。


「んだよ~」


 そこから気を失う。というか、眠気に勝てず。

 しばらく時間が経ち、体が痛くて、寝返りをうつと、何かにぶつかった。目を開けるとスズモリさんがまだいた。


「何してんの?部屋に戻ったんじゃ?」

「なんか面倒になって、シーツで襲われないようにしながら寝ました。添い寝じゃないです」

「んなぁ」


 また、眠りに落ちた。

 携帯アラームが鳴っているので、起きた。横を見ると、まだスズモリさんがいて、スヤスヤ寝ている。しかし、起きる時間設定を忘れてしまい、トナリ社長が市場で朝食食べて戻っても、2時間くらい余裕がある。まだ寝るかそう思って、ベッドに寝ようとした時


「なんで、この部屋にいるんですか?」


 またですか。


「それ2回目の質問です。ここは誰の部屋でしょうか?」

「あ゛」

「はい、うたた寝の時間です。おやすみなさい」

「いや、起きましょう。うたた寝は、確実に寝坊します」


 無理やり、叩き起こされる。


「ワタシは、部屋に戻って、身だしなみを整えてくるので、30分くらいしたら、こっちで朝食です」


 なんだよ、もう。

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