第15話 不意打ち

 統括部長に、旧会議室内のパソコンパーツが紛失している可能性を報告した。緊急を要する内容ではないが、在庫が合わなくなっているのは、おかしな話なので。


「様子見といて」


 確かにそれくらいしか言いようがないよな。合わせて、こんな事を言われた。


「今週の金曜日、空いてる?飲み行こうか」

「はい、分かりました」


 返事をした後、統括部長宛てに電話があり、それ以上話ができなかった。初めて誘われたが、サシ飲みだろうか?こういう歳の離れた人との付き合いも多少慣れておかないといけないんだろうな。


 また、旧会議室での作業の日々に戻った。ある程度、動作確認が済み、産業廃棄物になる部品もかなり増えた。なんで、1階エレベーターの近くに、産廃置き場があるので、場所をとるパソコンケースを30台程置いた。データを消去できるハードディスクは、データを何重にも上書きするソフトを使い、何日間もかけて処理を行い、データを読み取っても意味のない状態にしていく。本来は、電動ドリルで穴を開ける等、物理破壊が確実なんだが、予算の壁と今ある環境でどうにかするという目的に合わせる形となった。


 そうこうしてたら、金曜日になった。

 相変わらずの作業をし、旧会議室も少し荷物が置けるスペースが空いたので、3階にある保管されたパソコンを取りに伺うことにした。台車を押しつつ、3階へ入っていく。


 エプロン姿の人が通り抜けるのも、そろそろ慣れてくれないかな。よそ者への視線が痛いのと台車のキュルキュルと車輪が鳴る音で、なおさら注目されてしまう。入り口から突き当りの壁まで進み、左を見れば、社長席があって右を見ると、物置部屋がある。社長室がないのは、社長に話しかけやすいようにだそう。一般社員が社長にペラペラ話しかけるなんて、ほぼないだろうよ。

 物置部屋は、旧会議室の半分くらいの広さだが、これまた、ぎっちりとパソコンが置いてある。大きめのケースを使ったものが多く、メンテナンスはしやすいが、大きくてかさばり、使う人を選ぶ。何往復もする必要あるな、これ。


 3往復目に入った頃、タナカ社長が在席されていた。台車の音で気付かれ、近寄ってこられた。


「かなり、在庫減ってきたね。すぐ、トナリ社長から補充されると思うよ」

「トナリ社長は何者ですか?」

「手広くやってるからね、あの人。すぐ分かるよ」


 おー、社長と雑談できてる。こういうのが壁で区切らず、話しやすさを狙ってるところなのか。


 また、旧会議室に戻り、大きめパソコンを床においてみると、改めてデカイ。なので、汚れている面積も広い。掃除をしていると、統括部長が開けてあるドアをノックした。


「ちょっといいかな」

「はい、なんでしょう」

「今日は、夕方6時半辺りに、繁華街の大型書店前で待ち合わせでいいかな」

「分かりました」


 掃除に汗を流してるので、ビールがうまかろう。金曜だし、休み前で、少しテンションが上った。


 終業時刻となり、足早に大型書店に向かった。まだ、時間に余裕があるので、気分転換になる本の探索だ。本の香りやさまざまな本の種類が知識の海に浸っているようで、あらゆる本が欲しくなる。ネット通販も便利だが、実際手に取って、本の質感や大きさ・重さを知って、本を選びたい。本屋の楽しみの一つであると思う。でも、今日は飲み会だし荷物が重くなるのは避けたいところ。


「おっと、時間じゃないの」


 慌てて、書店入り口に向かう。


「お、来ててたか。お店行こうか」


 統括部長が飲み屋へ案内される。なぜ誘われたのか聞きたいが、店に入ってからでもいいか。


 雑居ビルの2階にある店『小料理 秋月』を指差し、階段を上がっていく。ビルの外観からは、想像できなかった格式ある入口。上品さが分かるお店な感じがある。個人的には『ザ・居酒屋で、ビールをグビグビ』と考えていたので、ちと緊張する。店内に入ると、木の香りがして温かな照明で、和装の店員さんに案内され、キョロキョロと見回していると


「おぃ、こっちだ」


 と、大きな声がした。やりやがったな、統括部長!なんで、こんな場に私が呼ばれるんだよ。


 通された個室には、タナカ社長、総務部長、トナリ社長、見たことない女性がすでに座っており、統括部長と私が荷物を隅に置いて座った。気楽な飲み会じゃないし、この針のむしろというか、拷問部屋の空間は気配を消してやりすごすしかないのでは・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る