第7話
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引き続き更新していくので、よろしくお願いします。
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「キャアアアアアアア!!」
帝宮の中に賊が入ったことで大騒ぎになっている中、俺は規制線が張られる前に帝都を脱出していた。
ひとしきり騒ぎが収まるまでは、森の中にでも潜伏しようと思っていたが、いきなり悲鳴を聞く事になる。
こっちも追われる身だから、あまり関わりたくなかったのだが、俺も人の子だ。
さすがに放置するわけにはいかず、声の方へと走る。
すると、茂みの向こうで二人組の女性と、男が1人立っていた。
女性の1人は給仕服だ。所謂現代でいうメイド服というヤツである。
「やはりコスプレとは違うなあ」
妙な感覚だが、俺は実際働く給仕のことを知ってるし、現代でいうところのメイドカフェで働く人間のことも知っている。記憶が元に戻った今、何故給仕服に惹かれてしまうのかと疑問に思うのだが、どうも現代の感覚は残っているらしく、メイド服を特別視してしまうのだ。
もう1人は如何にも一国のお姫様という感じだった。
白い肌に胸をすくような青い瞳。
細身でまだ未成熟な身体には、白地にブルーのフリルが入ったドレスを着ていた。
圧巻だったのは、その髪色だ。
腰まで届くほどの長さの髪は、美しいシルバーだった。
思わず息を飲む。
1000年前にも絶世の美女という淑女はいた。
だが、その彼女たちに勝るとも劣らぬ美少女だったのだ。
「姫様、後ろへ!」
「エリノラ!!」
おっと! いかん。
見惚れている場合じゃないな。
目の保養代ぐらいの義理立てはしなければ。
「死ね……」
恐らく姫君とそのお付きと言ったところか。
今まさに暗殺者といった風情の男に殺されそうになっていた。
【
すかさず俺は魔法を放つ。
狙いは暗殺者が持っているナイフだ。
だが、暗殺者は俺が魔法を放つ前に、気付いたらしい。
素早く身を引くと、姫様たちから距離を取った。
「誰です!?」
尋ねたのは、エリノラと呼ばれていたメイドだった。
姫様の方も息を呑む。暗殺者は様子見といった感じで、ナイフを持ったまま下がったが、警戒は解かなかった。
俺は茂みから出る。
誰って言われてもな。
こっちも追われている立場だから、おいそれと名乗るわけにはいかないんだよな。
「名乗るほどのものじゃない。一応確認なんだが、この場合あっちが敵ってということで問題ないよな」
「え?」
「その通りです、旅のお方。どうかご助力いただけないでしょうか?」
エリノラが状況に戸惑っていると、姫様がぴょこりと立ち上がって、俺に訴えた。どうやら肝が据わった姫様らしい。女性を讃えるのには、少々乱暴だがな。
だが、これではっきりした。
「古今東西、お姫様を襲うのは敵役と決まってるんだ。乱暴な理論だが、あながち間違っていないだろ。特に懐かしい気配をあんたからビンビン感じるぜ。なあ、あんた――――普通の人間じゃないだろ?」
【
俺が魔法を放つ。
すると、暗殺者の身体がみるみる変化していった。
ついには、頭の上に竜頭のついた
それも黒い鱗に、蝙蝠のように禍々しい翼を広げた
「ヒッ!」
「あれは?」
「やはり魔族か。俺が滅ぼしてやったのに、生き残りがいたんだな」
1000年経ってるしな。
1匹逃して、その間に繁殖していたとしても不思議ではない。魔族の生殖能力はジオラントでも最下位だが、時間が時間だ。
どうやら、お姫様の反応からして、魔族だとは知らなかったみたいだな。
「魔族を知るものだと? 貴様、一体何者だ?」
正体を表した
「お前らの天敵さ。一目でわかったよ。人間に化けた時の魔族には独特の癖があるからな。うまく化けたかったら、人間の動きをもっと観察した方がいいぞ、お前ら」
「ふん。よくわからんが、貴様を放置しておくのは危険だとわかった。この女を殺せとの命令だが、標的を変更させてもらう」
1000年経っても魔族は魔族だな。殺気が違う。
「食らえ!!」
その特徴である、火と毒が混じった黒炎だ。
「オレの炎は鉄をも溶かす。その程度の装備では防げないぞ!」
「旅のお方!!」
姫様の悲鳴が上がる。
だが、俺はその場を1歩も動かない。
何故なら、後ろにお姫様がいるからだ。
バッ!
俺は火躱しの衣を翻す。
火躱しの衣は俺が対魔王用に作った
鉄を溶かす程度の温度ではしゃいでる魔族の炎など、柳を揺らす風に等しい。
「そんな……! マント1つで! ならば、噛み殺してやる!」
今度は
さすがの俺も、接近戦となると勝ち目が薄い。
俺は【
炎弾は確かに
それどころか、向こうは余裕の笑みを浮かべる。
「なんだ? 今の攻撃は?」
随分と得意げな表情しているが、お前の攻撃もマントで弾かれたのをもう忘れたのだろうか。
ともかく相手の身体も耐火性能が高そうだ。
竜人の鱗も竜鱗に負けず劣らず硬いから、物理防御も通らないだろう。
特に俺の斬突技術は、まだ素人に毛が生えた程度だ。
今、俺には賢者だった頃に使えた魔法の知識があるが、魔族相手の実戦となると使えるものはないに等しい。中級魔法ですら、今の魔力量を一瞬にして空にしてしまうだろうし、上級ともなれば、また意識を失う。
【
助けに入ってなんだが、状況は絶望的。
しかし、魔族に勝てる方法がないわけじゃない。
【
大地に含まれる鉄分を吸収し、防壁として使う魔法だ。本来物理的な攻撃から使用者を守るために使う魔法だが、俺は迫ってくる
「くそ! こんなもの!!」
「貴様! こんなところにオレを閉じ込めてどうする? これではお前もオレに攻撃できないではないか!?」
声が鉄の檻の内部で反響し、暗黒竜人の笑声とともに聞こえてくる。
「そうだな。攻撃はできないが、ここからお姫さんを担いで離脱することならできるぞ」
「ああ! なるほど! 確かに!!」
お姫様が感心したように頷く。
いちいち合いの手を入れてくれるのは有り難い。
「な! 貴様! 敵前逃亡する気か?」
「別に勝負事というわけではないだろう」
「させん! 貴様のような危険人物を放っておくわけにはいかん!!」
暗黒竜人が大きく息を吸うのがわかった。
直後、ゴォッ! という音とともに黒炎を吐き出す。
「お前、そんな中で炎を吐くなんて……。自爆でもするつもりか」
「馬鹿め! 自分の炎に自分が焼かれるなどあり得るものか!! オレの鱗は炎を受け付けない。さっき身を以て知ったところではないか、貴様」
「ああ。そうだったな」
「見ていろ。こんな鉄の塊! すぐに溶かしてやるわ!! ……な、あれ? おかしい?? この鉄……全く溶けないぞ!!」
さっきまでの威勢はどこへやら。
鉄の檻の中から随分と弱気な声が聞こえてくる。
「いい忘れたが、それはただの鉄じゃないぞ。ホウ素を混ぜたホウ化鉄だ」
「ほ……ほうか? 貴様、何を言っているのだ!?」
「ホウ化鉄は、金属にホウ素を混ぜたホウ化物の1つだ。ホウ素を混ぜることによって、金属のような導電性、高い硬度と融点を持つようになる。……お前にわかるように説明するとだな。鉄の融点は1200度に対して、ホウ化鉄の融点は約1400度。鉄を溶かして喜んでるお前では、到底溶かせない金属なんだよ」
実は1000年前、俺は錬金術に継投していた。対魔族兵器を作り出すため、様々な鉱物を集め、鋼や魔法銀よりも強い素材を探して日夜研究に没頭していたことがある。
ホウ素はたまたまこっちのジオラントで発見したもので、【
それは魔法と混ぜてコーティングし、ホウ化鉄の檻を作ったというわけである。
「馬鹿な! オレに溶かせない鉄など――――うっ!! なんだ? 苦しい!!」
「やっとか。当たり前だろ。密閉空間で炎なんか吐けば、すぐに酸素がなくなる。魔族も人間と同じく、大気中の酸素が必要とするからな。酸欠になって当たり前だ。こんなこと、現代世界では子どもでも知ってるぞ」
「ぐあああああああ! くるじいぃ! 助け! こ、ここから出してくれ!!」
「それはできないな。それにこれは勝負事じゃない。お前と俺、生死をわけた戦いだ。つまり、決着はどちらかの死でなければならない」
「くそ! くそ!! その徹底ぶり! 人間とは思えない知識、魔法……。貴様! 本当に一体何者なのだ?」
「言ったろ? お前らの天敵だって」
「くそおおおおおおおお!!!!」
鉄の檻の中で魔族は断末魔の悲鳴を上げる。
俺は鉄の檻ごと地中深くに埋めると、証拠を消した。
まさか魔族が暗躍しているとはな。
大規模な軍事侵攻をしてきてはいないようだが、人間社会に潜伏しているとなると、それはそれで厄介だ。
ったく……。こっちはのんびりと2度目の異世界を楽しもうと思っていたのに。
まあ、問題ない。魔族だろうがなんだろうが、俺の楽しみを奪うヤツは、誰であろうとなぎ払うだけだ。
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