第26話 報告と打診

 2階の社員が出張土産等、差し入れを置く場所がある。2階入り口の右側に『ご自由にどうぞ』の張り紙があり欲しい人が自由にもらっていくシステムだ。各社員に配って回る会社もあったが、食べない人も案外いるし時間かかるので。我々二人も、駅で買った有名銘菓を置いていると


「お、修学旅行から帰ってきたか」


 よく知らない社員にイジられる。つくづく思う。こういう時のうまい返し方が一向に思いつかない。

 なので、とりあえず


「遠足、楽しかったです」


 どうにか返してみる。スズモリさんが、ニヤリとしたので良しとしとく。

 次に、こそこそっと、サポ班に近づき、別途用意した品を配る。コンビニさんには、隣県限定っぽいお菓子をそっとお供えしてみた。


「あ~、これね、隣県だけでなくて、その地域限定で~(略)」


 さすがにコンビニ好きなので、すでに情報がある。その話も若干長かった。


 旧会議室に戻り、資料やパンフレットの確認、撮影OKだった展示ブースの画像を取り込み等の作業を始めた。

 さっそく、統括部長が顔を出され


「出張の内容を昼以降に聞くから、まとめといて」


 一言言われ、去っていかれた。


「泊まったホテルの部屋も印刷しますか?」

「安さが爆発してたからね。でも、部屋の作りとか知ってるんじゃないの?」


 と、二人してボヤく。


 さて、報告会の時間。今回は、大掛かりな移動はないものの、ノートパソコンで展示会の写真をスクリーンに表示させる程度。パンフレット等資料も、現物を回し見してもらう。

 今回の参加メンバー、統括部長、タナカ社長、トナリ社長、フチガミさん。暇なのか、トナリ社長・・・。


「では、始めます。今回、隣県で行われました、リサイクルや環境保全を目的とした展示説明会の調査・報告です」


 企業数やどういった種類のリサイクルか、現在の主流、各ブース担当者の印象等、二人で分担していたので、交互に報告発表を行なった。


 トナリ社長が質問された。


「活気のあった企業は?」

「アジア圏の企業が、説明会参加希望が多かったように思います。やはり、人件費・輸送費の質問が多かったです。また、国内の地元に根付いている中小企業は、今後の取り組みや法制度が整えば可能な話をしておられました」


 その国内企業のパンフレットを渡した。


「ぁ~、ここね。取引先だわ。汗っかきのおっちゃんいただろ。あの人ゴルフうまいんだ」

「はい、おられました。扇風機持参で風を浴びて」


 今回は、穏便に済みそうと思ったが、終わり際に、タナカ社長から変なことを言われた。


「来月には、全国規模のリサイクル企業の展示会がある。また、二人に行ってもおうかと思うが、どうだろう?」

「宿泊先が前回よりも安心できる場所なら」


 そう答えると、統括部長が吹き出した。知ってたな、あの安ホテルの現状を。


「そうなの、展示会場と宿泊先の交通機関の使いやすさを考えてから、宿泊先を検討するよ」


 タナカ社長は、前向きな言い方をされた。

 続いて、トナリ社長が、こう言ってきたんだ。


「次は、規模が大きいので人手がいるから、私らも行く。こっちに同行する形だ」

「はい、分かりました」


 表情に出ないよう、すごく気持ちを押し殺したが、声を大にして『なんでいっしょだよ!』とツッコミたかった。また、スズモリさんが、自分の右太ももに、小さくパンチした。気持ちは分かる。でも、痛ぇ。


 どうにか、無事報告会が終わり、旧会議室に戻る。もちろん、次の出張の事で、あれこれ話をする。合同出張する意味がなんなのか?そもそも、株式会社トナリの社員が行かないのか?等々。

 その姿が見えたからか、フチガミさんからメールが届く。


「この度の出張は、無理言って申し訳ないです。トナリ社長が業種を手広くやってるので、コッチの社員が足りないので、お二方にお声がけ致しました」

「お疲れ様です。出張の件、分かりました。また、打ち合わせ等でお話しましょう」


 そつないお返事を出した。窓の外を見れば、フチガミさんが手を合わせて『ゴネンネ』とジェスチャーをしていた。秘書だからこそ、そういうフォローをたくさんやってきてるのだろう。あの社長だもの、強引な事多いはずだろうね。


 旧会議室では、二人して、出張予定の展示会情報をネット検索していた。たまに、パソコンパーツの自動検査を見たり、設定したりは、相変わらずだ。

 スズモリさんが、ぽそっと言う。


「ワタシもエプロン買おうかな」

「これから買うなら、電磁波防ぐエプロンってのもいいかもね」

「え、そんなのあるんですか?」

「色や種類の数があるか分からないね。通販が主かな?」


 そんなやり取りをしていると、マイコーさんがノックして入ってきた。


「ちょっと聞いた?大事件だよ」

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