12 ねこのいどうゆうえんち

 そうたくんはいつも通りマタタビタウンにやってきました。なにやら街が賑やかです。大きな観覧車や見せ物小屋が立ち並ぶ様子を見ると、どうやら移動遊園地がやってきているようです。

 街は猫だらけでした。この機会に乗じて、お店やさんも売り出しをかけていて、デパートもお店の前で風船を配っています。そうたくんはもらった風船をしっぽにくくりつけて、移動遊園地に乗り込んでいきます。

 なにやら恐ろしげな「猫面魚のミイラ」だとか、「親が人間のうな重(松)を盗み食いしたせいで首が伸びるようになってしまった三毛猫の少女」だとか、そういう見せ物小屋の前を通り過ぎると、ふくくんが射的にかじりついていました。しっぽにはそうたくんと色違いの風船をつけています。


「ふくくん、どうしたの?」

「なにがなんでもあのぬいぐるみがほしいんだ」


 ふくくんがぬいぐるみに執着しているところを、そうたくんは初めて見ました。とくにどうということのない、ごくごくふつうのお魚のぬいぐるみです。

 でもまあ、気持ちは分かるな、とそうたくんは思いました。そうたくんもお気に入りのおもちゃは離したくないからです。


「ふくくん、なにしてるの? あっちで仮面ニャイダーのショーが始まるよ」

 やっぱりヒーローが好きなぴのくんがやってきました。ぴのくんもしっぽに風船をつけていました。


「それよりあのぬいぐるみが欲しいんだよ。ぼく、おもちゃを集めるの好きなんだ」

 そう言いながらふくくんは射的の屋台のおじさんにお金を払おうとして、おじさんに断られてしまいました。よほど長いことかじりついていたのでしょう。

 ふくくんは肩を落としてしょんぼりしています。どうなぐさめればいいかそうたくんは悩みましたが、まあそのうち元気になるだろうと、近くの屋台で仮面ニャイダーの袋のわたあめを買って3人で分けることにしました。

 3人はわたあめをかみかみしながら、仮面ニャイダーのショーを観ました。悪者がやっつけられるのは痛快です。ふくくんの機嫌も治ったようでした。猫は気まぐれなのです。


 ショーを観たあと、3人はお化け屋敷に向かいました。

「怖くないよ」とそうたくんが見栄をはると、

「ぼくも怖くないよ」とぴのくんも言います。ふくくんも「ぼくだって怖くないよ」と言います。しかしお化け屋敷からは、すごい悲鳴が上がっていました。

 3人はみんなちょっとおびえながら、お化け屋敷に入っていきます。ばあ、と、「知らない人間のおじさん」に扮したお化けが出てきて、3人はわあと悲鳴を上げました。

 急ぎ足で進むと、「大音量で鳴る人間のピアノ」がありました。また悲鳴を上げて、どんどん逃げるように進みます。

 最後には「でっかくてすごい音のする掃除機」が出てきました。3人は転がるようにお化け屋敷を出ました。

 お化け屋敷を出て、3人はアハハと笑いました。それから観覧車に向かいました。


 観覧車に乗ると、マタタビタウンが一望できました。

 すっかり夕暮れのマタタビタウンは、いろいろな明かりが灯りはじめてとてもきれいでした。

「楽しかったね」

「お化け屋敷怖かったね」

「仮面ニャイダーのショー、カッコよかったね」

 そんな話をしているうちに、観覧車は一周して、地面に戻ってきました。


 3人はそれぞれおうちに帰りました。人間を心配させるといけないからです。

 そうたくんはおうちで、たくさんキャットフードを食べて、ぐっすり寝ました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る