第34話 決断

 次の日、社長からの意見確認があるので、また会議室に呼び出された。


「どうしようか、考えてみた?」

「はい、我々二人は、トナリの新規事業に移ることにしました」

「分かった。さっそくトナリ社長に連絡しておく。すぐ反応があると思うから」


 旧会議室に戻り、パソコンを起動させたタイミングで、統括部長から連絡があった。


「今から、トナリ社長が話があるそうで、株式会社トナリの1Fロビーに来てほしいそうだ」

「急ですね」


 急かされるまま、二人でトナリビルに伺う。


「ん~、そうかそうか。ウチに来ることにしたか」


 なんか嬉しそうに言われた。続けて言われる。


「今の給料はいくらもらってる?」

「私は、**万円です」

「ワタシは、??万円です」


 そうだよな~、スズモリさんの方が勤続年数長いから高いはずだ。


「マルタ君の方は増えるが、スズモリ君は、ちょっと上がるかなってくらいだ。あとは、いくら売上るか次第。保険等の手続きは、追々やってくから」


 フチガミさんが、後からやってきた。


「社長、鍵持ってきましたよ」

「それじゃ、隣の建物に行こうか」


 トナリビルの裏側にある平屋の建物。頑丈そうな作りで、入り口前が3~4台の駐車スペースがある。また、目の前が公園だ。以前、コンビニさんとスズモリさんでお昼を食べた場所。

 フチガミさんが鍵を開け、トナリ社長が先に入り、電気をつけた。


「かなり広いですね」


 中は事務机が6台まとめて置いてあるだけ。パーティションのような区切るものが今ないので余計に広く見える。入り口から、左奥がトイレ、右奥に流し台がある。もちろん空調設備は使える状態。


「ここは、別事業部があったんだが、他のビルに移転したんで、しばらく使ってなかったんだ。君らが音成でやってた、ちまちまとした確認作業をここでやってみたらいい。別の倉庫には、この空間の倍くらい、パソコン置いてあるから」


 まぁ、規模が違うな、音成とは。


「この空間の区切ったり、棚とか、そういう設備面はトナリ本社に余ってないですか?」

「設置に関しては、その道のプロに頼む。その方が、早いし安全。備品は、余ってるものを持ってって」

「はい、分かりました」


 一旦、トナリビルに戻る。また1階ロビーで話をした。


「君たちは、今月末で退社、来月からウチの社員扱いになる。残りの数週間は、荷運びと掃除等準備作業だ。エプロンが役立つな」


 嫌味とも取れるトナリ社長のいじり。まぁいいか、何とでも言えば。


「会社間での書類のやり取りは、系列会社だから、スムーズにいくと思います。必要提出書類は、別途連絡があるでしょうから、順番にやっていきましょう」

「はい、よろしくお願いします」


 話の続きを近くの『喫茶 象の杜』で聞くことになり、早めの昼食を取ることになった。料理を待っている間、トナリ社長が聞いてきた。


「不安か?」

「はい、不安はあります。私の場合、環境の変化等に極端に身構えたりするので」

「そういう時は、スズちゃんが尻叩いてやったらいい」

「結構、パンチをもらってます」


 そう答えると、脇腹のお肉をしっかり摘まれた。


「や~めなさい、よ~しなさい」


 スズモリさんの握力・腕力は、存分にある。食い込んでくれるので、しっかり痛い。


「ま、焦らずやっていったらいいよ。即、収益になる方じゃなくて、再利用・再活用で、会社の出費を削減していって、そこで、余った物が売上となるよう、仕組みを作っていかないと。以前の報告会内容を具体化する感じ」


 若干、緊張を残したまま、昼食を終え、会社に戻った。

 旧会議室で、スズモリさんが言う。


「ワタシは、さっきの話や場所で、ワクワクしました」

「え、不安はないの?」

「少しはありますけど、ここに留まるよりいいかな、と」

「そうね、この部屋じゃ、出来ること限定されすぎてるからね」

「あの、ワタシもエプロン買おうと思います。帰りについてきてください」

「例の場所の所で買うの?」

「はい、種類が豊富なんで」


 話し込んでいると、ドアをノックする人がいた。


「ちょっと手伝ってもらっていい?」


 コンビニさんだった。サポ班の緊急案件を手伝いながら、考えた。先に報告してもいいかなって。


「スズモリさん、サポ班には伝えようか」

「そうですね、いずれ知られるけど、先がいいでしょう」


 緊急案件が終わり、一段落したサポ班3名に旧会議室に来てもらった。


「突然ですが、我々二人は、株式会社トナリに移管されることになりました」

「ぁ~、統括部長から聞いたよ」

「んなっ!」


 すでに知られていた。コンビニさんが言う。


「マルタ君が、部長になるの?」

「さぁ?部署名も決まってないですし、役職名が必要なのかどうか・・・」

「まずは、お昼食べに寄ってあげるよ」

「頻繁に、トナリ社長が来ると思いますよ。ご一緒しますか?」

「コンビニ運営のパトロンにでもなってもらおうかな」


 若干、本気の考えに思えた。

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