第14話 孤軍奮闘

 トナリ社長の発言は、非常にダメージがある。


「何やったの?」


 日数のかかる、機械の掃除・分解・修理という工程を意味がないことをしているような相変わらずの物言いだし無意識に煽る言い方になるのだろう。どう答えるべきかな。やっちゃいけないのが、『言われてない』『聞いてない』という言い訳と取られる発言が、逆鱗に触れる要素となる。『言われなきゃ動かないのか』と自分で考える力がないとも取られてしまうし、自分の言葉で、まずは話すことだと考える。


「雑然と置かれた処分を待つパソコンから、復活させ、再利用し、資源としての活用を考えました」

「具体的には?」

「今、目の前で動いている年代物パソコンは、複数台から動く1台を組み上げました。オークションの参考価格は5万円くらいでしょう。しかし、町工場等、別の機械との連動では現役マシンな場所もあり、需要はあると思われます。ただ、古いパソコンで終わらず、コレクターアイテムでもあります。また、数が集まり再処理すれば、レアメタルが回収できます」


 トナリ社長が言う。


「それは、ウチでも考えてる」


 あー言えば、こー言って、結局、この人を納得させるのは、余程奇抜なことを言わないと無理だろう。しかし、変なことを言いだしたんだ。


「トナリで保管しているパソコンが、かなりあるので、キミにチェックしてもらおうか」


 タナカ社長が

「音成の社内でも、まだ在庫あるんで、それが済んだら、運びましょうか?」

「日程、考えるか」


 でましたよ、現場の意見は無視して進めるヤツ。会社の上の人達で決めちゃうんだよ。

 その後、私が提案したパソコン再利用方法は、現場の意見も聞いて決めることとし、報告会を締めた。


 結果として、トナリ社長の発言がほとんどで終わってしまい、私が調査した結果をどういう反応されたか、よく分からない状況となった。


 片付けをしていると、統括部長が


「お疲れ様。丁寧な作業が良い結果を生むから、継続するように」


 と、ねぎらいの言葉をかけられた。合わせて


「トナリ社長が、何を考えているかは分からないが、あまり気にしないように」

「気にするなってのは、無理な話ですよ」


 思わず答えた。


 会議室から、さまざまな機器を移動させ、旧会議室の椅子に腰掛ける。今回の報告会の内容がどうだったか、というより、人前で説明等話す状況にひどく疲れた。ぐて~っと、だらけた姿勢になった時、ふと見られている感じがして、窓の方を見た。


「なんだと!!」


 隣のビル、株式会社トナリの5階で以前見た女性といっしょに、トナリ社長がこちらを見ていた。とっさに座り直し、身構えた形になったら、トナリ社長とその女性が、笑っていた。監視とは言わずとも、ちょいちょい見られてたんだ。しかし、サボってもいないし、見られた所で何も変わらない。でも、覗くなよ。


 気分転換のため、1階自販機に行った。疲れたので、甘い飲み物が欲しい。ミルクココアか、おしるこが甘さとして十分な物か。迷っていると、誰か近づいてきた。


「お疲れ様」


 マイコーさんだった。


「なんかやってたね」

「はい、旧会議室内にあるパソコン達の在庫状況報告みたいなやつです」

「無事終わった?」

「無事か分からないです。脳の糖分が足りなくなったのと、トナリ社長がいたので胃酸が出過ぎて、内臓が溶けそうでした」

「違う燃料も必要だぁね」


 なに!ここで『マイコー緊急招集』かかるのか?どうなんだ?


 栄養ドリンクを買うマイコーさん。カッと一気に飲んで、我関せず、とエレベーターに向かっていった。独特すぎて分からんよ。・・・私の飲み物が買えてない。ミルクココアをしみじみと飲み、2Fへ戻った。


 旧会議室に入り、エプロンを装着。会議で使った年代物パソコンを再設置し、西日に当たらないよう布をかけた。なんとなく違和感があった。長机の下に、使えるパソコンと中身を抜いたパソコンケースが置いてあるが、ズレていた。そのパソコンケースを取り外したパソコンパーツ入れにしていたので、在庫確認をしてみた。


「パソコンメモリが、2枚が足りない」


 会社の物なので、社員が使うことは構わないだろうが、無断借用ってダメだろ。なんとなく予想はつくが証拠がないので対策をいくつか考えないと。まずは、パソコンケースを入れ替えてみることにした。


「統括部長に、報告しないと」


 今あるもので、どう防犯するかな。

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