23 ねこのはくぶつかん
マタタビタウンの街路樹はすっかり葉を落とし、冬の風情になってきました。
そうたくんとぴのくんとふくくんは、人間のお家が同じ街にあるそうで、人間が「そろそろ雪が降るんじゃないか」と言っていたのを聞いていました。「ふゆたいや」のコマーシャルや、暖かい風を吐き出すストーブといったものを見て、冬をしらない3人は冬がどんなものか想像してみることにしました。
「雪っていうのは真っ白くてふわふわしてるんだって」
そうたくんはそう言いました。
「じゃあ雨が凍ってかき氷みたいになったのかな」
ふくくんが考え込みます。
「寒いのはいやだなあ」
ぴのくんが難しい顔をしました。
結局3人でああでもないこうでもないと言ってもどうしようもないので、「自然博物館」というところに行ってみることにしました。
自然博物館はとても大きな建物です。入るとさまざまな魚の骨が飾ってあります。一つ一つに説明がついています。
「マグロってこんな骨なんだ」
聡太くんはマグロの骨を見上げました。これにお寿司やさんで食べたあのおいしい身がついているのかあ、としみじみと思います。
進んでいくと「猫類の進化」という展示がありました。人間の家にいるときの4本足の姿から、マタタビタウンにいるときの2本足になった様子が精密な絵で展示してあります。
ほかにも鶏肉の仕組みだとか人間の家の庭にやってくる鳥だとか、あるいは昆虫だとかの標本がいっぱいあります。そうたくんは小さいころ、人間のおうちでカミキリムシと戦ったことをぴのくんとふくくんに自慢しました。
「カミキリムシってチキチキ鳴くんだよ」
「へえー……なんかおっかない顔してるね」
ぴのくんはカミキリムシの標本をしみじみと観ました。そうたくんが戦ったカミキリムシより小さいです。なんだか誇らしくなりました。
3人は面白い展示をたくさん観て、奥にある「季節」の展示にたどり着きました。大きな模型で地球と太陽、それからいろいろな惑星が並んでいます。
どうやら3人と同じことを考える春生まれの子猫は多かったようで、子猫がけっこうな密度で展示を見ていました。どうやら、地球には少し傾きがあって、それで太陽がたくさん当たるときが夏、あんまり当たらないときが冬、という理屈のようです。
「でもそれじゃ冬がどんなだかよくわかんないんだよねえ」と、ふくくんがつぶやいて、ふと顔を上げるとずっと向こうに季節の映像が見られるテレビがありました。
さっそく、春から順番に見ていきます。
春はたくさん花が咲いて、鳥がさえずり、とても気持ちよさそうです。3人は春のころは赤ちゃんだったので、こんないい季節があるのか、と感動しました。
夏はじりじりとあっついです。コンクリートからは陽炎が立ち昇っています。人間も袖のない服を着ていて、どうやら暑いのは人間も同じなようです。
秋は最近の季節によく似ていました。葉っぱが色づいて枯れていくのも見たことがあります。
さて、問題の冬です。真っ白です。雪というものが積もり、冷たそうな風が吹いています。風に舞い上がった雪が視界をさえぎり、家々にはつららと呼ばれる氷の柱がぶら下がっています。ストーブがかかってあたたかい部屋の中がいちばん幸せそうです。
「あんなひどい季節になるんだ」
そうたくんはしょんぼりとそう言いました。
「でも冬のあとは春がくるんだね」
ぴのくんがそう言い、そうたくんははた、とひざを打ちました。
「そっか、冬が終われば春になるんだ。で、僕たちは1歳になって子猫じゃなくなるんだ」
子猫じゃなくなる、と自分で言って、そうたくんはすごく悲しい気持ちになりました。いつまでも人間に甘えていたいからです。
ふたりも、子猫じゃなくなるということに気づいて、なんだか悲しい顔をしています。
3人が黙っているところに、ボランティアの案内係のおばさん猫が現れました。ミケトラの毛並みのおばさんは、
「春には大人になっちゃうの?」と尋ねてきました。3人はしょんぼりと頷きました。
「大人になっても、人間は甘やかしてくれるから、安心していいのよ」と、ミケトラのおばさんは言いました。3人はちょっとホッとしました。
「大人になっても、僕らは友達かい?」
そうたくんは2人にそう尋ねました。
「もちろんだよ。きっとずっとマタタビタウンで遊べるよ」
ぴのくんがそう言い、ふくくんも頷いて、
「人間にさんざん甘えようじゃないか」と答えました。
3人はそこで解散しました。春になったらお花見をしようと約束しました。人間のお家に帰ると、人間がキャットフードをくれました。
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