4 ねこのとしょかん

 そうたくんはきょうも物置のタンスからマタタビタウンにやってきました。

 公民館をちらりと見ますが、きょうは将棋崩しのサークルは活動していないようです。

 じゃあ、街を散歩しよう。そうたくんはお腹のホヨホヨからお財布を取り出して、中身を確認しました。人間が使っているようなお金が入っていますが、お札の肖像画は人間でなく猫です。肖像画の下には「トンビリさん」と書いてあります。

 トンビリさんってだれだろう。そうたくんは図書館で調べてみることにしました。


 図書館ではたくさんの猫が、真面目な顔をして勉強したり調べ物をしたり読書したりしています。

「超さしみのつま理論」とかいう難しそうな本を読んでいる大人の猫がいると思えば、「はれときどきやきざかな」という子供の本を読んでいる子猫もいます。勉強している猫もいて、「一級壁バリバリ士」の資格の勉強や、「アメショ大学入試過去問集」で勉強している学生の猫など、みな本を見ながら熱心に勉強しています。

 そうたくんは子猫なので、児童書のコーナーで子供むけのトンビリさんの伝記を探してみることにしました。


「トンビリさん、トンビリさん」


 本棚を探してもトンビリさんのことを書いた本が見つからないので、カウンターのよこに置いてあるパソコンから検索をかけてみます。「伝記 トンビリさん」という本は、貸し出し中でした。なあんだ、としらけた気分になりました。

 でもどうせ図書館にきたのだから、なにか本を読もうと適当に本を探します。なんだか面白そうだったので、「人間は猫をどう見ているか」という科学の本を読んでみることにしました。


 ……読んでみましたが、そうたくんにはちょっと難しかったようです。

 その本を本棚に戻して顔をあげると、聡太くんにちょっと似た、グレーの毛並みの子猫が、カウンターに本を返していました。図書館員の黒猫のおばさんがその本を棚に戻しにきました。

 本棚に戻ってきた本は、


「子猫のすぐ強くなれる将棋崩し入門」


「伝記 トンビリさん」


 の二冊でした。

 ああっ、どっちもいますぐ読みたいやつです。そうたくんはぐるぐる悩みました。悩んでいるそうたくんを見て、そのグレーの子猫が近寄ってきました。


「子猫は三冊まで貸し出してもらえるよ」


「そうなの? ありがとう。借りてくるよ」


「あっ、カードは持ってる?」


「……ううん。ぼく人間のおうちから来たけど、作れるの?」


「マタタビタウンに来る猫ならだれでも作れるよ」


 そのグレーの子猫は親切に教えてくれて、そうたくんは図書館のカードを作り、さっきの本を借りました。


「ありがとう。きみなんていうの? ぼくはそうただよ」


「ぼくはふく。きみも将棋崩しが好きなの?」


「うん。楽しいから」


 そうたくんは借りた本をかかえて、近くの公園に向かいました。いい天気です。さっそくトンビリさんの伝記を開きます。

 トンビリさんは人間の世界の、トルコという国にいた野良猫でした。道路の段差に肘をかけてぐうたらしているのが有名になって、亡くなってから銅像が造られたすごい猫なのだそうです。

 将棋崩しの本も読みます。そうたくんはちょっと難しいと思いましたが、たくさん勉強になることが書いてありました。


 本を閉じて日向ぼっこしているうちに、そうたくんは寝てしまいました。気がつくと人間のおうちにいました。お腹のホヨホヨをつついて、借りた本が入っているのを確認し、そうたくんはまた寝ました。

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