第18話 異動後の葛藤
旧会議室内で、片言なやり取りで会話したスズモリさんという女性が言い放った『辞表、出します』発言。
「まぁ、座りませんか?」
椅子を用意して、机に荷物を置き、座ってもらった。そして、おもむろに私のカバンを持ってきて、封筒を取り出した。チラッと見せたのは、私の辞表だった。
「日付は書いてないけどね、いつでも辞表を出せるよう持ってます。一度出したときは、止められた」
うつむくスズモリさん。
「ここに来た経緯は知りません。辞めるのは、強引にやれば可能でしょう。でも、他人のせいで辞めるならば恨みしかないので、次の場所も長続きしないかもですよ」
黙るスズモリさん。余計なこと言っちゃったよなぁ。ただ、理由知らないし、知りようがないんだが。
「あら、仲間が増えた?」
マイコーさんが急会議室に入ってきた。
「どうされました?」
「Cチーム依頼の作業がね、データ崩れてて、再入力した方が早いってことになって、2人共、手伝って」
急展開で助かった気がした。スズモリさんもやること出来たわけだ。
USBメモリと印刷物を渡され、指示書の通りに入力作業にかかる。スズモリさんも前部署のノートパソコンを持ってきており、テキパキと作業を行なっていった。
お昼になり、コンビニさんが来た。
「そこのおふたり、コンビニ行かねぇか?」
戸惑いながら、スズモリさんもついて来た。買い物を済ませ、コンビニさんが言う。
「今日は、公園で食べない?」
初対面ながら、コンビニさん、私、スズモリさんというベンチ2つのトライアングルができた。
「前の部署、どこ?」
コンビニさんが、スズモリさんに聞く。
「・・・経理部です」
「あ、そうなの。サポ班依頼の作業も来るから、忙しいよ。」
無言のスズモリ。無理やりの異動なんだろな。その後も、短文で返すやり取りがあり、会社に戻った。『明日から来ないかもな』と思いつつ、急ぎの作業をこなしていった。
それから、2週間、どうにかスズモリさんは出社していた。相変わらずの短い会話しか出来ず、サポ班の作業分担を請け負いをしていた。その作業確認と雑談しに、マイコーさんが旧会議室に入ってきた。
「今度の金曜に、2階にいる社員合同の慰労飲み会があるって。全員参加だって」
「私は、参加しません」
即答する、スズモリさん。
「顔は出してた方がいい。強制じゃないけど、Aチームの業績を称えるものだから」
負けじと即答する、マイコーさん。
「・・・はい、分かりました」
こんな時に、どういう言葉をかけていいのか分からないし、言わない方が、むしろいいんだよな。
サポ班の案件補佐をしていたら、あっという間に金曜になった。昼以降は、皆そわそわしている。大宴会のため、残業ないし、開放感が待っていると思うと、落ち着かないのだろう。
私は、作業の合間に処理時間のかかるメモリテストの準備をしていた。スズモリさんが気になったのか
「それは、何をしてるんですか?」
と、声をかけてきた。
「いつまで使われてたか分からないパーツの動作確認ですよ。利用価値があるかどうかって」
「指示を受けてるんですか?」
「何の指示もないですよ。言われないけど、要求はされてるでしょうね」
少し驚いた表情に見えた。言われてないのにやるのが妙なんだろう。
そうこうしてたら、終業時刻となり、素早く移動する社員たち!大宴会場のある居酒屋へ集合となった。私は、時間に余裕があったので、また大型書店に立ち寄り、インテリア雑誌を買おうか迷っていた。
「お疲れ様です」
と、声をかけられたので、見てみれば、スズモリさんだった。制服から私服になると、誰でも印象が違うが『ぁ、カワイイ』と声がもれそうだったので、ぐっと我慢した。より一層警戒されそうでね。
「あら、お疲れ様です。待ち合わせ時間に余裕があると、ここに来るんですよ」
時間を見れば、移動した方がいい時間だったので、雑誌購入を諦め、いっしょに居酒屋に向かった。
指定された居酒屋では、すでに半分くらい人が来ており、二人してキョロキョロしていると
「エプロンの民は、こっちゃ来い」
と、コンビニさんが呼んでいた。実は、助かる。座り位置によって、飲み会の楽しみ具合は大きく変わる。同じイジられるなら、サポ班に囲まれていた方が良い。
サポ班は隅っこにいたので、スズモリさんを目立たぬよう、さらに隅に座ってもらい、隣に私が座って隠すような配置にした。
時間となり、Aチームの大型案件祝勝会とみんなの慰労会が始まった。
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