第3話 取引先の社長

 『なんだよ!』と思った強引な主任代理就任から早1ヶ月。名ばかり役職は確かにそうで、サポ班は、サポート業務であるので、すごく責任ある役割はない。作業工程の管理は、そもそもサワコさんが主導だったので、相談しながら業務ができる。まぁ、厄介なのは、相変わらずのモジャ夫のちょっかいか。


 ある日、統括部長から呼び出された。


「話し合いあるから、1Fの受付前ソファーに来てくれる?」


 観葉植物で囲まれた来客待合場所のような空間。ロビーと言われればそういう場所か。いつも通るだけで座ることがないので、景色が違って見える。


「待たせたね」


 統括部長が見えられた。


「2階の会議室が予約されてて使えなくてね。聞かれても支障ない話なので、ここでいいだろう」


 前例があるので、統括部長と対峙すると異動話かと身構える。何を言ってくるのか・・・。


「新人が1名入ることになって、サポート班に置くことになった」

「人増やすということは、サポ班が忙しくなるってことですか?」


 そう質問すると、統括部長が若干、言いにくそうにため息をついた。


「3Fの総務部長の娘が、就職先探してて、コネ入社だそうだ」

「あらまぁ」


 思わず、声が出た。

 どういう人物なのか聞こうとした時、見知らぬ男性が近づいてきた。


「おい、調子はどうだ!」


 ビリビリと耳に響く大声で、統括部長に挨拶をしている。私が呆気にとられていると


「何だ、新人か!」


 威圧されてるわけじゃないが、無駄にデカい声で話しかけられる。さっと立ち上がり


「サポート班の主任代理をしております、マルタと申します」


 と、無難な挨拶をする。


「あ~、そうか、そうか。がんばれ、がんばれ」


 同じ言葉を2回以上繰り返す時は、『どうでもいいんだよな』と自分の経験から学んだことを思い出しながら、その場をやり過ごす。

 しかし、話が長い。情報交換というより、一方的にガーガーとその男性は最近の実績を話して、どれだけすごいかを話しているようだった。部長職でも、相手先には腰低くしないといけない見本を表しているようで、相槌が慌ただしく、統括部長の緊張が見える。

 男性が去ってから、統括部長が教えてくれた。


「あの方は、取引先の株式会社トナリの社長だよ」

「いかにも社長って感じですね」


 統括部長と顔を見合わせると、ほんの数分のやりとりで、ひどく疲れた表情にお互いなっていて『へっ』と単発笑いが出た。

 話が中断したので、改めて質問した。


「総務部長の娘さんの事前情報ってありますか?」

「特に伝わってないんだよ。履歴書がこちらまで回ってこないし、会ったこともないからね。ただ、総務部長は丁寧な仕事をする人。だから、娘さんも、そうであって欲しいね」


 総務部長の娘さん情報がないので話が終わり、その後2階に戻って、サポ班で人が増えることを伝えた。


「すみません、サポ班の皆さんにご連絡があるので、集まってください」

「良い話?」


 サワコさんが聞いてくる。


「正直、分からないです。不鮮明なことがあるので。サポ班に1名人員補充されるそうです」


 3人さんが、ちょっと険しい顔をする。


「統括部長のお話では、女性と伺っています。ぇ~、総務部長の娘さんという情報です」

「あの総務部長の娘?」


 マイコーさんが、何か知っているような言い方をする。


「ご存知ですか?」

「娘は存じないけど、総務部長は親切な人だよ。細やかと言ったらいいのかな」

「そうなんですね。座席の位置、どこにしましょうか?」


 座席は、マイコーさんの隣。サワコさんの隣(以前、私がいた席)は、作業依頼の資料が積んであるためヘタに触らず、片付けが簡単に済みそうな場所が選ばれた。


 2階の旧会議室には、中古パソコンが置いてあるため、使えそうなものを取り出し、私が掃除・設置・動作確認をした。他の人達は、パソコンの機械的なことは分からないと言っていた。実際、そういうもんだよ。各種ソフトは使えるけどOSは分からないっていうのも多い話だし。しかし、旧会議室に初めて入ったけど、すごい数のパソコンだったな。マニアが喜ぶ古き良き品っぽいのも見えたし。


 その後、統括部長より、明日から総務部長の娘が出社する事が、改めて伝えられた。

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