第17話 新たな異動者

 とある日


「ちょっといいかな」


 サワコさんが、旧会議室を訪ねてきた。


「何ですか?」


 と、伺うと、最近、パソコンのハードディスク空き容量が少なくて対策はないかという相談だった。見てみないとなんとも言えないので、サワコさんのパソコンを見せてもらった。


「あぁ」


 そもそも、ちょっと古めのパソコンを支給されているせいか、ハードディスクの容量が少ない。その状況から各チームの作業依頼データがメールで送られるため、メール添付ファルとそのコピーがパソコン内に残るため圧迫要因となる。メールを削除したいが、『履歴として残しておきたい』というご意見があり、サワコさんだけでなく

サポ班全体に関わる問題だったりする。


 ちょっと聞いてみた。


「外付けハードディスクとか、保存場所って要望できなかったんですか?」

「予算が無いから工夫するよう言われたり、主任がいないから窓口が状態だったのよ」

「では、試験的な事やってみてもいいですか?」

「どんな事?」


 サポ班の作業依頼は、A~Cチームの3つなので、それぞれの保存場所を作る。ただ、別のパソコンで。先日の3階から移動した大きめのパソコンケースを使い、耐久性を確認できた今より保存できるハードディスクを4台用意する。1台は、OS用に使って、残りをA・B・Cチームを振り分けるので3台使う。また、今回は急を要するので、慣れているwindowsをOSに選んだ。要は、みんなが使うwindowsマシンを1台置いて、ネットワーク上から扱ってみましょうってこと。もちろん統括部長に許可申請し、了解を得た。


 現在のサポ班は、私が所属する前の状態に戻ったので、空席が3つある。サワコさんの隣に設置して欲しい要望があったので、机下にパソコン、机にモニターを置いて、サポ班が見られるよう設置を行なった。合わせて、勝手に使われないよう、サポ班だけしか分からないよう、専用パスワードを作った。ただ、注意事項は、しっかり伝えた。『あくまで、中古パーツの寄せ集め』であると。突然動かなくなることも説明をして、本当に重要なデータは、複数のバックアップをお願いした。


「分かんなかったら、また来てもらうよ」


 データの扱いルールは、現場に任せた方がいいので、余計なことは言わなかった。困った時は、また来てもらえるし。


「面白そうなことやってるね」


 ふわっと香るこの匂いは、エース長官!そりゃ気付くよね、エプロン姿の人が機械持って、せわしなく動いててサポ班への作業依頼も一時中断してたからさぁ。合わせて、サワコさんを気になってるからね。


「資産再活用の一端って感じですね」


 そう答えて、試験的な事も伝えた。安定して動くなら、そのまま実用になるし。


「あのね、サポ班に協力してもらった大型案件が無事契約出来てね。その慰労会みたいなことも、そのうちあるって」

「関係者の方々には、良い息抜きですよね」

「いや、2階の人達は、皆誘われるんじゃない?関係者合同だからね。エプロンの人も関係者」

「私、疎外じゃ?」

「『マルタ ライブ』まだなんだろ?」


 変な情報掴んでいるエース長官。やり手の人は、怖い。やだ、強引で怖い。


 それから数週間、試験が本運用となり、サポ班用データマシンが安定した頃、また、私が呼び出された。会議室に行くと、統括部長が『またトラブルですよ』と何とも言えない表情をしておられた。


「旧会議室に人員が1名増えることとなった」

「他に行く所あるでしょう?」

「また、訳ありでね」


 なんとなく察してしまった。私と同じで、当人とは関係ない所で、ごちゃごちゃとした私怨が、でろっと絡みついてあまり人目につかない場所へ移送する算段だな、これ。


「いつからですか?」

「今日」


『んなぁ~』


 急に連れてこられた社員は、女性だった。小柄な女性で、両手に荷物を抱え、やはり、何とも言えない表情をして警戒され、視線は鋭かった。


「・・・スズモリと言います。よろしくお願いします」


 挨拶してくれたが、不服そうな感じだった。


「はい、マルタと申します。席用意しますね」


 急に言われるから、座席なんて考えることも出来なかった。


「・・・ここは、何をするのですか?」


 片言な言い方をされるので、こう答えた。


「旧会議室では、自ら業務を提案することを求められる。しかも、正解がない」


 少し時間が流れ、スズモリさんが言った。


「辞表、出します」

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