第25話
本日2回目の投稿です。
お昼に24話を投稿しておりますので、またそちらを読んでない方はブラウザバック願います。
そしてレビューが☆200超えました!
すでにコミカライズしている作品を除けば、
過去最速です。ありがとうございます。
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「クロノ殿、ありがとうございました」
『――――ました!!」
メルシーの父親ラブスさんが頭を下げると、後ろに並んだエルフたちも倣った。
ラブスさんはこの村の長をしてるらしい。
みんなを代表して感謝したわけだ。
「頭を上げて下さい。俺は人として当然のことをしただけですから」
「いや、君のおかげで大勢のエルフが救われた。君がいなければ、この村は消滅していたかもしれない」
「それに一部のものは、あなた方が伝染病をまき散らしたという発言もありました。エルフとして恥ずべき行為です。改めて謝罪させてください」
続いて精霊士であるメルシーも頭を下げた。
「申し訳ない」
「ごめんよう」
「あの時は、どうかしてたんだ?」
エルフの気質として、気位が高いことがほとんどだ。
その彼らが頭を下げるなんて滅多にない。
1000年前でも、こんなことはなかっただろう。
思えば、1000年前の俺は独善的だったかもしれない。
戦うことが人々を救うことだと。
足元に縋ってくる人を振り払って、俺は戦場に赴き、1匹でも多く魔族を殺すために研究に没頭して、来る人を拒み続けた。
こうやって直接的に人を癒やすのは、初めてではない。
けど、自分で率先して決めたのは、今回が初めてだった。
「それよりも問題は、あの死骸が人為的に村の周りに置かれた可能性があることですね」
俺が薬を作ってる間、ミィミとメイシーに頼んで、死骸が落ちていた場所を調査してもらった。
結果、ミィミ曰く人の香りがしたという。
「あれは間違いなく、クロノとは違う人族の香りだった。勿論、あのラーラっていうお姫様とお付きとも違っていたわ」
「誰かが人為的にエルフの村に伝染病をまき散らそうとしていた可能性が高い」
しかも、ご丁寧に今回の伝染病は比較的感染力が低いものだった。
結局この村で罹患したエルフは、人口の4割。その他は割とピンピンしている。
すぐに隔離して、病気の広まりを抑えた結果でもある。
だけど、生かさず殺さず――この絶妙な配分もまた作為的なものを感じる。
「仮にこの伝染病をまき散らした人族がいたなら、村の全滅までは望んでいなかったように思える」
「やはりそう思われますか?」
「何かご存知なのですね」
村長のラブスさんが神妙な顔で頷く。
すると、1人のエルフが進み出てきた。
そのエルフは、俺が最初に助けたエルフだった。
◆◇◆◇◆
数日後の深夜――――。
エルフの村を囲う野盗たちの姿があった。
森の中の夜は早く、そして闇はより深い。
月や星の光が届かぬ大森林の下は、絶好の夜襲ポイントなのである。
加えて、エルフの村に夜襲がけするのは、他の種族と比べて容易い。
ほとんどのエルフが金髪碧眼、加えて美男美女ばかりである。
ごつい男が多い人狩りたちにすれば、見分けやすいのだ。
すでに寝静まったかに見えるエルフの村だが、住居からは咳が聞こえる。
それを聞いて、男たちはニヤリと笑った。
合図が振られると、森を囲んだ柵を魔法で壊して、進入する。
「ひゃっっっっっっはああああ!!」
「エルフども、覚悟しろ!!」
「お前らを残さず食ってやるぜ!」
叫声をまき散らしながら、住居へと侵入していく。
だが――――。
「いない?」
「こっちもです?」
「どういうことだ?」
「こういうことだよ!!」
【
光が大森林の深い闇を払う。
爆発的な光の広がりに、野盗たちは居竦んだ。
何が起こったかわからず、気の小さいものは悲鳴を上げる。
次に野盗たちが目を開けた時には、すっかりエルフに囲まれていた。
その手には剣、槍、弓が握られていた。
寝間着は愚か、子どもに至るまで防具を着けて、戦う準備をしていた。
まるで今日の襲撃がわかっていたかのようにだった。
目を丸くする野盗たちの前に、人族の男と獣人娘が現れる。
声からして、先ほど魔法を使った主だろうことは予想が付いた。
「悪いがお前たちが張った罠を逆手に取らせてもらった」
「な、なにぃ!?」
「お前たち、エルフ狩りだろ? だが、この森でエルフを見つけるのは難しい。さらに村を襲うにしても、精霊士やエルフが使う精霊魔法は厄介だ。そこでお前たちは、伝染病にかかった鳥獣の死骸を使った。エルフの弱点は他の種族と比べても、免疫力が弱いことだ。だから、村の周りに死骸を放置し、エルフに伝染病がかかるようにした」
男はペラペラと野盗たちが思い描いていた計画を喋る。
「そして、そのエルフに計画を話し、うまくやれば家族か友人を助けてやると脅して村に返した」
野盗の1人が脅したエルフを見つける。
他と同じく武装していた。目が合ったが、逆に睨み返される。
驚くべきは、感染したはずのエルフがピンピンしていることだった。
「そのエルフを介して伝染病を村に蔓延させ、村を弱体化させる。感染力が低かったのは、全滅させるわけにはいかなかったからだ。お前らにとっては、大事な商品だからな。……そして、本日深夜襲撃しにきたというわけだ」
弓を引いたエルフが進み出る。
そのエルフは伝染病に罹患した鳥を見つけたヤツだ。
そいつを脅して、伝染病にかかったまま村に向かわせた。
「家族だけは助けてやる」と条件をつけてだ。
しかし、それを逆手に取られたらしい。
「くそ! 全部お見通しか」
野盗たちは悔しがるのだった。
◆◇◆◇◆
「投降しろ。悪い様にはしない」
屋根の上から、俺は野盗たちに降参を呼びかける。
だが、リーダー格らしき男は凄まじい剣幕で拒否した。
「うるせぇ! こんなところで捕まってたまるかよ!!」
包囲されているにもかかわらず、野盗たちはやる気満々だ。
破れかぶれと、気勢を上げて逆に襲いかかってくる。
しかし、士気が高いのはこちらも一緒だ。伝染病で散々やられた上に、野盗たちの仕業だったのだ。
さらにこのところのエルフ狩りのおかげで、エルフたちも鶏冠に来ている。
香油ぐらいでは、この怒りを鎮めることは不可能だろう。
「おおおおおおおお!!」
野盗たち以上の声を上げて、応戦する。弓矢が弾かれると、そこで4割近くの野盗がいなくなる。
剣や槍、近接戦を主体とするエルフも野盗たちと打ち合った。
野盗たちの剣が剛だとすれば、筋力的に劣るエルフの剣は柔だ。
しなやかな動きと、最短距離で突く剣捌きは確実に野盗たちを急所を貫いていった。
「クロノ、あたしも大暴れしてもいいのよね」
「むろんだ。でも、家屋は壊すなよ」
「わかってるわよ」
満を持してミィミが戦場に躍り出る。さすが獣人だ。
まさに小さな戦車か何かのように、野盗たちを倒していく。
彼女が通った道に、次々と野盗たちの屍が転がった。
メイシーさんたちも奮戦している。
華麗な剣技で、次々と湧いて出る野盗たちを切り刻んでいく。
乱戦模様の中で、1人気になった人物がいた。
アリエラだ。
再び華麗な剣技が見られるかと思ったが、今日は妙に冴えない。
村の一大事にもかかわらず、集中力が足りていないように見えた。
そのアリエラの背後に斧を振りかぶった野盗が現れる。
完全に後ろを取られていた。
「あぶない!」
俺は腰を浮かしたが、すぐに野盗は倒れてしまう。
背後に現れたのは、メイシーさんだ。
返り血がかかったのか、頬が赤く濡れている。
「大丈夫、アリエラ?」
「あ、ありがとう、お姉ちゃん」
「まだまだね。でも、もう少しよ。私がフォローするから頑張って」
「……うん」
メイシーにフォローされながら、アリエラは少しずつ集中力を取り戻していくものの、やはり初めて会った時の剣神を思わせる動きとはほど遠い。
「手を抜いてる……ってほどでもないけど」
何か込み入った事情がありそうだな。
「さて。俺は俺で頑張りますか?」
赤い火躱しの衣を翻し、俺は背後に立った男を見やる。
エルフでも、野盗という感じでもない。明らかに異質な空気を纏っていた。
魔族……。いや、それとも違うな。
「お前、何者だ?」
「わたくしですか?」
質問すると、男の口元が三日月の形に割れる。
まるで道化師が目の前にいるようだった。
「わたくしは勇者……」
勇者カブラザカ・マサト……
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