第24話 ふたりの出張

 出張先の情報をネット検索していたら、お昼休憩となった。


「よぅ、お二人、コンビニ行かんかね?」

「はい、分かりました」


 コンビニさんのお誘いだった。いっしょに歩いている中


「我々が、今日から出張なんですよ」

「わ、二人でお泊り・・・」


 スズモリさんが悪ノリをする。


「はい、初めてのお泊りです」


 すんげぇ、ゲスな者を見る視線を私に送るコンビニさん。


「出張なんですよ。もし、手を出したところで、スズモリさんから、ボディブローから顔面に膝蹴りくらいますよ」

「いえ、膝を正面から蹴って、通報です」


 コンビニさんから『その手があったか!』とイジられた。

 お昼過ぎて、まだ時間がある。睡魔と戦いながら、どうにかやりすごす。


 ようやく、会社を出発する時間となり、各所に挨拶をして、会社を出た。


「なんか、ワクワクします」

「普段と違うし、ちょっと非日常感からテンションが上がる」


 等と言いながら、駅に向かい、新幹線に乗車した。窓側をスズモリさんに座ってもらい、しばし、列車の旅。ぼんやり眺める景色に入るスズモリさん。すんごい携帯いじってるけど、よく付いてきてくれるよなぁ。


「さっきから、何見てるんですか」

「よく辞めずに、付いてきてもらってるなって」

「辞めるのは簡単ですけど、まだ、何か変化があるかも、と思って」


 いろんな話が出来るようになったけど、旧会議室内で業務って、正直ないわけで。でも、解雇とか辞めるよう勧められもせず、何か生み出すのを待たれているようだけど、売上に貢献するとしても、会社に合わぬことか勝手に出来ず、それも批判されるようで。新しいことを始めているようで、無駄なことかも、そんな葛藤をしている。


 隣県に到着し、ホテルにチェックインする。実物は、ホームページと違う印象だった。そこまでキレイな外観ではなく、フロントで受け取ったのが、カードキーではなく、プラスチックの板がついた鍵があるタイプ。室内は、若干古めかしい『価格を抑えた』空間だよ。我々に行かせるくらいだから、低予算だよね。


 それぞれの部屋に分かれ、スーツを脱ぎ、外を眺める。駅に近いホテルなので、少しは夜景が期待できるかなと考えていると、ノックされる。


「お邪魔します」


 スズモリさんが乱入してきた。そんな勢いだった。


「駅ビルで、人気のある洋食屋があるのですが、夕食どうですか?」

「せっかく県外来たんなら、そういう場所良いよね」


 そそくさと準備をして、向かうことにした。そうしないと、部屋で寝てしまう。


「なんと・・・」


 駅ビル飲食街一斉清掃のため、臨時休業・立ち入り不可。急遽決まったようで、ネット上には情報が更新されず。こんな状況だからか、駅の販売所のご当地駅弁は売り切れ。スズモリ氏、ぷんすかーと怒りをあらわにした。


「もう、コンビニで豪遊します!」

「豪遊て・・・」


 確かに、豪遊かも。値段も見ずに、高めの品を取るし、食べきれない量をカゴに入れていた。


「食べ切れるの?」

「二人分です!」


 おぅ、私の選択権は無いようだ。なので、多めに水を買った。二日酔い確定のお酒の量だし。

 ホテルの部屋に戻り、私の部屋に食べ物を置いて代金を渡し、それぞれ着替えることにした。私はジャージに着替えた。あまり時間を空けず、スズモリさんも部屋に来た。とてもラフな格好だった。


「かんぱーい」


 そそくさと、飲み会になった食事が始まった。ちょっと窓を開け、換気しつつ、だんだん深みを増す暗さとビル群の照明具合が、案外キレイだった。


「ホント、夜景好きですね」


 短時間に、白ワインをがぶ飲みしているスズモリさんが言う。


「人工物だけど、動く灯りと固定された照明があって、テナントが変われば看板の色も変わって、次来たらこの景色じゃないんだよ。季節によっても、また見え方が違うからね」


 ポテチをバリバリ豪快に食べるスズモリ氏。ちょっと、目が座ってるような気がする。


「ペース早くない?」

「いえ、明日は、出発が9時で目的の展示会場までは、かなり余裕があるので、早く食べて寝ます」

「あ、朝食、買わなかったね。買えばよかったなぁ」

「時間の余裕があるので、朝から買うです」


 『買うです』て、酔いが来てるな。食べ始めが早かったものの、だらだらとしながら、時間が過ぎていった。空いた容器をビニール袋に入れていき、たくさんあった食材もずいぶん減ってきた。その間、二人はテレビ番組にアレコレ言ってみたり、まったりとしていた。新幹線内でも思った『よくこの人付いてきてるよな』という感覚が

また蘇っていた。


「なに、見てんですか」

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