19 ねこのまちのパンやさん

 さて、きょうもマタタビタウンにやってきたそうたくんは、なにやらすごい行列を見つけました。

 行列の向こうには「ベーカリーノルウェージャン」というお店があります。パン屋さんのようです。

 そうたくんは人間のおうちで人間のこぼしたパンを食べようとして怒られたことがあります。パンはどんな味がするのか、細かいくずしか食べたことがないのでわかりません。ぜひ食べてみよう、と行列にならぶと、ぴのくんとふくくんもやってきました。

「これなんの行列?」

 ふくくんに訊ねられ、そうたくんは「パン屋さんだって」と答えました。結局3人でパン屋さんに並びます。

 パン屋さんに近づくにつれ、なにやらいい匂いがしてきました。見ればパン屋さんでは、職人さんがパンの生地をよくこねて焼いています。棚にはクリームパンやチーズパン、ほかにも色とりどりの菓子パンが並んでいます。

 3人はパン屋さんの店内に入りました。すごくいい匂いがします。トングで「マグロクリームパン」や「ササミチーズパン」をとりました。

 店のなかはとても混んでいました。さすがに行列ができるのだから当然でしょうか。大人の猫たちはトングをカチカチしながら、食べたいパンを選んでいました。

「すごく混んでるね」

「うん、行列だったからね」

「このカツオデニッシュ、おいしそうだなあ」

 なぜかふくくんが食いしん坊の顔をしています。いちばんたくさんパンを買ったのはふくくんでした。レジを通して、パンを袋にいれてもらいました。


 3人はいつもの空き地でパンの袋を開けました。それぞれ好きなパンにかぶりつきます。フワフワでサクサクでジュワジュワでした。

「パンってこんなにおいしいんだね」ぴのくんがほっぺたを押さえながら言います。

「人間は食べさせてくれないもんね」そうたくんはパンをもぐもぐします。2人も、人間は食べさせてくれないと言いました。

「ぼくはこの間、カニカマを食べようとしてすごく怒られたよ」と、ふくくんが口をとがらせました。

「なんで人間は自由に食べさせてくれないのかな。ぼくも人間の食べてたよくわかんない料理を食べようとして怒られた」そうたくんもぶーぶー言います。

「それってどんな料理?」ぴのくんが訊いてきました。そうたくんは、

「何か皮みたいなのにお肉がくるんであるやつ」と答えました。

「ああ、それはギョウザってやつで、猫が食べたらヒンケツになってジュウイに連れていかれるらしいよ」

 ふくくんの答えを聞いてそうたくんはぞわりとしました。ヒンケツがなんなのかはわかりませんが、ジュウイが怖いところなのは知っています。

「ここは人間のことを考えなくてよくていいなあ」と、ぴのくんがぼやきます。

「でも人間はやさしいよね」

 そうたくんは小さくそう言いました。


 夕方になったので、そうたくんは人間のおうちに帰りました。人間の用意したキャットフードを食べながら、すきあらばパンを食べてやろうと決意しました。

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