第7話 激怒

 次の日、朝から、そー娘に確認をした。


「昨日中に提出するAチームの資料は、どうしたの?」

「あー、だって、主任代理が行方不明になってたから、やっておきましたよ」

「誰に確認を頼んだの?」

「赤丸を書き直すだけなので、ばっちりです」


 あぁ、不安しかねぇ。それを察したマイコーさんが、ぼそっと言う。


「『マルタ ライブ開催決定』だな」


 キーッ!野外で雨天決行だ。


 昼休み、コンビニさんに『マルタ ライブ』の予定をいじられた。その時までは、平穏だったかも。



午後の作業をしていると、内線電話が鳴った。エース長官が慌てた様子で、私を呼ぶんだ。


「1Fの待合いロビーに大至急来い」



 急いで行ってみれば、統括部長、エース長官、そして株式会社トナリ社長がいた。


「お前か、この資料作ったのは?」


 トナリ社長が、威圧感たっぷりで聞いてきた。


「拝見してもよろしいですか?」


 まず、見ないと何とも言い様がないので確認した。


「この資料は・・・」


 一気に顔が青ざめ、寒気がした。昨日のそー娘に作業を依頼した書類が未修正。しかも、主任印が押してある。


「どうした、言ってみろ」


 低い声でトナリ社長が聞いてくる。


「すみません、この資料は修正前のもので・・・」


 ま~、その後は怒鳴る、怒鳴る。『こんな資料は、新卒でも書かない』とか、罵倒が続いて自分は立ったまま、謝るしか今は出来ないので、『すみません』『申し訳ありません』の繰り返し。


 未修正資料をぐしゃぐしゃにして投げつけられ、一言添えられた。


「お前は、クビだ。辞めてしまえ」


 よその社長が『なんでそんなこと言うのだろう?』と疑問だったが、歯を食いしばって耐えた。


 トナリ社長が帰り、固まったままの私に統括部長が言った。


「2階 会議室に来なさい。状況説明を聞くから」


 そのまま、会議室に入り、統括部長、エース長官に対して、説明を始めた。


・昨日、エース長官から作業指示を受け、そー娘に資料の修正を頼んだ

・そー娘の修正が不十分だったので、赤ペン修正を入れ再度修正

・再修正の確認は、私に渡されていない


 このことを伝えると、エース長官が動き、そー娘を呼んできた。事実確認をすると淡々と話始めた。


「見た目間違っていないのに、赤ペンまで入った修正を言ってくるのは、嫌がらせだと思いました。なので、印刷し直した資料に主任代理の引き出しから『主任印』を取り出し、押しました」


 頭をかかえる統括部長とエース長官。この沈黙の時間が、とても重苦しく、喉が詰まり、息ができない。

 統括部長が重い口を開いた。


「この資料が取引先に提出されることは、理解できるかな?誤字だらけで信用できる?」

「だったら、他の人が修正したらいいじゃないですか」


 そー娘、この期に及んで、状況が理解できないんだ。だから、悪びれもせず、詫びる気持ちもないわけだ。仕事を任されることの意味も分からないんだ。

 そんなことを思っていると、急に会議室に入ってきた人がいた。


「社長!」


 統括部長の声が思わず出た。この人が社長なんだ。初めて見たな。面接では、人事部長だったし。しかし、状況悪化だ。もっとひどくなるぞ、これ。


 統括部長が、これまでの経緯を説明した。一つため息をした社長が話し始めた。


「トナリ社長から、お叱りと抗議の電話があった。マルタ君の処遇は、即決定しないが、状況は、かなりマズい」


 弊社社長が、私の処遇に対して、よその社長の態度を気にするって、どういうことだろう。緊張で頭痛はするし吐き気もする。なんだよ、この状況は。



 気付けば、終業時刻になっていた。とても、視界が狭い。自分の足元しか見えないし、周囲から見られていることはなんとなく感じるが、とにかく、この場から離れたい。今日、残業したところで、作業ミスしか出来ないよ。

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