第19話 それぞれの酔い方
統括部長が、乾杯の音頭をとっていた。
「え~、Aチームのこれまでの功績により、大型案件が無事契約を結びまして、これには、皆さんそれぞれの努力の結果があるわけで、大変素晴らしいものであります」
と、始まったお話は、4分を越えようとしていた。耐えきれなかったのは、Aチームリーダーのエース長官だった。
「部長、飲みましょう!」
こういう強引さが、女性社員にキャー言われるところなんだろうな。私には無いよ。気使いすぎてさ。
「では、かんぱーい」
締められた乾杯の音頭から、ようやく飲み会が始まった。サポ班と我々2人も、グラスを合わせ、グイッと一口。大皿料理が並び、多種に渡る品々に、コンビニさんが興奮状態であった。
「もう、今日は、飲むし食べるし。いいリサーチになるんだよ」
『何の?』という周囲の疑問はあったが、食べ始めた。スズモリさんも、ちょっと馴染んだのか、会話も出来るし、サポ班とは、警戒心が薄れたように感じた。
液体を飲めば、液体が出る。私は、トイレに向かう。先客は、統括部長だった。
「飲んでる~?」
赤ら顔な統括部長は、意外だった。過去の飲み会は、飲める雰囲気ではなかったもんな。
「はい、飲んだら、出ます」
飲み会では、無難な回答だと思う。ヨタヨタ進む統括部長。今日ばかりは、飲んでください。
席に戻ると、異変が起きてた。スズモリさんが、涙目だったんだ。
「大丈夫?」
と、聞くと、私の右袖をガシッと掴み
「なんで、話してくれなかったんですか~」
なかなかの握力。アルコールパワーじゃないのこれ?
「どれの話でしょう?」
そう聞き返すと、サポ班3名が『あは~』と苦笑い。ちゃんと座って、ビールを一口飲んで、ぶはぁと息を吐く。
「旧会議室に入るまでの経緯を聞いたんですか?」
「そ~ぉですぅ!」
あら、酔ってんね、スズモリさん。
「あのですよ、急に来たスズモリさんに対して『ぃゃ、私、巻き込まれて、ココに追いやられたんス』なんて言えないでしょう?スズモリさんも、聞ける状況じゃなかったと思いますよ」
「そりゃしょうでしょうけどぉ、仕事モード過ぎて、こっちも聞けないんですぅ」
ようやく聞けた本音だ。ただ、呂律が大丈夫かな。
「どういう経緯か話したことで、マルタ君を少しは知れたでしょ」
サワコさんが言う。大きくうなずくスズモリさん。・・・サポ班姉さん方に、心開いた感じがある。ありがたい。すごい距離があったけど、こういう飲み会って、本心が知れ、本音で語れる場でもあるのよね。仲間内だからだけど。
「聞いたと思うけど、巻き込まれて、旧会議室に流れ着いて、何か成果を残せないかなってやってんのよ」
ぽそっとつぶやいたら、スズモリさんが、まっすぐこちらを見てくる。その曇りなき
そこに、飲み会の席なのに、ふわっといい香りが近づいてきた。
「楽しんでる~?」
エース長官、参上!あえて、私の隣に来て、サワコさんの正面への位置取り。それを見たマイコーさんが、日本酒をぐぃっと飲み干した。
「大型案件はね、サポ班の協力があって、成功したんだ。データの表し方・色の表現、あのアイデアがナイスだった」
それから、サポ班への絶賛が止まらないエース長官。まんざらでもないサポ班の方々。実際、それだけの内容を仕上げてるからね。相手が見たときのことを考えて、提出物を再構築している所もあるので、もっと評価されていい。
また、私はトイレに向かう。飲めば、近くなるもんです、はい。
席に戻ろうと、人の隙間を通っている時、変わった光景を見た。Cチームのモジャ夫とそー娘が隣同士にいる。問題は、その距離感だ。社員同士、男女が、腕をぴったりくっつけた状況て、なんだ?さらに、他社員たちが、見事にそこに立ち入らないよう、安全な距離を確保している。別の飲み会が発生している!見てないふりして、そっと戻る。
席に戻り、何故か肩パンチをしてくるエース長官とスズモリさん。あまり口を開かないマイコーさんが、カッと睨む。
「よぅ、マルタの氏よ。今日は、ライブの日だよな」
荒れるんですか、今日は。
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