終 ねこのあかちょうちん

 そうたくんの、一歳の誕生日がやってきました。

 きょうからそうたくんは大人です。


 大人になった、という実感がないまま、そうたくんはマタタビタウンにやってきました。ふくくんとぴのくんも、同じくらいの時期に生まれたので、まとめて大人になった、ということでいいのでしょう。

 3人は顔を合わせて、

「ぼく、赤ちょうちんってやつに行ってみたいんだけど」とそうたくんが提案し、

「いいじゃん赤ちょうちん。ビール飲みながら焼き鳥たべよう」とふくくんが賛同し、

「わあ、たのしそう。ぷはー、だ」と、ぴのくんが歩き始めました。


 赤ちょうちんが目に入りました。ちょうちんには「焼き鳥すふぃんくす」と書いてあります。毛のない猫の大将が、くるくると焼き鳥を焼いていました。

「生ビールとナンコツください」

 慣れた様子でふくくんが注文しました。どこで覚えたの、と聞くと、「ニャーチューブで見たんだ」とふくくんはしたり顔です。


 みんな生ビールと食べたい焼き鳥を発注します。大将はすっと、肉の刺さった串をタレにつけて、火にかけます。じゅうじゅうと油が炭に落ちて、香ばしい匂いが立ち込めます。

 すぐそうたくんの注文した鶏ももが出てきました。さっそくモグモグします。とんでもなくおいしいです。でもちょっとしょっぱくて、ビールをくいっと飲むとちょうどいい味です。

「ぷはー!」

 そうたくんはビールをおいしいと思いました。ほろ苦ですが、口の中の脂を押し流す爽やかさです。

 ふくくんの頼んだナンコツが出てきました。これは塩味のようです。コリコリと食べて、ふくくんもビールを飲みました。

「ぷはー!」

 ぴのくんの頼んだボンジリも出てきました。ぴのくんもそれを食べてビールを飲みます。

「ぷはー!」

 しばらくビールと焼き鳥を楽しんで、3人はだいぶ酔っ払ってきました。大人の特権です。お代を支払って、ちょっと酔いを醒まそうと歩くことにしました。

「最初はぼくら、将棋崩し仲間だったんだよね」

 ぴのくんが空を見上げました。すっかり陽は落ちていますが、ずいぶん陽が長くなりました。

「ああ、そうだった。将棋崩し棋士になりたかったんだ」

 そうたくんは自分の肉球を見ました。

「でもいっぱい楽しいことしたしさ、将棋崩し棋士にならなくてもそれはそれでいいんじゃないの?」

 ふくくんがそう言い、一同深く納得します。

「ぼくらは猫なんだからさ、楽しければそれでいいんだよ」

 そうたくんはそう言いました。


 そうたくんたちは人間の家で暮らしている猫です。ずっとこのマタタビタウンで働く必要はありません。お金は減ってくるとお腹のホヨホヨにチャージされます。


「また飲みにいこう」

「うん。かならずだよ」

「じゃあ、またね」


 3人はそこで解散しました。人間のお家に帰ってきたそうたくんは、幸せな気分でキャットフードを食べました。人間が、「そうたくん、お誕生日おめでとう」と言ってくれました。


 そうたくんは、子猫ではなくなりました。

 だからこのお話も終わりです。(完)

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こねこのそうたくん 金澤流都 @kanezya

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