第16話 こういう酒の席もあるのか
初めてのお店の個室。木のいい香りのする部屋で座ってみれば、見える景色が、タナカ社長、トナリ社長、謎の女性の配置で、左を見れば、総務部長、統括部長、私。もちろん、下座に座っておりますよ。緊張しすぎて変顔作りたいくらい訳の分からない状況なのです。
個室だからか、仲居さんのような専属の店員さんがスタンバイされ、瓶ビールで注がれる。あら、お高いビール。目の前にいる女性は、こちらを見てニコニコされているが、はて?じっくり見るわけにもいかず。その間も、続々と料理のセッティングが行われている。
トナリ社長がグラスを持ち
「今日は忙しい中、よく集まってもらいました。はい、乾杯」
と、短い挨拶で、ささっと乾杯となった。皆が一口飲み終えてから、またトナリ社長が口を開いた。
「今回集まってもらったのは、先日の件、詳しい話を聞いたので、一言、言わないと思ったんでね。マルタ君だったね、いきなり『クビだ!』と言ったのは悪かった。申し訳ない。あまりにもひどい書類だったので、思わず出た言葉だ。その詫びを兼ねて、今日は来てもらっている」
え、謝罪の場?それにしても威圧感と、上司たちの顔の強張り様はすごいんだが。私が何か言わないといけない感じなので
「詳細は、どのように聞かれたのですか?」
「ん、統括部長が、ウチの秘書にメール送ってきて、中身見てから、タナカ社長に聞いたんだよ。マルタ君もその場で、何か言えばよかったんだよ」
「あの状況で、何も言えないですよ。私は黙って勝手なことをされたので」
若干、総務部長には悪い気がしたが、思ったことを言った。
「ウチの娘が、ご迷惑おかけ致しました」
総務部長が謝られた。すかさず、トナリ社長が言う。
「そうだ、娘へどういう教育をしてきたんだ!」
「申し訳ありません。家庭内でもこちらの考えが伝わらず苦労しており・・・」
総務部長が苦悩している表情をしており、飲み会序盤から重苦しい雰囲気になってきた。
「コラ、また怒鳴って!毎度毎度と何回こういうのやらかすの!」
トナリ社長の左肩をバシッ!と叩く謎の女性。
「ちょ、今のは言わねばならないことだろ」
「うるさい、そのフォローに周りの人がどれだけ動くか考えてるの?」
さらに、トナリ社長の左肩をペシペシと叩き続ける。トナリ社長の困る姿を初めて見た事と周りのおじさん達のおろおろする姿が、じわじわと面白くなってきて、思わず声を出して笑ってしまた。上司達は、ハッ!と私を見るが、トナリ社長が飼いならされてる景色は新鮮だった。
場の空気が変わったからか、続々と料理が運ばれてきた。このタイミングで、目の前にいる女性から話しかけられた。
「挨拶したことはないけど、よく見ているよ」
なぬ?こんなスラッとした外見で緩めウェーブでロング黒髪な剛腕猛獣使いが知り合いにいないのに、どこで見られて?見られてる?通勤時?ハテナしかならばぬ状況で、その女性はポーズを取っていた。ガッツポーズ!
「え、うそ、お向かいのあの方ですか!」
ま~、驚く程のしたり顔をされるその女性。ようやく挨拶された。
「株式会社トナリの社長秘書をしております、『フチガミ』と申します。よろしくお願い致します」
音成環境設備の面々がお辞儀をした。気分的に、手懐けられたように思えた。この後は、トナリ社長の『正座禁止令』により、一斉に緊張が解け、わいわいと話しだした。ある程度のメニューが並んだ後、好きなように頼んでいいらしく各々頼みたいものを注文していた。品のあるお店でも、こういう普段の飲み会を感じられるんだと思った。
「あの場所で、何やってるんですか?」
と、秘書フチガミさんが聞いてきた。
「使用済みパソコンの分析・修理・再利用みたいなことです」
そんな回答をしたら、トナリ社長が話に入ってきて
「今時は、最新じゃなきゃいかんようになってるが、使い分けたり、再活用の道がある」
そう言われる。自分なりの意見を言ってみた。
「何か表現する立場の方々が、最新がいいでしょうが、消耗品であるパーツ以外は、活かすことができると思います」
うなずくトナリ社長。フチガミさんも、ニコニコされていた。
それから、2時間程、飲み会が続いて、お開きとなった。会計は、トナリ社長が支払われ、音成側は、ホッとしていた。
お店の外に出て、タクシーにそそくさとトナリ社長を乗せるフチガミさん。
「いっしょに乗らんのか」
「方向が違うので、一人で帰ってください」
トナリ社長の扱い慣れしているのがよく分かる光景。タナカ社長ですら、感嘆の表情をしていた。
その後、2次会なしの解散という時、上司達が、私を見て、変なことを言うんだ。
「おそらく、また、トナリ社長は君を飲み会に誘うだろう」
大笑いするフチガミさん。何があるの?また胃が捻れる感覚を味わうのだろうか。
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