第23話 二人で動く
報告会で、何の反応もなく、旧会議室内でモヤモヤし、二人して若干落ち込んだ。終業後、スズモリさんと二人で繁華街まで歩くことにした。この感じは、私が、旧会議室に異動したての気持ちと似ている。沈黙のまま、歩いた。
ついた場所は、商業ビル内ホームセンターの夜景の見えるベンチ。スズモリさんの飲み物も買って、二人座った。
「なんで、ここなんですか?」
「自分が、旧会議室に送られたその日、打ちひしがれて、夜景眺めて、まどろんだ場所」
しばらく沈黙があり、ただ、眺めていた。
「飲み屋もいいんだけどね、夜だから映える照明が多く見えてね、余計なことを考えずに済むんだよ」
また、外を眺め、黙ってしまう。でも、溜め込んでいた言葉が出てしまう。
「今日みたいな感じだと、そろそろ会社出てもいいのかなって思うよ」
スズモリさんが黙って、私の方を見る。何か言いたげだが、どう言っていいか分からないよな。
スズモリさんの着信音が鳴った後、私の携帯も鳴った。『?』二人の表情は、こんなだったと思う。
「フチガミさんからメールが着て・・・」
「え、こっちもフチガミさんから着てるよ」
内容は、こうだった。
「旅行用のお泊りセット用意しといて」
トナリ社長との旅行か?行かねぇよ。意味分からないし。
「どうします?」
「旅行用って何?ハブラシ類は、宿泊先にあるんじゃないの?でも、そういうのがいるって事よねぇ」
理由も分からず、同じビル内ホームセンターに移動し、二人して選ぶ。
「このぬか床セット、旅行にいりますか?」
「あ~、毎日混ぜないとね。旅先に持ってって良いぬか床大事にね。って、漬けんの?」
妙なやりとりを織り交ぜつつ、フチガミさんの指示にしたがっていた。
数日経って、旧会議室に統括部長が入って来られ、ドアを閉めた。なんとなく、身構えた。
「え~、二人には出張をお願いしようかと思う。隣県でリサイクル関連の企業が集まる展示会があるので、そこで資料もらったり、説明聞いたり、調査してもらいたい。どうかな?」
「二人で向かうということは、企業数が多いってことですか?」
「30以上は出展する案内だけど、全部が目的じゃないからね。手分けする必要もでてくるだろう。予定としては昼くらいから移動しての前乗りで、朝から展示会に参加して、帰社する予定。天候次第で予定が変わるかも」
二人して顔を見合わせる。
「何か問題が?」
私が先に質問した。(本当は違うことを聞きたかったが)
「参加許可証とか我々の名刺はあるのですか?」
「許可証は、今回自由参加で出入り自由だから不要。名刺は、部署がないから作らない。何か理由を言って対処して。また、出張予定日は来週だから、考えといて」
統括部長が旧会議室を出られ、向かいのビルを見たら、フチガミさんが手を振っていた。トナリ社長が一枚噛んでるな。少しイラついたので、フチガミさんにメールを出した。
「急に出張を言われました。先日の『お泊りセット』はこの事ですか?」
「今後の仕事につながると思う」
メール内容を見せて、スズモリさんといっしょに眉間にシワを寄せる。フチガミさんから見えない位置に移動して小声で話した。
「どうするよ、これ」
「会社命令でしょ。行くしかないんじゃ?」
「何、気分転換の小旅行?」
「前乗りの夜が、荒れそうですね」
「展示会の情報調べて、効率よく周り、早めに食を楽しむに切り替えとか」
ごにょごにょと、隠れて会話する。なんか、ずいぶん距離が近くなったな、スズモリさんとは。
そのまま、統括部長に『出張に行きます』と伝え、必要な物は事前に届く説明を受けた。
出張当日、ちょっとした荷物を持って出社。旧会議室内にいるが、指示されてやる業務がそもそもないので、どうやって時間潰していいか、正直迷う。パソコンパーツの確認作業は、自動処理で行うので、5時間くらい放置だから、出発時間と被ってしまう。どうしたものか。
ノートパソコンの前で、にらめっこしていると、スズモリさんが椅子を動かしながら近づいてきた。
「何やってるんですか?」
「どうやって出発時間まで仕事やってる風に見せるか、考えてる」
「仕事しろよ」
ニヤニヤしながら言ってくるので、思わず
「 お だ ま り 」
と返すと、さらにニヤニヤされた。
「しかし、どうするのよ。もう出発しちゃう?」
「行きの新幹線は乗れても、ホテルのチェックインまでの時間がありますよね」
「ぁ~、新幹線は1時間ちょっとで着くから、結局暇なのか」
「駅とホテル周辺の地図でも見ましょうか」
こういう事やってると、我々の会社での存在ってなんだろうと、思ってしまう。
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