第22話 空回り

 ある日、スズモリさんが管理データベースと在庫の確認をしていた。最近は、社内パソコンに型式が合うパーツを増設・交換して、少しでも作業効率が上がるよう試験的な作業をしている。その際、誰にその作業を行なったか、管理用として日付・端末名・所属等を入力している。その中で、異変に気付いた。


 スズモリさんが言う。

「マルタさん、これ、在庫と合わないです」

「また、合わない?」


 以前から、ちょっとずつ数が減っており、かと言って、元が再利用目的だから、完璧に在庫管理する必要がない。でも、勝手に使われないと、減りようがない話。


「スズモリさん、対策考えましょうか」


 統括部長が旧会議室に入ってきて


「久しぶりに、報告会やるから、資料まとめといて」

「はい、分かりました」


 スズモリさんが聞いてきた。


「報告会って、何やるんですか?」

「現状どういう作業をやって、業務に活かせそうなことを提案したりって感じ。今回は、パーツ増設後の作業効率を言えばいいんじゃないのかな。あと、そのデータベースの解説してもいいんじゃない?」

「分かりました、一覧を作ります」


 報告会の準備で、また、いそいそエプロンの人が会議室に出入りしている。そんな感じ視線があるなと思ったらAチームリーダー:エース長官が声をかけてきた。


「また、やるの?」

「はい、報告会です」

「席が空いてるなら、参加するよ」


 今回の報告会参加者は、統括部長、エース長官、トナリ社長、フチガミさん。・・・なんで?。


「はい、報告会を始めます。今回は、スズモリさんが加入したことで、在庫管理をデータベース化しまして検索や表示を条件に合わせて見やすくなるよう調整をしております。では、概要の説明をスズモリさんに変わります」

「今回、試作したデータベースは・・・」


 途中、説明が止まることもあったが、初めての報告会を無事、スズモリさんは、やってのけた。


 エース長官が私に対して


「マルタ君は、何も言わないの?ノートパソコンもないし」

「はい、今日は、スズモリさんの得意とするものを活かし、発表の場に出すべきだと思ったので、私はサポートに回っております。ノートパソコンは、現在別用途で動いております」


 今回は、株式会社トナリ両名が、ものすごく静か。だけど、二人して、何かごにょごにょ話している。

 統括部長が言われる。


「今後の予定は、何かあるの?」

「現在、サポート班で運用している作業ファイルの一時保管マシンをバックアップの自動化等、考えています」

「他、質問なければ、今日の報告会を終わります」


 どうにか、無事終わり、スズモリさんのデビューとなった。片付けをしながら、スズモリさんが言う。


「反応というか感想って、あんな感じなんですか?今一つ発言がないですね」

「自社にある使用済みパソコンの再利用って限られてるから、予想つくんだろう。変にネットワーク侵入とかやれば、すごい怒られるだけだし、今仕掛けてるヤツも、本来は、リモートで動かして攻撃や妨害までやってみたかったよ」

「それは、引きます」

「ですよね~」


 旧会議室にパソコン等を戻し、スズモリさんと1階の自販機に行った。


「糖分が足りない」

「甘いの売り切れてますね」

「みんな、糖分求めてんだよ。脳が疲れるのよ」


 先日の飲み会から、ずいぶんスズモリさんは自身を隠さなくなったように思う。こういうちょっとしたお茶の時間も大事な意見交換が出来る場なんだよね。


「さぼらないで~」


 Cチームリーダー:モジャ夫が言ってきた。どの口が言う!と思いつつ、そそくさと旧会議室に戻る。


「では、録画データは、どうなってるかな?」


 今回の報告会の間、私の使うノートパソコンのカメラ機能を使って、旧会議室内を録画していた。それはパーツの在庫が合わない件について、我々が不在なら、誰か侵入しているのでは?という疑いからだ。


「やっぱり、この人か」


 統括部長に来てもらい、映像の問題の箇所を見てもらう。


「・・・モジャ夫が物色してるね。何やってんだコイツ」


 その後、統括部長と話したが、納品するわけでもなく、在庫が必ず合わなきゃいけない代物でもないわけであくまで、口頭注意程度の行動でしかない。我々も、在庫紛失か真相が知りたかったし、旧会議室の存在もそこまで重要視されてないので、何とも言いようがなかった。ただ、勝手に使われるのは、納得がいかなかった。


 旧会議室で、モヤモヤした空気になり、スズモリさんが口を開く。


「なんで、こんな感じになるんでしょうね。何もない所でやってるのに」

「こちらのやる気が空回りした感じよね。生み出したけど、求められてない、それじゃないって」


 少し沈黙があって、またスズモリさんが聞いてきた。


「こういう時、どうするんですか」

「決まった場所に行くんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る