第2話 主任代理とタマゴ

 主任代理の任命があって、主任席に座るようになり、サポ班の女性3人が、なんとも、からかいたそうにニマニマと微笑を繰り返す。


「代理ぃ~、ハンコ押しちゃってくれます~?」


 コンビニさんが提出書類を持ってくるが、言い方がうざい。


「ここのフォントが指定と違うので、やり直してください。あと、印刷範囲ハミ出してます」


 そっと返してみた。キーッとなるコンビニさん。赤ペンで校正すれば良かったか?こういうやり取りしつつもサポ班は、会議での発表等、大勢の前でしゃべる機会がないので、気分的には、まだマシなのかなと思う。ただね、急に主任席に座っているもんだから、各チームの人々が見ている。気にし過ぎ、そう言われればそうかもしれないが、Cチームリーダーは確実にそうだ。


 Cチームリーダー、通称モジャ夫。昭和世代のおばさんがしていたようなモコモコしたパーマをあて、ドリフコントのカミナリ様に似た風貌。サポ班に作業依頼をする際、何か気を引きたいらしく、話が長い。『なんでこの人会社に在籍できるのだろう?』どの会社にもいるいい加減な社員。


「主任代理君、調子はどうかね?」


 ねっとりした気持ち悪い触り方で、私の左肩に手を置いてきた。


「気持ち悪いんで、触らないでください」


 そう答えると


「またまた~」


 他人が嫌がってるのを分からない人種か。もしくは、普通に嫌がらせ。面倒だな。


 サポ班の作業依頼も業務やチームリーダーによって個性が分かれている。

・Aチーム

 音成環境設備の営業部であり、優秀な人が揃っている。特に仕事のできるリーダーは『Aクラスのエースな存在』と揶揄されるほど、評価が高いので、エース長官と呼ばれている。


・Bチーム

 Aチームが契約を結んできた取引先の窓口や相手先に常駐する現場対応のチーム。

普段会社にいないため、顔と名前が一致しない。


・Cチーム

 必要な資材等を揃える調達チーム。特に数字(数値)が重要になっていて、サポ班への作業の精密さを要求される。


 作業依頼が一番多いのは、Cチームで、どうしてもモジャ夫との絡みも多くなる。だから、高確率でストレスが溜まるので気分転換が必要だ。


「うぃ、マルタ君よ。コンビニについて参れ!」


 昼の時刻、コンビニさんが声をかけてきた。新商品チェックだろうなぁ。しかし、気分転換にはちょうどいい。昼飯も買わねばならないし。

 会社を出て、右方向に進むと5分くらいにあるコンビニ。当然ながら、人で混雑している。コンビニ隣には歴史あるいい感じの古い喫茶店がある。そちらも行きたいんだが、目を輝かせ新商品のデザートを品定めしている人がいっしょなので、また今度か。

 会社の昼休みって、社内から出ない人、外に出る人さまざまだけど、この会社近隣には、コンビニ、喫茶店と公園もあるし、繁華街からちょっと離れているから、この静かな時間が取れそうだな。一人の時間が取れるかどうかで、精神疲労が全然違うんだよ。


「戻るよ~」


 コンビニさんの会計が終わり、会社に戻る。


「マルタ君の会計早かったけど、何買ったん?」

「今日は、タマゴサンドとタマゴロールです」

「タマゴづくしか!」

「それしか、残ってなかったですよ」

「ついでに、温泉卵を買えば、モアベターだ!」


 社内でも、タマゴいじりがしばらく続いた。


「サワコさん聞いてよ、マルタ君はタマゴで出来てるんだよ」

「肌の質感も、ゆでタマゴのようにつるんとしてるのは、そのせいなんだ」


 サワコさんまで乗ってきたか。


「湯上がりタマゴ肌じゃないですよ。それなりに、たるんでますよ」

「タルタルソースの材料は、タマゴだから、タルんだか」


 マイコーさんの絡みが、冷ややかな風を運んだ。


「ゆでたまご食べながら、何言ってんですか。私といっしょにタルみますか」


 拾わないと失礼かと思い、スベった話にちょっと絡む。


「お、言うか!ゆるんではいるが、タルんでねぇ。それ以上、コンビニさんへの批判はダメだぞ」

「そうそう、財布の紐がゆるんで、コンビニスイーツでタルんで、このボディ。ふふん」


「んごふっ」


 見事なドヤ顔なコンビニさんの表情を見て、吹き出しかけるサワコさん。平常運転だ。


 このお3方の掛け合いや連携って、すごいなと改めて思う。お互いの持ち味がちょうどよいバランスなので嫌味もトゲトゲしくならないんだ。雑談の中で、憂さ晴らしの飲み会をやっているような話は聞いたけど、どこかで発散場所があるからなのかもな。

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