第9話 異動

 出社拒否をしたかったが、サポ班の方々に説明できてないので、ふらふらしながら出社。

 サワコさんが


「大丈夫?」


 と、声をかけてきた。


「分がんねぇス」


 精一杯、答えてみた。


 今度は、そー娘が近寄ってきた。何を言うのかと思えば


「私が悪いんですよね?」


 分かってなさそうに言ってくる。

 コンビニさんが、立ち上がり


「まだ分かってないの?」


 大騒動に発展しそうになった。

 そこに、統括部長が来ていた。


「マルタ君、会議室ね」


 そのまま、連れて行かれた。クビ宣告かな~、自分が辞表提出で済むかな~。冷静な判断って、こんな状況だと出来ないよ。抗議するのが普通なんだろうけど、他社に迷惑かけたのは事実だしなぁ。


 会議室に入ると、しばらく待つように言われる。次にドアが開いた時に、身構えた。社長、統括部長、そして総務部長が入ってきた。まだ、上司なので、しっかり起立して、許可が出て、着席した。


 社長が先に話し始めた。


「昨日は話してなかったけどね、ウチの会社はね、昔、株式会社トナリの一部署だったんだよ。だから、トナリの傘下になるわけだ。しかも、株式会社トナリは、ウチの隣のビル」


 株式会社トナリが分社して、お隣に移動。だから、オトナリ(音成)。へ~。えぇぇ、当て字なのか。弊社社長の名字は、タナカだそうだ。


 さらに、社長が言う。


「まだまだ、トナリ社長の発言力・影響力は強い。だから、今のままの配属先だと、またひと悶着あるだろう」


 はっきり言わないので、つい私が質問してしまう。


「辞表出せば、丸く収まるわけですよね」


 統括部長が、即答する。


「そういうことではない」


 今度は、統括部長が話し始めた。


「昨日、キミが帰った後、騒動を知ったサポ班3人が私の所に来て、『マルタを処分するなら話が違う。そー娘が問題だろう!』と抗議されたよ。その後に、総務部長が状況を聞いてね」


 ちらっと、総務部長を見る統括部長。


「ちゃんと話したことはなかったね、初めまして。今回は、ウチの娘がご迷惑をお掛しました。娘は、社会での経験が足りないので、入社させてもらったのだが、問題を起こした。申し訳ない」


 深々と総務部長が頭を下げた。


 社長が、また話を始めた。


「今回の件、マルタ君が全ての責任を負う必要はないが、もっとやり方はあったと思う。トナリ社長の目から隠すために、しばらく、旧会議室に入ってもらう。給与面は、そのままだ。支給されているノートパソコンは移して構わない。ただし、サポート班の業務から離れること」


 ・・・あのパソコン倉庫代わりの部屋に? 窓際族じゃないか。


 要件を伝え、社長と総務部長は帰っていった。

 次に、統括部長が言う。


「相当数のパソコンが置いてあるので、動作確認等をお願いする。大事な資産なので。掃除等道具は、総務部長が手配しているので、支給を受けるように」


 さらに、付け加えられた。


「あと、辞表は出すな。この逆境、マルタ君ならどう対処するか見てみたい」


 統括部長に連れられ、サポ班席に戻る。

 すると、統括部長がそー娘に対して


「そー娘さん、あなたは今日から、Cチーム配属だ」


 皆、びっくりした。昨日の騒動を知ったモジャ夫が『Cチームで引取りますよ』と、引受先を申し出たそうな。声には出さなかったが、『毒には毒でいいんじゃねぇの』と思った。


 私は、最低限の必要荷物を抱え、サポ班メンバーに一礼して、旧会議室に入った。精一杯、歯を食いしばった。いろんな感情が少しハミ出したが、誰も見てなかったので、良しとするしかない。


しかし、どうするんだ、この部屋で。

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