5 ねこのやまのじんじゃ

 そうたくんはまた物置のタンスから、マタタビタウンに向かいました。

 マタタビタウンは相変わらず猫がたくさんいます。痩せている猫、太っている猫。でっかい猫、小さい猫。

 そうたくんは人間のおうちで暮らしているので、こんなにたくさんの猫をみたことはありません。ずっとずっと前、生まれてすぐのころに、おかあさんときょうだいがいたような気がしますが、小さいころにいまの人間のおうちに来たので、正直覚えていないのです。きっと会ってもわからないんだろうな、と、そうたくんは空を見上げました。


 そうたくんは、図書館に本を返しに行ってから、街から見える山に登ってみることにしました。そうたくんは常に高みを目指す猫だからです。街を歩いているとぴのくんとふくくんを見つけたので、子猫探検隊を結成することにしました。


「あの山、てっぺんに神社の鳥居みたいなのがあるぞ。あそこまで登ってみよう」


「よし。じゃあ言い出しっぺのそうたくんが隊長だ。ぼくとぴのくんが副隊長だ」


「副隊長?」


「副隊長なら二人いても、『船頭多くして船山に登る』にはならないだろ」


 ふくくんは難しい言葉を知っているんだなあ。そうたくんはびっくりしました。


 山のふもとに着くと、木でできた階段がありました。どうやらこれが登山道のようです。


「よし。これを登ろう」


「千里の道も一歩から。よいしょ」


「わあ、すっごい急な坂」


 3人は登山道を登り始めました。山を見たときにてっぺんが木で覆われていたので、そんなに高い山ではないとそうたくんは思っていましたし、ぴのくんもふくくんも同じ考えでした。


 山をゆっくり登っていくと、登山帽を被った大人の猫とすれ違いました。

「こんにちは」

 ふくくんが挨拶します。大人の猫も挨拶しました。ぴのくんもそうたくんも挨拶しました。


「山では知らない人でもあいさつするのが礼儀なんだよ」


 そうなのか。そうたくんはふむふむと納得しました。


 そう思っていると、大人の猫が話しかけてきました。

「きみたち、この山のどこまでいくんだい? この山、てっぺんまで登るなら子猫だけじゃ危ないよ」


「そうなんですか?」


「ああ。山のてっぺんには『十二支入れなかったぞ神社』っていうのがあるんだけど、そこは本物の登山家がいくところだよ」


「じゃあ、そろそろ諦めようか?」


「そうだね。大人になったらまたてっぺんまで行ってみよう」


「十二支入れなかったぞ神社、いつか行ってみたいねえ」


 というわけで子猫探検隊はあっさり下山することにしました。猫だから気まぐれなのです。

 その足で図書館に向かい、「十二支入れなかったぞ神社」について調べてみることにしました。

 マタタビタウン郷土資料のコーナーに、ちょうど「十二支入れなかったぞ神社」の本がありました。「十二支入れなかったぞ神社」は、十二支を決めるレースで寝坊した猫代表をまつった神社だそうです。おかげさまで12年に一回の面倒な当番を引き受けないで済んだ感謝を込めて建立されたものだ、と書いてありました。

 創建はマタタビタウンがまだ農村だったころで、いまでも年に一度、マタタビタウンでお祭りをするのだそうです。

 たどり着くには、狭いトンネルをくぐったり、断崖絶壁を登ったり、うんと高いところからジャンプして着地したりしなくてはならないようです。確かにこれは子猫には無理です。


「もっと体を鍛えなくちゃ」

 そうたくんはそう思いました。ぴのくんやふくくんと別れて、おうちに帰ってそうたくんはキャットフードをいっぱい食べて、ぐっすり寝ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る