第23話
昨日、平日にもかかわらず2000pvを超えました。
フォロワーさんも500人を突破。
カクヨムで連載した自分の作品の中では、かなりハイペースです。
もっといろんな人に読んでもらいたいので、引き続き頑張って更新して参ります。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
「ふぬぬぬぬ!!」
ミィミが顔を真っ赤にしながら握っていたのは、一振りの剣だった。
エルフの村のど真ん中に刺さった刀身は、半分くらいまで地面に埋まっている。
一見、簡単に抜けそうだが、獣人であるミィミの力を以てしても抜ける気配はない。
「ぶはっ!! 全然ダメね」
ミィミは尻餅をついて、剣を握っていた手をプラプラと動かした。
さしもの力自慢も抜けないらしい。
「でも、これが剣神アドゥラのものであることは間違いないわ」
「わかるのか?」
「ミルグが言ってるの。1000年前だけど、匂いが残ってるみたい」
剣神が愛し、相棒と讃えた一振りだ。
戦う時も、修業する時も、亡くなる最期の瞬間までずっと肌身離さず持っていたに違いない。
剣神の血と汗と、共有した記憶は1000年程度ではぬぐえないといったところだろうか。
「でも、おかしいなあ」
俺は首を傾げる。
「どうしたんですか、クロノさん」
案内してくれたメイシーさんが質問する。
「この剣自体には何ら魔法はかかっていないんだよ」
てっきりアドゥラのヤツ、自分の剣を誰も使ってほしくなくて、魔法で施錠しているのかと思ったが、精霊魔法はおろかその残滓すら見つけられない。
なのに剣神の剣は、魔法にかかっているかのように全く動かなかった。
まるで使い手ではなく、剣が使い手を選んでいるようだ。
「『いずれ剣を抜く者が、次の剣神を指名するであろう』」
唐突に古いエルフ言葉で、詩節を口ずさんだのは、同じくついてきたアリエラだった。
「今のは?」
寡黙なアリエラに代わり、メイシーさんが説明する。
「剣神様の遺言のようなものです。そのお言葉がきっかけになり、国では次代の剣神を育成すべく精霊士という制度を設けられたのです」
「精霊士って……。メイシーさんのことですよね」
「はい。まだ未熟ですが、私は今代の精霊士を務めております」
「姉さんは昔から剣神様に憧れていた。精霊士になりたくて努力をしてた」
アリエラが珍しく口を挟む。
よっぽど姉のことを尊敬しているのだろう。
「私を褒めてくれるのは嬉しいけど、アリエラも努力するのよ。あなたにもお父さんとお母さんの血が流れているんだから」
「私はいい。お姉ちゃんが精霊士なら」
会話に入ってきたと思ったら、短い言葉を続けた後、何も喋らなくなってしまった。
ちょっと気むずかしい娘のようだ。
「もしかして、両親も精霊士だったとか?」
「母が。今は専業主婦ですが、怒らせると怖いので気を付けてくださいね」
「それは怖いなあ」
メイシーさんは笑顔で応えたが、全然冗談に聞こえなかった。
「大変だ!!!!」
俺たちが剣神の剣の前で和んでいると、突如声が響き渡った。
1人のエルフが息を切らし、村の外からやってくると、声を聞いたエルフが忽ち集まってきた。
「どうしたんですか?」
「ああ。メイシーちゃん。たいへん……。大変なんだ……」
「落ち着いて下さい」
声をかけたが、男のエルフは「大変」と繰り返すだけで要領を得ない。
「ん? なんだ、この香り?」
「いい匂い……」
「柑橘系の香り? どこからだ?」
どこからか漂ってきた香りに、エルフたちが反応する。
息を切らして村に飛び込んできた村人エルフも、匂いに反応する。
大きく息を吸い込むと、息と同じく落ち着きを取り戻し始めた。
「落ち着いて下さい。これはリモネンという物質を含んだ香油です。鎮静作用があります」
「あんた、人族か?」
「獣族までいるじゃないか?」
「大丈夫なのか?」
「なんだかお腹が空いてきたわ」
リモネンで鎮静したのだが、今度は俺を見て村人たちがいきり立つ。
「落ち着いて下さい、皆さん。彼はクロノさん……。ラーラ姫のお知り合いです」
「姫の?」
「それよりも今は、何が起こったか確認しないと?」
「お姉ちゃん」
アリエラは井戸水を注いだコップを差し出す。
「ありがとう、アリエラ」
水を受け取ると、エルフの男に飲ませた。
一息を吐き、ようやく男は喋り始める。
ようやく冷静に話せると思ったが、男はさらに慌て始めた。
「しまった。オレはなんてことをしてしまったんだ!」
「ちょっとどういうこと?」
「死骸だ。森でニカラドリの死骸を発見した」
「ニカラドリ……!」
メイシーさんの顔が青くなる。
他のエルフも同様だった。
しんと静まり返ったと思ったら、年老いたエルフや若いエルフがふらりと倒れる。
ニカラドリか。
確か比較的温暖な土地を好む渡り鳥だったはず。
その死骸となると……。
「まさか……、鳥類から来る伝染病か?」
「その通りです、クロノさん。最近、ニカラドリの間に新種の伝染病が流行ってまして。厄介なことに人にも伝染するらしく、それで昨年1つの村が滅びました」
「村が!」
「ご存知の通り、エルフは病に弱い。いくら剣神様が伝えた対策も、新種の病気となれば話は別です」
メイシーさんは肩を落とす。
「お前、死骸に触ったのか?」
村人の1人が確かめた。
報告した男は項垂れながら認める。
「そうだ」
「なんてことだ!?」
「すでに感染してるかもしれないぞ」
「そいつを村から追い出せ!」
伝染病を持ち込んだエルフの村人を排除する機運が高まる。
狂乱的に声を上げ、男を追放するどころか、村を危機に追いやったことを糾弾し、死を望む者も少なくなかった。
こうなっては香油は通じない。
メイシーもどうしていいかわからず、ひたすら冷静さを取り戻すように訴えるだけだった。
しかし、ついに精霊士も数の暴力に負け、突き飛ばされた。
「キャッ!」
「お姉ちゃん! ……あなたたち、いい加減に――――」
珍しくアリエラが声を荒らげた時だった。
『うぉおおぉおぉおおおおぉぉお!』
大きな遠吠えが響く。
皆が注目した先にいたのは、1匹の赤い毛を揺らした大狼だった。
その大きな体躯と、爪、牙。
そして声。
それまで我を失うほど、喚いていたエルフたちを黙らせるには十分だった。
「よくやった、ミィミ。戻っていいぞ」
俺が言うと、ミィミは元の獣人の姿に戻る。
それを見て、村人たちはまたどよめく。
メイシーも、アリエラも目を丸くしていた。
「あんたら、一体……」
「今はそんなことよりも、問題はもうすでにあんたらが伝染病にかかっている可能性があるということだ」
「あっ?」
村人の1人が声を上げる。
伝染病が空気感染か、接触感染か、経口感染かは不明だが、最悪すでに村人全員がかかっていることになる。
「ごふっ! ごふっ!」
突然、男は咳をし出した。
先ほどまで男を囲んで罵詈雑言を浴びせてきたエルフたちは、忽ち後ろへと下がる。
【
俺は魔法を唱える。
男の周りに結界が張られると、たちまち襲ってきた眠気に負けて、眠ってしまった。
「クロノさん?」
「心配ない。眠りと回復を同時に行う魔法だ」
小さな結界だが、空気だけは循環するようになっていて、それ以外のものは入らないし、出ないようになっている。
「ミィミ、この人を家に運んでやってくれ」
「わかったわ」
ミィミは男を軽々と持ち上げ、村人に案内されるまま家まで運んでいった。
「どうしましょう? このままでは、村が――」
何もしなければ全滅する可能性は高い。
俺がいくら賢者だったとはいえ、新種の伝染病の薬を作るのは至難の業だ。
現代世界でもそうだったが、薬ってのは膨大なトライ&エラーで完成する。それは異世界でも変わらない。
「だが、試したいことがある」
「え? 治せるのですか?」
「ああ」
1000年前の俺なら時間はかかったかも知れないが、今の俺には現代で培った知識がある。
それできっと村人たちを救ってみせる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます