第27話
本日2回投稿になっております。
第26話は先ほど投稿いたしました。
まだ読んでない方はブラウザバック願います。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
「はっ!!」
突然、カブラザカは目を覚ました。
歪つに曲がった目が、ぎょろぎょろと周囲を確認するのが、見ててわかった。
やがて、俺の方に目線を合わせる。
「よう」
「お前は――――」
カブラザカは起き上がろうとするが、次の瞬間激痛に悶絶した。
さらに自分がミイラのように包帯をぐるぐる巻きにされた上に、両足両手を拘束されていることに気付く。
「ここは?」
「エルフの村だ」
正確に言うと、エルフの村の中にあった空き家の1つだ。
俺とカブラザカしかいないが、何かあった時に耳のいいミィミが外に待機している。
病原菌を外に出さないように魔法で密閉し、内部の空気が外に出ないようにして、万が一の対策もバッチリだ。
「わたくし、生きているのですか?」
「ほぼ死にかけていたがな。俺の魔法とエルフの薬で生きながらえた。後で、礼を言っておけ」
「くくく……」
「何がおかしい?」
「不殺を誓った侍気取りですか? わたくし、あなたみたい偽善者は大っ嫌いです」
「気が合うな。俺もお前みたいに自分の命も、他人の命もどうなってもいいって言いながら、人を傷付けるヤツが大っ嫌いだよ」
「ひひひ……」
「笑うな。……それに偽善者を気取るつもりはない。そもそも俺は、この世界に来てすぐに、お前が殺した数以上の人間を殺している」
「ほう。そいつは興味深い」
同じ穴の狢を見つけたとばかりに、カブラザカは目を細め、乾燥しきったボロボロの唇を歪めた。
「お前を生かしたのは……。まあ、察しぐらいはついてるんだろ?」
「黒幕の情報ですか? あなたこそ察しがついているのでは?」
カブラザカは挑発的に笑うが、確かに察しがついていた。
普通の三下野盗たちがエルフ狩りするのはわかる。
だが、勇者が関わっているなら話は別だ。
何故なら、勇者召喚には国家が関わっているからである。
裸の皇帝様によれば、ティフディリア帝国以外にも勇者召喚を行い国力を高めているという言い方だった。
そして俺のようなFランクスキルを持って現れた勇者はともかく、カブラザカのように明らかに戦力になりそうな勇者を、国家が放っておくわけがない。
それがジオラント№1と言われるティフディリア帝国なら尚更だ。カブラザカが乱心したところで、草の根を分けてでも見つけるだろう。
俺がそうだったようにな。
そして、俺がカブラザカを癒やしてでもこうやって詰め寄っているのは、勇者カブラザカと黒幕を結びつける相手の証拠を握っていることに他ならなかった。
「ところで、わたくし以外の荒くれ者たちはどうしました?」
俺は一瞬、歯をギリッと食いしばった。
「死んだよ」
「おやおや。野蛮なことで」
「ふざけるな。お前だろう。あいつらにあらかじめ病原菌か毒を仕込み、失敗すれば口封じするようにスキルを使ったのは」
「ははは……。バレてしまいましたか。うまくいって何よりですね。ししし……痛ッッッッッッッッ!!」
反射的にカブラザカを殴っていた。
カブラザカは飛び起きるが、拘束具のおかげで身体を制限される。
その制限が全身を軋ませると、二重に痛みが襲いかかり、お喋りな口を閉じざるえないほどの意味に悶絶した。
「い、いきなり殴ることないでしょ」
「次に殴られたくなかったら、大人しく俺の尋問に応えろ」
「わたくしは唯一の生き残りですよ。貴重な情報源なんですから、もう少し優しくしてくれても罰は当たらないと思いますけどね」
「いや、お前が唯一というわけじゃない」
俺は【
金や銀、小さいが柄に宝石がついている。戦場で使うものではなく、装飾品として作られたものだろう。
そして、その短剣には家紋が彫られていた。
「おやおや……」
家紋を見た瞬間、カブラザカは動揺を隠すように手で顔を覆った。
「ダギア辺境伯家。帝国北方を領地とし、北方の守りを任されている貴族の家紋だ」
「やれやれ。頭の悪い連中と連むのはだからいやなんですよ」
「認めるんだな?」
「どうですかね? あの馬鹿どもとは今回のエルフ狩りから雇った傭兵崩れです。昔、くすねて持っていた可能性だってあるかもですよ」
「それはない」
「どうして、そうはっきり言えるんですか?」
俺は【
ざぁっ、と落ちてきたのは大量の金銀だった。そのほとんどが宝石や金銀だったが、同じ家紋がついた燭台、領主の顔が彫られた金貨や陶磁器など、日用品も揃っていた。
「あちゃ~」
カブラザカは顔を覆った。
「これでもお前とお前が雇った野盗は、ダギア辺境伯となんら関わりがないといえるか?」
「あなたは何なんですか? もしかして昔刑事だったりします?」
「答えろ」
俺は冷たい視線を送る。
ついにカブラザカは観念した。
「降参。降参ですよ。……そう。あなたの推察通りです。エルフ狩りの黒幕は、ダギア辺境伯です」
「帝国の貴族が、エルフ狩りにかかわっているのか?」
「きひっ! わかりませんか? やっぱりあなたは偽善者側ですね。ダギア辺境伯だけじゃない。悪に染まれば、その後ろに蠢動している者たちの目的だってすぐに――――」
クロノッッッッッッ!!
突如、ミィミの叫声が聞こえた。
俺は反射的に身を伏せた。
それが功を奏す。
まさに一瞬だった。
黒い刃が伏せた俺の頭の上を通過していく。
あっさりと俺の結界を破り、さらに空き家を横に両断した。
屋根が吹っ飛び、真っ暗闇の大森林の空が露わになる。
「カブラザカ!!」
気付いた時には、カブラザカは布団の上にいなかった。
代わりに立っていたのは、漆黒の鎧に身を包んだ黒騎士だ。
その小脇に、包帯でグルグル巻きになったカブラザカを抱えている。
そのカブラザカは俺に尻を見せたまま、気持ち悪い声で笑った。
「そう言えば名前を伺っておりませんでしたね。クロノさん……。覚えておきましょう」
「まるでここから逃げられるような言い方だな」
「逃げられますよ。この人は帝国でも1、2を争う勇者ですからね」
「勇者?」
そいつが……。
瞬間だった。
漆黒の騎士は剣を抜く。
さらに刀身の周りを黒いオーラのようなものが纏うと、台風の渦のように周り始めた。
「ひとまずさらばです。ご機嫌よう、クロノ様」
バァイ、とばかりに手を振る。
刹那、黒い刃が騎士の剣から解き放たれた。
「まずい!!」
慌てて俺は側のミィミを抱きしめる。
【
自分の身体を鉄とホウ素の檻で包んだ。
それでも黒い刃は凄まじい音を立てて、切り刻む。
まるでチェーンソーだ。
波のように押し寄せる殺意の塊を前に、俺はひたすら防御に徹した。
なんとか堪える。
波の収まりを待って、俺は魔法を解いた。
眼前に広がっていたのは、バラバラになった空き家と、一直線に切り拓かれた大森林の姿だった。
「クロノ! 大丈夫?」
心配したミィミが顔を上げた。
「ああ。ミィミこそ大丈夫か?」
「ええ。それよりもさっきの何?」
「俺も知らない勇者だ」
「勇者? そう。……あいつ逃がしちゃったね」
「いや……。それに関しては問題ない。カブラザカの中に使い魔を潜ませておいた」
「黒幕の名前はわかったんでしょ。今頃、追跡したって」
「いや、追跡のためじゃない」
「それじゃ何よ?」
「後のお楽しみさ」
口端を吊り上げる俺に対して、ミィミは首を傾げた。
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