第24話
いつも読んで下さりありがとうございます。
本日は2回投稿となっております。
お楽しみくださいませ。
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俺はエルフの村で空き家になっていた家を借り、薬の精製に励んでいた。
「ねぇ、クロノ。すごい匂いだよ」
横で薬作りに精を出す俺を見ながら、ミィミは顔を顰めた。
その口元には布が巻かれている。
伝染病を引き起こす病原菌は、すでに俺たちの体内に入っている可能性は高いだろう。でも、不識布のマスクよりも遥かに効果は薄いがないよりはマシだ。
「そうか。俺は大丈夫だが」
獣人だから嗅覚が敏感なんだろうか。
だが、今は頼りになる俺の助手だ。
今回の伝染病は、病に弱いエルフだけに効く可能性がある。
今自由に動けるのは、俺とミィミぐらいだろう。
空き家のドアが開く。
やってきたのは、メイシーとアリエラだった。
2人とも顔が暗い。
「また患者が出てしまいました」
「今度は子どもです」
伝染病が確認されて、2日。
すでに4名のエルフが伝染病らしき病気にかかっていた。
「そうか。もうちょっと待ってくれ。必ず薬を作るから」
「今はクロノ様だけが頼りです」
「でも、そんなので治せるの?」
アリエラが半目で睨んだのは、地面に並べた木の実の皮だった。
レンジの実といって、この世界での蜜柑に近い木の実だ。
そのレンジの皮には、今黒い斑点のようなものが浮かんでいる。
「こんなのが薬になるのですか?」
「俺も聞いた時は驚いた。まさか黴から薬を作れるなんてな」
レンジの皮に付着してる黒い斑点は、青カビだ。
俺は今、その青カビからある薬を作ろうとしていた。
「黴って、作物を悪くするあれでしょ?」
ミィミが眉を顰める。
「確かに黴の中には、毒性を強く含んだものもある。だけど、食べても大丈夫な黴だってあるんだぞ」
ここらで色々と現代知識をひけらかしたいところだが、今はその余裕はない。
俺は木をくりぬき、丸い穴が貫通すると、フッと息を吹きかけた。
「よし。
「クロノ様、それは?」
「まあ、見ててくれよ」
俺は青カビが発生しているレンジの皮に、芋などの野菜汁を加えて寝かせておいた液を持ち上げる。
先ほどの作った漏斗の中に,布を何枚も被せ、先ほど作った液を注いで濾過する。
濾過した液に、菜種油を入れて、樽の中でかき混ぜる。
「それで、どうなるの?」
「うん。ここからが不思議なところだ。液体が3つに分離する」
即ち油に溶ける成分、水にも油にも溶けない成分、最後に水に溶ける成分だ。
「水は油より重いから、樽の下へと沈んでいく。こうやって、水だけを抜くことができるんだよ」
俺は樽の底の栓を抜き、水だけを取り出す。
俺が用のあるのは、水に溶けた成分だ。
さらに煮沸消毒しておいた炭を入れた甕に、先ほど抜いた水を流し込む。
そしてかき混ぜた。
「炭ですか? これも薬に?」
メイシーは不思議そうに首を傾げる。
「炭は直接薬には関係ありません。ただこの炭が、薬となる成分だけを吸着してくれるんですよ」
さて、その炭を取り出して、別の容器の中に移し替える。
そこに今度はお酢と蒸留水を混ぜたものを入れて炭を洗い出す。
まさか異世界に来て、化学の実験みたいなことをすることになるとは。
剣と魔法の世界なのにな。
とはいえ、魔法技術というのは、割と大雑把な技術だ。
そのほとんどが戦術兵器だし、日常で使うものとなると、種類が少ない。
一口に炎と言っても、燃焼剤によって性質が変わるし、場合によって水魔法でも消えない炎だって作り出せることができる。
人間の能力を
その点、科学は細かい所にフォーカスしているため、様々な応用が利く点では科学の方が優勢といえるかもしれない。
薬の精製は大詰めだ。
最後に苛性ソーダに炭酸ガスを反応させて作った重曹を注ぎ、炭から目当ての物質を抽出する。
「できた……」
ペニシリンの完成だ。
ここから薬効を調べたりする過程があるが、ここは魔法の世界だ。
便利な魔法がある。
【
異世界のチート魔法。
鑑定魔法だ。
その結果……。
────────────────
ペニシリン〈魔〉【薬目】
抗菌作用がある抗生物質の1つ。
伝染病などに劇的な効能がある。
────────────────
ペニシリン〈魔〉ってなんだ?
所々、魔法を使ったりしているからだろうか。
そもそもペニシリン自体、現代名だし。異世界では確認できていなかった物質だ。
それを俺が現代知識で作ってしまった。
〈魔〉というのは、その違いを示すアイコンみたいなものかもしれない。
しかし、鑑定の結果伝染病に効能があるとわかった。
薬効検査なんかしてたら、さらに2日かかってしまうところだ。
「早速、最初の患者に投与するぞ」
俺は最初の発症したエルフの家へと急ぐ。
誰もいない中で、時折咳をしながら、エルフは病と闘っていた。
「よく頑張ったな、あんた。薬ができたぞ」
あらかじめ作っておいた注射器を刺す。
「薬が効くまで、まだ熱が出るだろうが……」
と思っていたら、エルフの男の顔色がドンドンと良くなっていく。
「な! どういうことだ?」
【
つまり、これはペニシリンであって、俺が知るペニシリンではないということか。
随分とご都合主義的な展開だが、現代知識と魔法が融合したのだ。
それぐらいの
思い返せば、以前ミィミを助けた時に使ったアセチレンガスと魔法の融合もそうだった。
あの時は頭に来て、何とも思わなかったが、まさか上級魔法以上の威力を引き出せるとは思わなかった。
もしかして、現代知識と魔法の相性はとてもいいのかもしれない。
「う。ううん……。ここは、俺は一体?」
男が気が付く。
「あんたの家だ。あんたは助かったんだよ」
「もしかして、君が助けてくれたのか?」
「そうですよ。クロノ様が薬を作ってくれたんです」
「あ、ありがとう。命の恩人だ、君は」
ついにエルフの男は涙を流しながら、俺に感謝する。
自分でもちょっと驚いているけど、薬がうまく効いて良かった。
俺は早速、村で苦しんでいる人に薬を投与していく。
最後に投与したのは、子どものエルフだった。
子どもに効き過ぎると思って、用量を少なくしたが、しっかり効いたらしい。それまでしんどそうにしていたエルフの子どもの顔色がみるみるよくなっていった。
パチッと目を開けると、涙を流したのは子どもの母親の方だった。
「ママ……」
「良かった!」
子どもを抱きしめる。
何が起こったのかわからない子どもは、俺の方をぼんやりと見つめながら、質問した。
「お兄ちゃんが助けてくれたの?」
「ああ。元気になって良かったね」
柔らかな金髪を撫でてやると、エルフの子どもはキャッキャッと声を上げた。
それを見ながら、俺は泣きそうになった。
俺の目標は医者になることだった。
それが親にしかれたレールだとしても、目指していたことは間違いない。
それが異世界で医者のようなことをするとはな。
今でも現代世界の両親は憎い。
でも、自分がしていた勉強が、異世界の種族の命を救ったと考えれば、少しだけ報われたような気がした。
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