第30話 打診

 トナリ社長が、フチガミさんに言った。


「ホテル近辺の焼肉店に予約を取れるか聞いてみて」

「はい、分かりました」


 我々もお店検索に協力した。トナリ社長が希望した、お高い焼肉店が軒並み満席で予約取れず。しぶしぶ、帰る。一旦荷物を置いて、また1階に集合。フチガミさんから、案内があった。


「この近くにある居酒屋個室を予約しました。社長が奢ってくれるそうです」


 疲れているので、そそくさと移動。『酒処 茂吉』というお店で、案内された個室に入った。名前と合わない新しいお店で、良い畳の匂いがした。店内の壁も黄ばんでなくて、照明がすごく明るめ。

 おしぼりで手を拭いていると、メニューをトナリ社長が渡してきた。


「目についた肉料理を頼んで」


 すごい頼み方。肉を食べたい口になっているから、それ以外、求めてない感じだ。

 まず、飲み物が届き、まず乾杯。社長挨拶も無く、一言『乾杯!』だけ。疲れてるし、喉乾いたし。少しずつ注文した料理が届き出す。サラダ、枝豆、タン塩焼き、鉄板ステーキ(牛×2、豆腐)、鶏の唐揚げ、焼き鳥さらに、社長用に鶏もも山賊焼きを選んでみた。

 元気な人って、よく食べるし、肉を好むんだ。だから、社長の食いっぷりはすごかった。野菜を取らず、肉、肉。


「こら、野菜食べなさいって、いつも言ってるでしょう!」

「青汁飲んでるから、いいだろう」

「足りない!」


 トナリ社長とフチガミさんのやりとりだ。


「親子みたいですね」


 何気なく言ったら、意外な言葉が返ってきた。


「そりゃ、そうだろ。別れた妻の子だから、娘だ。聞いてないのか?」

「誰から聞くんですか・・・。あまり似た特徴がないんで」

「母の血が強いから、オレより背も高いし、再婚相手の名字だからなぁ」


 ほろ酔いのフチガミさんが、私にピースサインをして笑っていた。


「フチガミさん、カワイイ~」


 すでに、出来上がったスズモリさんが、ヘラヘラしながら声を出した。

 ある程度、肉に満足したのか、トナリ社長の表情が変わり、おだやかになった。


「マルタ君は、今も、あそこでパソコンいじってんの?」

「はい、メンテナンスしながら、利用方法ないかな?と考えたり、他の方から、パソコン設定頼まれたり」

「スズちゃんは、その時、何してんの?」

「ワタシは、動作確認後の部品の詳細をデータベースに入力してます。メンテもマルタさんに習ったりしてます」

「そうか~、自分達でやってんだよね~」


 少し沈黙があって、ぶっ飛んだことをトナリ社長が言ってきた。


「株式会社トナリの横に、平屋の社屋がある。あれもウチ所有なんだけど、今倉庫になってる。あの場所で君達二人が、株式会社トナリの新しい部署として使ってみるか?」

「何をやるんですか?」

「今やってる使用済みの機械を活用するも良し、売るも良し。ただ、ちゃんと売上を出すこと。離れた場所にまだ倉庫があって、すごい在庫かかえてんだよ。他社の付き合いで、回収した古いパソコンもあったと思うが、いつまでも、そのままって訳にはいかない。君らも、そうだろ?あの狭い場所で、いつまでやるんだ?メンテナンスが専門の店で働いているなら、それが仕事だが、音成の業務ではないだろ」

「はい、確かに、それは考えてました」

「今すぐに決定ではないけど、こういう話があることも覚えておきなさい」


 一気に酔いが覚めた。スズモリさんも、背筋が伸びていた。

 フチガミさんも続けて言われた。


「この話は、音成の報告会を聞いて、出ていた話なんだよ。単なる興味で参加してたんじゃないよ」


 秘書であるフチガミさんまで言うと、信憑性が増す。

 何か言わなきゃと思っていると、スズモリさんが先に答えた。


「お話は大変ありがたいです。考える時間を頂けますか?」

「そりゃ、もちろん。強制ではないから」


 トナリ社長が、そう回答した。緊張感があったからか、各々飲み物を飲みだした。


「ん~、明日朝早いから、そろそろ出るか」

「どちらに行かれるんですか?」

「早朝市場で朝食。5時だが、行くか?」

「すみません、遠慮しておきます」


 多分、今日眠れないから、起きられないよ。スズモリさんも、不参加を伝えた。


 ホテルの部屋に戻り、酔いが覚めてしまったので、コンビニ行こうかと考えていた。その時、ドアをノックされた。開けてみれば、スズモリさんが立っていた。さっきの話を言われた、気にもなるからね。


「どしたの?」

「コンビニ行かねぇっすか」

「行くべ」


 使い慣れない言葉をお互いに言い、コンビニまで降りていった。相変わらずの混雑するコンビニ店内。お酒、水、少なめのお菓子、プチシュークリーム、朝用のパンと選んだ。疲労があるからか、甘いものがとても欲しい。お互い欲しい物を買い、部屋に戻ろうとした時、私から、ちょっとお願いをした。


「20分くらい待ってもらっていい?シャワー浴びたい。さっぱりしたい」

「同感です。後ほど、そちらに伺います」


 いや、まぁ、風呂上がりの方が、より酒がうまい。相乗効果です。

 汗を流し、ジャージに着替え、すっきりした。また、飲める。ドアのノック音がした。なんか、もじもじしながら、『早く部屋に入らせろよ』というスズモリさんがいた。

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