第11話 お買い物

 繁華街の方へ歩いていく。うつむかず、少し上を向いて進む。夕暮れに、ビルの看板、お店の照明がきれいに見え、また、心に沁みる。夜景はね、遠くから見ても、間近で見ても沁みるもんだ。


 それから、商業ビル内にあるホームセンターに入った。相変わらずの混雑っぷり。足早に、工具コーナーへ。パソコン関連で何がいるかなと、見て回る。総務部長からは、領収証はもらうように言われたが、いつ頃経費で落とせるかは、細工が必要になるので、一旦は自腹になるとのこと。会社が面倒くさいのか、自分の扱いが困るのか、なんだか分からない。しかし、自腹なら、あえて好き勝手に買ってもいいだろう。


 プラスドライバー等、ドライバーセットはいるな。精密作業用の小型電動ドライバーもあるが、高いのでパス。念のための接点復活剤や無水エタノールで汚れを落とすことも必要か。独り言を言いつつ、商品の入ったカゴを持ち、店内を徘徊する。ふと、目が止まる物があった。


「あ、エプロンありだな」


 料理用というより、手芸工作用で少し厚手の丈夫そうな生地。紺色というか藍色のようで、どこかのパソコンショップか、リサイクル店で店員がしているエプロン。若干、ウキウキで試着。こういう開き直りも案外重要なのだろうと購入決定。他、耐電手袋や薄型工具入れ等を購入した。


 また、疲れたので、外が見えるベンチまで行き、夜景を眺めながら、自販機で買った温かいお茶を飲んだ。


「あ゛ぁぁぁぁぁ」


 と、深く淀んだため息が出てしまい、隣のベンチにいた女性2人から、怪訝な顔をされた。


『そりゃ出るだろ、ため息くらい!激動だったんだよ、この2日間。理不尽な巻き込み事故の渦中にいたんだから、心身共に疲弊してんだ』


 決して声には出せない心の叫び。ペットボトルを握って表してみたが、ただの妙な人だった。


 次の日、出社したものの、朝礼にどの位置で参加すべきかよく分からず、旧会議室前に立っていた。ジロジロ見られた。まだ、数日だもの。腫れ物扱いさ。

 朝礼後、残っている掃除をするため、エプロン装着。なんか、すごくいい。汚れないし、ネクタイも気にならず、片付けや移動もしやすかった。

 旧会議室内の配置は、入って右側に空間があるので、まず、入り口に長机を置き、受付のような配置にして、自分用のノートパソコンを設置して、所在確認を見えやすいようにした。長机の間を通って見える左右の壁側に他の長机を配置。片側が分解・掃除用、反対側はセットアップ作業用。入り口から見て、右奥には窓があり、開閉可能なので、そこは塞ぎたくなかった。


 『さて、始めますか。』


 見た目、誰が使うの?という年代物パソコンがあり、正直使い道が分からない。専用モニターもあるので、売った方が欲しい人もいるのではなかろうか。せっかく、閲覧制限のないノートパソコンを使えるので、調べねば。

 明らかに分かるwindowsマシンから、確認していくことにする。


「あ~、OSディスクが必要だな。総務部長の所に行くか」


 そう思って、3階へ向かう。うん、すっかり忘れてたんだ。


「何、そのエプロン?」


 総務部長が、まじまじと見ている。


「片付けや運ぶときに、埃で汚れまして。なので、エプロン装着で作業しております」

「う~ん、大変だなぁ。で、要件は?あ、OS?新しいライセンス買えないから、シリアルナンバーが分からないものは、どうにも出来ないね。OSディスクは、ネットワーク管理部から借りて渡すよ。あと、USBメモリが届いたので使って」

「はい、よろしくお願いします」


 今時の会社は、USBメモリの扱いに気を使うんだが、まだ、ゆるいね。逆に利用しなきゃ。そんなことを思いながら2階に行くと、モジャ夫がさっそく絡んできた。


「どこのお店の人?ホームセンター?弁当屋?」


 困らせようとしたいのが、見え見えの表情。こういう時の返答の仕方が、まだよく分からない。


「イビリのネタが増えて、楽しそうですね」


 と答え、旧会議室に戻った。


 さて、このパソコン達をどうしていこうかな。

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