29 ねこのおすしやさんのタラなべ

 そうたくんはいつものようにマタタビタウンにやってきました。マタタビタウンもすっかり冬です。ずっと前、まだ小さな子猫だったころは、ぽかぽかとあたたかくて、たのしいこともたくさんありましたが、かまくらをつくってからこちら、特に楽しいことを思いつくことができていませんでした。

 なにしよっかなあ、と顔をあげると、いつぞや回らないお寿司を食べた「寿司サビ」に、「タラ鍋宴会コース おひとり様1500ニャンから」と書いてありました。

 宴会。聡太くんはまだ子猫ですから、お酒が飲めません。でもタラ鍋というのはおいしそうだなあ……と、ふくくんとぴのくんも誘って、タラ鍋を食べることにしました。


 寿司サビに入ると、大将(すごくめずらしいオスのサビ猫でした)が、座敷に案内してくれました。席は掘りごたつになっていて、そうたくんたちは「あったかーい……」とちょっと寝てしまいたくなりました。

 テーブルの真ん中にはコンロが置かれ、昆布で出汁をとった鍋が置かれています。そこに、寒ダラの身やアラや白子が投入されていきます。白菜もドサドサーっと入りました。これをポン酢でいただくようです。

「……おいしそ」

 ふくくんがそう呟きました。煮えている寒ダラは、そのまま食べてもおいしそうです。

「煮えたかな。まだかな。早く食べたいな」

 ぴのくんがヨダレを飲み込みます。


 しばらく煮えるのを待ってから、3人は鍋に箸を伸ばしました。まずは身からです。

 柔らかく煮えた白身は、いかにもタンパク質たっぷり、という味です。ポン酢のさわやかな味とともに食べると、とてもさっぱりしていて、3人はうまいうまい、とタラをつつきました。

 続いてアラです。骨のまわりについた身をしゃぶると、骨から出た味が口に広がります。

 残った、ちょっと不気味な白子に、恐る恐る箸をのばします。小さく切ってある白子を、箸でつまんでポン酢に浸し、口に運びます。

 いままで食べたことのない味がしました。とてもおいしいです。口の中でねっとりと広がる濃厚な風味に、一同「おいしーい……」とうっとりしました。

 白菜も食べます。タラから出た味がしみて、白子の濃厚な味をスッキリとリセットしてくれます。白子と白菜を無限ループできそうです。

 あっという間にタラ鍋がなくなりました。お茶を飲みながら、

「おいしかったねえ……」とそうたくんはため息をつきました。

「タラ鍋、こんなにおいしいんだねえ」

 ふくくんがぼけーっとした顔で言いました。

「来年もここでタラ鍋食べようよ」

 ぴのくんがそう提案して、そうしよう、と3人は決めました。


 タラ鍋パーティは、おいしすぎてろくにしゃべらずに終わってしまいました。

「もっといろいろしゃべりたかったね」

 そうたくんがそう言うと、ふくくんが笑って、

「まあそれは仕方ないよ。タラ鍋だもの」と答えました。その通りです。人間のお惣菜の白身魚フライがあれだけおいしそうなのですから、もっと新鮮な、回らないお寿司やさんのタラ鍋がおいしくないはずがありません。

「大人になったら、生ビールぷはーって飲もうよ。きっとおいしいよ」

 そうたくんは人間のお家のことを思い出してそう言いました。ふたりも、「生ビールぷはーかあ」と納得した顔です。

 来月には大人の猫になってしまいますが、ちょっとした夢ができました。3人で生ビールぷはー、という夢です。


 3人はそれぞれ人間のお家に帰りました。帰ってくると、人間がゆでたササミをくれました。

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