第4話

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引き続き更新してまいりますので、よろしくお願いします。


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 【収納箱イ・ベネス】の中を覗くと、他にもたくさんの俺が賢者時代に使っていた装備が残っていた。


 どうやら転生しても【収納箱イ・ベネス】の中のものは、引き継がれるらしい。


 恐らく魔法技術の中にも、アドレスやコードのようなものがあるのだろう。それが引き継がれることによって、今俺は魔法を使えている。


 賢者の記憶を思い出したからと言って、何の魔法訓練も受けていない肉体が魔法を使えるのはおかしい。ゲーム本体はあっても、メモリーを引き継がなければ同じ状態に戻せないソーシャルゲームのようなものだ。


 そのコードのようなものですら、スキル『おもいだす』は思い出し、脳にコードごと刻んで、魔法を使えるようになっているのだろう。


 【収納箱イ・ベネス】が賢者時代と同様に使えているのは、そのコードを引き継げているからだと考えられる。


 スキル『おもいだす』……。


 意外と奥が深い魔法なのかもしれない。


「火蜥蜴の革手袋に、ムーンラビットの皮で作ったブーツ。蛟鱗のベルト、護宝石アミュレット一式……。ああ、不死鳥羽根付きの帽子も忘れないように――――ぐわっ!!」


 俺は昔の装備を試着するが、途端膝を突いた。よく考えたら、護宝石アミュレット以外魔力が必要とする魔導具ばかりだ。


 昔なら、ほぼ無尽蔵に魔力があったから問題なかったのだが、今の俺はまだまだもやし体型。さすがに賢者時代の装備はまずいか。


 【収納箱イ・ベネス】の中には、竜殺しやら、神殺しやら、出すところに出せば伝説級の宝具と鑑定される武具防具が揃っているのだが、しばらくは使えなさそうだ。


 一先ず火躱しの衣だけにしておこう。これ1着なら問題なさそうだ。


「た…………て…………」


 ん? 今、何か声が聞こえなかったか? まさか【隕石落としメテオラ】を受けて、生きていた奴がいたのか?


 気のせいかと思いながら、生存者を探す。ティフディリア騎士団なら助ける必要はないのだが、これだけの広範囲だ。民間人も巻き込まれた可能性はある。一応確認することにした――のだが……。


「まさか……。あんただったとはな」


 俺は生存者を見つけて、目を細めた。


 燃えるような赤毛に、薄緑色の瞳。鎧を着ながら、今気付いたが唇には赤いルージュが引かれていた。


 隕石の下敷きになっていたのは、ブリエンヌ・ヤ・ティフディリアだった。


「運がいいのか、悪いのか?」


 この場合は、悪運が良いとでもいうのか、やれやれ……。


「ちょ! そ、そこのあなた! 何をボーッと突っ立ってるのよ。早くあたくしを助けなさい」


 今、かの姫騎士とは5、6メートルほどの距離にある。ただブリエンヌはまだ俺が『ゴミ勇者』だとは気付いてないようだ。


 すでに俺のことは忘却の彼方へと追いやったのか。それとも忍び寄る死の気配によって、目が見えなくなったのかわからない。可能性として後者だろう。


「聞いてるの、あなた!! そこにいるのわかっているの! さっきから霧が濃くてよく見えないけど、わかってるのよ! 早く! 早く助けて! 痛いの! 痛いのよぉおぉぉぉおお」


 ついに泣き叫ぶ。


 弱ったなあ。目の前で女が泣き叫んでいるのに、何の同情も浮かばない。

 これは俺が賢者の記憶を取り戻したからではない。

 むしろ賢者時代なら助けていただろう。

 だが、今の俺は1000年前とは少し違う。


 この女のしたことは考えれば、賢者の記憶を思い出した今でも同情の余地はなかった。


 こうやって助けを懇願されても、薄く冷たい殺意が胸の中で研がれていく。


「なんで? なんで? 動かないの? わ、わかったよ。ほ、褒美がほしいんでしょ。あたくしを助けてくれたら、パパにお願いしてあなたがほしいものを何でもあげるから! お願い! もう……」


「自業自得だな」


 声をかけるつもりはなかったのだが、結局かけてしまった。

 本音を言うと、2度とかかわりたくなかったのだが……。


 口を突いたものは仕方ない。

 この際だから、言いたいことは言っておこう。


「その声……。もしかして、あのゴミ勇者??」


「ゴミねぇ……」


「ゴミにゴミって言って何が悪いのよ。あんたが来て、散々だわ。戦場になんて来るんじゃなかった」


 やっぱり声をかけるんじゃなかった。少しでも態度を改めるかと思った俺が馬鹿だった。これでは賢者失格だな。

 ここにいても、不愉快な思いをするだけだ。やはり離れよう。


「ちょ! まままま待って! どこ行くのよ! あたくしを助けなさいよ!!」


 どの口が言うんだろうか、こいつ。


「いーい。あたくしを助けたら、あなた、今度こそ英雄よ! 一国の姫君を助けたんだから! もう誰もゴミ勇者なんて言わないし、あたくしが言わせないわ」


「言ってる張本人が言っても信用ないな。そもそもお前、俺の名前すら覚えてないだろう」


「はあ?? 覚えてるわけないでしょ。勇者は勇者じゃない!」


 やっぱダメだ、こいつ。

 死ななきゃ治らん、屑だ。

 いや、死んでも治るとは思えない。


 俺は先ほど拝借した剣を取り出す。ブリエンヌの前で大きく振り上げた。


「ギャアアアアアア!! やめなさい! 殺さないで! お願い許して! 謝るから。ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさいいいいい!!」


「もう遅い!」


 剣閃が閃く。身体は整っていないが培った技術自体は消えていない。といっても、こちらも全盛期に遠く及ばないがな。


「いぎゃああああああああ!!」


 およそ皇女とは思えぬ下品な声がこだまする。


 はらりと落ちたのは、ブリエンヌの首ではなく、その真っ赤な髪だった。その毛をブリエンヌに見えるように掲げる。


「いや! いやああああ!! あたくしのぉお! あたくしの綺麗な髪が! 女神パルティナよりも美しいって、みんなが褒めてくれたのに!」


 髪を切られただけでこの反応とはな。

 命を奪われなくて良かったとは思わないのだろうか。


「なんてことするのよ! 許さない……。あたくしは絶対あなたを許さないわ」


「へぇ……。許さないなら、俺にどんな罰を与えるんだ」


「うるさい! その口を塞いで、とっととあたくしを助けなさい! そして殺してやるわ、ゴミ勇者!!」


 言ってることが無茶苦茶だ。これが一国の皇女とはな。1000年前も変わった奴はいたが、ブリエンヌほど厚かましい人間はいなかった。


「心配するなよ。俺はお前を殺さない」


「なんですって……」


「だが、お前を助ける義理もない」


「はあ……? じゃあ、あなた……。あたくしに何をしてくれるの」


「何もしない」


「は?」


「助けるのも……。殺すのも……。あんたにとって施しだ。もう、俺はあんたに与えることはしない。だから、何もしない」


 俺は立ち上がり、ブリエンヌに背を向ける。


「ちょっと! 待ちなさいよ!!」


「喚くなよ。魔獣や野生動物に聞かれてもいいのか。ここには死臭が渦巻いている。人間の肉も、魔獣の肉もある。よく育った皇女の柔らかいお肉とかな」


「ヒッ!」


「あんたはきっと誰かから施されることで生かされてきた。それが当然だと思っているだろう。……だったら、最後ぐらい誰かに施してやれ。それが魔獣の腹を満たすことになることだとしても、善行に違いないだろう」


「魔獣……。腹……。いや! いや!! いやよ! 絶対にいや! お願い!! 助けて!! なんでもするわ! ゴミ勇者なんて言わない! ねぇ!! 勇者様!! かっこいい勇者様! お願い! 振り返って! あたくしをあたくしをたすけてぇぇぇえええええええ!!」


 ブリエンヌの声が響く。


 皇女の声はどこからか響いた魔狼の遠吠えと重なった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


明日、2回投稿する予定です。

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