第39話
6月14日に「ハズレスキル『おもいだす』で記憶を取り戻した大賢者〜現代知識と最強魔法の融合で、異世界を無双する〜」の1巻が発売されます。
レーベルはサーガフォレスト!!
イラストレーターは『チート薬師のスローライフ』の松うに先生になります。
よろしくお願いします。
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3日後。
十分な装備を調え、俺たちはクワンドンの東にあるロスローエン鉱山にやってきた。鉱石を運ぶ荷車。敷かれたレール。教科書で昔の炭鉱のような光景が広がっている。ただしそこに人気はまったくない。鍬や鶴嘴、無造作に置かれ、風雨にさらされて真っ赤に錆びていた。
早速、エイリアさんからもらったマテリアルデバイスの地図を頼りに、鉱山の入口へとやってくる。
中を覗き込むと真っ暗だ。
「あるじ……。中はまっくらだよ」
「暗いところは嫌いか、ミィミ」
「こ、こわくないもん」
「本当か。昨日だって1人でおトイレを……」
「わーわー。ち、ちがうもん! べつにこわかったからじゃないもん。トイレの場所がわからなかっただけだもん。も-! あるじのいじわる」
「わるいわるい。ごめんな、ミィミ」
緊張をほぐそうと思ったけれど、想像していたよりミィミが怒ってしまった。
でも、なでなでしてあげると、途端に尻尾を振り始める。ミィミは本当に可愛いな。
「早速、入ってみるか。その前に……。ミィミ、これを付けろ」
「これ、なに?」
俺がミィミに渡したのは、何の飾り気もない腕輪だ。ただし中央にちょこんと小さなミスリルが埋まっている。
「それもマテリアルデバイスだ。そこに魔力を集中させてみてごらん」
「わかった」
ミィミは目を瞑り、集中する。魔力をマテリアルデバイスに注ぐと、腕輪は光り始めた。
十分な輝度があり、4、5メートルぐらい先まで見える。
道具屋に進められるまま買ってみたが、こいつは当たりだな。松明は片手が塞がるし、魔法で照らすと魔力を消費する。しかし、これだと手を塞ぐこともなく、周囲の状況を確認できる。
暗闇で過ごす鉱夫たちのために作られたマテリアルデバイスらしい。
スマホのような地図といい、こういう発想はこの世界のものにはできない。この腕輪型の電灯も異世界の勇者が考案したのだろう。
ひとまずミィミの不安が解消されたところで、鉱山の奥へと進む。
ここでもエイリアさんからもらったマテリアルデバイスは大活躍だ。迷路のようになっている鉱山内でも、しっかりナビゲートしてくれる。これがなかったら、鉱山の中で迷子になって、ミスリルの発掘どころではなくなっていたかもしれない。
「ミィミ、ここでやることを確認しておくぞ。1つはミスリルを探すこと。もう1つは安全圏内で魔獣を倒して、スキルポイントを稼ぐこと。目標はスキルツリーレベル30を目指す。最後に絶対に無理をしない。いいね」
「エイリアの
「それは……、ダメだ。エイリアさんとの約束は俺たちの無事の帰還だ。わかるな」
「……わかった」
少ししょんぼりした様子で、ミィミは応じる。俺はその頭に手を置いた。
「ミィミの気持ちはわかる。俺もできればエイリアさんに報いてやりたい。でも、そのためにミィミを失うことになったら、俺は悲しい」
「……あるじ、ごめん。ミィミ、わがまま言わない」
「ありがとう、ミィミ」
そんなやりとりをしていると、ミィミの足が止まる。
前方、10メートルほどだろうか。まだよく見えないが、何かが蠢いているのがわかる。ほぼ岩のようなシルエットの魔獣が、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「ミスリルラーバか……」
Dランクの魔獣だ。
人の背丈ぐらいある芋虫に、ミスリルや様々な鉱石が同化した魔鉱獣だ。鉱山や魔鉱がダンジョン化した時によく出てくる魔獣で、成長するとミスリルアゲハという蝶の魔獣になる。
「1、2、3体か……。第一魔獣としては、悪くない難度の魔獣だ。今の俺たちの敵ではないが、油断するなよ、ミィミ」
「うん。任せて、あるじ」
ミィミは勢いよく飛び出していく。
ちょっ! 飛び出すのはいいが、無警戒に飛び出しすぎだぞ、ミィミ!
しかし、俺の心配をよそにミィミはミスリルラーバの上を取る。馬乗りになると、渾身の力を込めて、拳をぶつけた。
果たして聞こえてきたのはミスリルラーバの悲鳴ではなく、ミィミの絶叫だった。
「いったぁぁああああああいいいい!」
ミスリルラーバの背中は、ミスリルや他の鉱物が混ざった、言わば合金だ。最悪、ナックルガードに使われている鉄より固い可能性が存在する。
叫びミィミをよそに動いたのは別のミスリルラーバだ。仲間のミスリルラーバに馬乗りになっていたミィミに、糸を吐き出す。
取り出したばかりの粘着質の糸は、あっという間にミィミを絡め取る。戦闘の合間でいうのもなんだが、糸が白いせいか……、ちょっと卑猥だ。
「もう! なにこれ!!」
おっと……。惚けている場合じゃないな。
「ミィミ、動くなよ」
俺は〈魔法の刃〉の全体化を使って、ミスリルラーバを牽制する。さらにミィミにかかった糸も〈魔法の刃〉で吹き飛ばした。
ある程度動けるようになったミィミは、自らの力でかかった糸をふりほどいた。
「もう! ミィミ、怒った!! あるじ! あれを出して!!」
「もう使うのか?」
「うん……」
ミィミは相当お怒りらしい。
俺は素直に従う。
〈
中空に穴が浮かび上がると、俺は手を突っ込む。中から取りだしたのは、大きなハンマーだった。
それを両手で持って、ミィミに放り投げた。しっかりキャッチしたミィミは、馬乗りの体勢を崩さず、思いっきりハンマーを振り落とす。
「やあああああああああああ!!」
裂帛の気合いとともに、躊躇することなくハンマーを落とすと、今度こそミスリルラーバは四散した。その後消滅する。
(一撃か。こえぇ……)
改めてミィミの膂力に瞠目する。
一方、ミィミは気が収まらないらしい。ふー、と息を吐くと、次なる獲物に迫る。
ジャンプ1番で近くのミスリルラーバの背中に乗った。
さっきからわざわざ背中に乗っているのは、これが確実だからだ。相手の動きを制するとともに、こちらも反撃を受けにくい。
俺が教えたことではないが、緋狼族の本能が勝手に最適解を導き出しているらしい。
ミィミは2匹目もなんなく平らげる。
そこに3匹目がまた糸を吐こうとしたが、それを俺が〈魔法の刃〉で阻止した。
「俺をお忘れなく……」
糸を封じられ、仲間もいなくなった。いくら魔獣でも不利を悟ったらしい。キィキィと命乞いのような声を上げたが、ミィミは容赦しなかった。
「これで最期!!」
ハンマーを振り落とす。
硬い鉱物に覆われた背中などなんのその……。緋狼族の基礎能力と、重たい鉄のハンマーはミスリルラーバの背中を食い破る。
攻勢に出れば、あっという間の圧勝劇だった。
しかし、ミィミは不安そうだ。
「うう……。まだペタペタするよ~、あるじ」
「初っぱなから災難だったな」
「ミィミ、あの芋虫きらい」
「3匹も仕留めといて何を言ってるんだよ。スキルポイントは入ったか?」
「うん。1つレベルアップできそう」
Dランクとはいえ、さすが魔鉱の恩恵を受けた魔獣だな。他の魔獣と比べても、かなりスキルポイントを持っているらしい。
少々危険はあるが、ここでスキルポイント稼ぎをしようとしているのは、鉱山が稼ぎ場としては効率がいいからだ。
先ほども言ったが、魔鉱獣は他の魔獣と比べてスキルポイントを持っている。コドモドラゴンのように討伐に難儀する魔獣も少ない。基本的に大型の魔獣が少ないと見ているからだ。
それにこの迷路のような地形は、万が一魔獣から退避するためにはちょうどいい。こっちにはエイリアさんがくれた優秀なマテリアルデバイスがあるしな。
「よし。そうとなれば、ガンガン稼ぐぞ、ミィミ」
「あるじ、あれ?」
「ん? どうした?」
ミィミが指差す方を、光のマテリアルデバイスで照らした。
現れたのは、一対の赤い光。そして、先ほどのミスリルラーバの3倍はでかい巨大芋虫だった。
「うわっ! グロ!!」
1000年前の経験で魔獣は見慣れているのだが、現代の生活に慣れてしまったこともあって、さすがに引いてしまった。
ともかく通路いっぱいに大きなミスリルラーバがいて、俺たちの方を向いている。
よく見ると、その後ろにはさらに似た大きさのミスリルラーバが並んでいた。
そこで俺はピンとくる。
さっきのミスリルラーバの悲鳴。あれは命乞いでも断末魔の叫びでもなく、仲間を呼んでいたことを。
「オームの逆襲かよ」
「あるじ、おーむって……」
「話は後だ。構えろ、ミィミ」
「うん」
ミィミに指示を出した直後だ。先頭のミスリルラーバがくるっと丸まる。実は俺たちの前は緩やかな上り坂になっているのだが、その坂の上をゆっくりとミスリルラーバは転がってきた。
(おいおい。これってお約束のあれじゃないか)
「ミィミ、一旦後退するぞ」
「うん。わかった」
俺とミィミは転進する。
一方、坂道を転がってきたミスリルラーバは速度を速め、俺たちを追ってくる。それだけじゃない。その後を無数のミスリルラーバが追いかけてきたのだ。
小さいミスリルラーバを倒すことは難しくないが、問題は岩のように転がってくる固有種だ。
あんなに大きなミスリルラーバ、初めて見たぞ。さすがに反則だろ。
「あるじ!」
「なんだ、ミィミ?」
「前! 穴……!」
「穴ぁぁああああああ!!」
俺もミィミもブレーキをかけるが遅い。
俺たちはそのまま鉱山の中にぽっかりとできた縦穴へとダイブするのだった。
◆◇◆◇◆
「あるじ! あるじ!!」
ミィミの声が聞こえる。
直後、響いたのは、痛みだ。腰を強かに打ったらしい。それでも大して怪我はしていなかった。
「俺……」
直前が記憶がフラッシュバックする。最終的に俺はミィミを抱えて、穴の底に落ちていったのだ。
「ミィミ、大丈夫か?」
「うん。だいじょうぶ。これがクッションになった」
ミィミが尻尾で払ったのは、ふかふかの布だ。中には大量の落ち葉が入っているらしい。これが落ちた時の衝撃を吸収してくれたようだ。
おそらく鉱山の鉱夫が万が一落ちた時の対策として設置したものなのだろう。
ともかく助かった。
「ミスリルラーバは? あいつらも落ちてきたんじゃ」
「あいつらは落ちてこなかった」
ミィミが首を振る。
あの勢いを止めて、転落を防いだのか。それとも途中でつっかえた、とか。
後者はともかく、ミスリルラーバにそこまでの知能があるものだろうか。
少し考えた後、俺はハッとあることに気づく。
慌てて、地図のマテリアルデバイスを取り出す。幸いなことに落下の衝撃で壊れてはいなかったが、ある重大なことに気づいて、俺は顔を曇らせた。
「あるじ?」
「まずいな……」
マテリアルデバイスには『
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
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