15 ねこのまわらないおすしやさん

 そうたくんはまた、物置のたんすからマタタビタウンに向かいました。

 なんだかお腹が空いたなあ、と思って、ふと見ると目の前に「寿司サビ」という回らないお寿司やさんがありました。

 回らないお寿司。なんてすてきなひびきでしょう。聡太くんはお腹のホヨホヨから財布を取り出して、お金が足りるか見てみることにしました。

 ばりばり、とファスナーの財布をあけると、トンビリさんが5枚ばかり入っていました。もし座るだけでトンビリさんが20枚飛んでいくようなお寿司やさんだったらとても手が出ません。

 よく見るとなにやら看板が出ています。

「ランチ限定おまかせ寿司 2000ニャン」

 2000ニャン。それならたぶん払えます。そうたくんはお寿司やさんに入ってみることにしました。

「へいらっしゃい!」

 サビ猫の大将がそう言ってにかっと笑います。そうたくんは「ランチ限定おまかせ寿司ください」と注文しました。

 大将は小豆色の肉球で器用に寿司を握ります。最初はたまご焼きです。ふわふわのたまごには、「寿司サビ」の文字が焼き付けてありました。

 さっそくぱくりと食べます。たまごのふわふわが口に広がり、そうたくんは「おいし〜い」と声に出してしまいました。

「ありがとう!」

 大将はこんどはコハダを出してきました。よく下処理されたおいしそうなコハダです。これもぱくっといきます。やっぱりすごくおいしいです。

 次々に、イクラの軍艦だとか、昆布締めのヒラメだとか、イワシと梅肉だとか、見たこともないきらびやかなお寿司が出てきます。そうたくんはドキドキしてきました。ゼロをひとつ見落とした気がしはじめたのです。


「あの、おまかせ寿司って、本当に2000ニャンなんですか?」


「そうだよ、おいしいから心配したかい?」


「……はい」


 大将は陽気に「はっはっは」と笑って、次のネタを握ってくれました。アナゴです。そうたくんはやっぱりそれもおいしいおいしいと食べました。

 最後に出てきたのは本マグロの中トロでした。そうたくんは、口の中でとろけるマグロの肉と脂をじっくり味わい、ほう、とため息をつきました。

 全て食べ終わって、そうたくんは魚のつく漢字がびっしり書かれた湯呑みでお茶を飲みました。これもおいしいです。

「ごちそうさまでした」

 そうたくんは財布から2000ニャン取り出して支払いました。大将は陽気に、「またどうぞ」と言ってくれました。そうたくんはご機嫌で「寿司サビ」を出ました。


 寿司サビを出たところで、ぴのくんとふくくんと出くわしました。

「えっ、そうたくん、回らないお寿司食べたの?」

 ぴのくんがびっくりします。

「ランチは2000ニャンなんだって」

「ええーっ。ぼくらさっき回転寿司にいってふたりで5000ニャンも払っちゃったよ」

 ふくくんがため息をつきます。

 3人はその足で空き地に向かい、お腹のホヨホヨから取り出した将棋セットで将棋崩しをして遊びました。それから、人間のおうちに帰りました。

 そうたくんは人間が帰ってくるまで、中トロの味を思い出してにゃむにゃむしました。

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