第31話

昨日、pvが最高記録を更新しました。

平日の水曜日って割といつも少ないのですが、

たくさんの方に読んでもらえて嬉しいです。


フォロー数も700件を超えました。

1000件目指して更新頑張りますね。



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 グリズ・ル・ダギア辺境伯を一言で表すなら、『好色貴族』であった。


 元は真面目な騎士であり、各戦場での功績を認められ、45の時に帝国北方の要であるダギア辺境伯の地位に就いた。


 そんな男が絵に描いたように堕落していったのは、地方故の娯楽のなさと元からあった素養が原因だろう。英雄色を好むというが、帝都暮らしが長かったダギア辺境伯にとって、北の娘たちはあまりに芋臭かったのである。


 その彼が国境を挟んで存在するパダジア精霊国のエルフたちに目を止めたのは、必然だったかもしれない。

 言うまでもなくエルフは美女揃い。

 それを囲い、ハーレムとするのは、好色中年の夢である。

 ダギア辺境伯もその例に漏れなかったというだけであった。


 違法奴隷を買い付ければ、違法売買に目を光らせる帝国憲兵に見つかるかもしれない。

 そこでダギア辺境伯は直接人を雇い、エルフを誘拐するようになった。

 しかし、これはパダジア精霊国の抗議によってすぐに発覚する。

 厳しい査問が待ち受けるかと思ったが、ダギア辺境伯は皇帝から思いも寄らない言葉を聞く。


『続けよ』


 それが何を示すかわからない。

 しかし、ダギア辺境伯はあっさりと釈放された。

 領地も没収されず、罰金もない。


 そこでようやくダギア辺境伯も気付いたのだ。

 これがティフディリア帝国とパダジア精霊国の外交的駆け引きであることを。

 帝国がエルフの国を狙っていることを……!


 ダギア辺境伯は領地に戻ると、エルフ狩りを続けた。

 慎重に、徹底的に証拠を残さず、必要とあらばエルフたちの村を滅ぼした。

 そうしているうちに、帝宮から勇者が送られてきた。

 おかげで、エルフ狩りがさらにやりやすくなった。


 勿論、ハーレムも忘れていない。

 今も3人の娘をベッドの上に寝かせて、獣のように吠えている。

 女たちは揃って卑猥な声を上げていた。それはもはや喘ぎ声というより、ケダモノの遠吠えに近い。

 完全に理性が吹き飛び、快楽を貪っていた。


「ほら。ほら。どうした? もう終わりか? 昨日までの威勢はどうした?」


「――――ッ! ――――――ッッ!」


 女たちは口々に何かを言ったが、まるで意味をなさない。

 ただただ快楽を求め、貪り、嬌声を上げ続ける。


「おいおい。昨日まで『あなたなんかに屈服しない』とかなんとかほざいていたではないか。それがなんとはしたいない。まあ、わしは好きだがな」


「――ッッ! ――ッッ!! ――ッ!!」


「おー。おー。こっちももうすぐだな。お前は確か『仲間が助けに来る』とも言ってたな。そろそろわかったか。仲間など来ぬよ。……エルフで、美女なら大歓迎だがな。仲間の前で、頭の飛んだいやらしいお前を見せるのが楽しみだ。がはっはっはっはっはっ!!」


 コンコンッ!!


 突如、ノックが鳴る。

 ダギア辺境伯は無視して白く滑らかな女の肌を舐めたが、ノックの主は諦めなかった。

 根負けしたダギア辺境伯はついに扉の方へと振り向く。


「なんだ?」


『カブラザカです。至急ご対応いただきたいことがございまして』


「わしは女をマッサージするヽヽヽヽヽヽヽのに忙しい。後にしろ」


 と笑ったが、相手の反応はイマイチだったらしい。


『お楽しみなのはわかってますけどね。さすがに大将の判断を仰がなければならない事案なんですよ』


「くどいぞ! いくら帝都から出向してきた勇者といえど……」


『いいんですかあ? すっごい美少女のエルフが、ダギア辺境伯を待っているのに』


「それを早く言わぬか……!」


 ダギア辺境伯はベッドの上で唸りを上げるのだった。



 ◆◇◆◇◆



 一応、自分の汗とエルフの女たちの体液を洗い流し、ダギア辺境伯は身支度もそこそこに、美少女エルフが待つという謁見の間へと向かった。


 帝宮にある謁見の間よりも、8分の1程度の広間には、すでに赤い絨毯の上に膝を折ったエルフが下を向いて領主を待っていた。


 ダギア辺境伯はその横を歩きながら、広間の奥に設えた椅子に座る。


「面を上げよ」


 エルフの金髪が無数の星屑のように流れる。

 見目麗しい姿を見て、ダギア辺境伯は鼻の舌を伸ばした。

 本性である好色中年の姿を覗かせたが、すぐに咳払いとともにしまい込む。


「何者か?」


「ただのメイシーと申します」


「ただの? パダジア精霊国のエルフではないのか?」


「はい。一介のエルフです」


 エルフは淡々としていた。

 ダギア辺境伯は眉間に皺を寄せつつ、口を開いた。


「ほう……。その一介のエルフが、このダギア辺境伯に何用か?」


「この屋敷に多くの同胞がいると伺いました」


「同胞? わしの家臣の中にエルフはいなかったと思うが」


 ダギア辺境伯は口端を歪める。

 しらばっくれる領主に対して、メイシーは細い眉宇を動かし、不快感を示した。

 逆にそれは、ダギア辺境伯の変態的な嗜虐心を煽る結果となった。


「仮にだ、メイシー殿。わしの屋敷にそなたの同胞がいたとして、どうするつもりだ?」


「お返し願いたい!」


 メイシーはつい声を荒らげる。

 目尻を上げ、仇を見つめるように睨む。

 すでにこのエルフの腸は煮えくり返っているらしい。


 ここに来る前に、ダギア辺境伯はカブラザカからエルフの素性を聞いていた。

 名前も、そして彼がロン村の精霊士であることも頭の中に入っている。


 だから、メイシーが今激情に駆られそうになっている理由もわかっている。


 メイシーの仕事は本来、エルフたちを守ることだ。

 その彼女の職務を嘲笑うようにダギア辺境伯はエルフたちを誘拐し、村を疫病まみれにした。さらに攫ったエルフの女たちを、薬漬けにして持て遊んでいる。


 証拠はなくとも、今目の前に容疑者とおぼしき領主がいれば、さすがの精霊士も平静でいられないらしい。


(普段冷静な種族であるエルフが、感情を剥き出す姿はたまらなくそそるのぉ)


 メイシーの怒りに触れながらも、ダギア辺境伯は舌舐めずりをする。


「返して言われてもな……。まるで我々が誘拐したかのような言い方だな」


「エルフを攫ったと思われる現場からここまで馬車の真新しい轍の痕を見つけました。それでも、しらを切るおつもりか?」


「エルフ狩りが今パダジア精霊国で大問題になっているのは知っている。早く解決すれば良いと日々わしも願っておるよ、精霊士メイシー」


 自分の素性を突かれ、メイシーは「うっ」と息を飲む。


「疑うのであれば、館内を探すがよい。ただし……」


「ただし?」


「帝国の貴族を疑った代償は払ってもらう」


「私は名も、名誉も、家族も、国も捨ててやってきました。覚悟の上です」


 メイシーは覚悟を表すように、自分の心臓に手を置いた。

 ダギア辺境伯は「パチッ」と呷るように拍手を送る。


「見事な覚悟です、精霊士殿。いや、元精霊士か。……しかし、そろそろ効いてきた頃合いでないかな」


「効く? 何を――――」


 言って――――と言いかけて、突然メイシーはふらつく。

 目の焦点が合わなくなり、それまでピシッと直立していた足はガタガタと震え出す。


「りょ…………しゅ……。なに…………を…………」


「なに……。単なる香油だ。あなた方を幸せにする」


「こう…………ゆ……」


「キオリオの花粉の効果は知っておるだろう? 獣人を大人しくするあれだ。この香りはそのキオリオの花粉と同程度の効果が現れる。ただしこれはエルフだけに効くものだがな。まあ、少しわし好みにアレンジしてはいるがな」


「…………ぐっ。ひ……きょ……」


「今〝卑怯〟と言ったか、小娘……? わしを誰だと心得る。グリズ・ル・ダギアだぞ」


 ダギア辺境伯は諸肌を晒す。

 50を超える貴族だが、腹は6つどころか8つに割れており、鎧のような胸筋が躍動していた。


「まだまだあっち、そしてこっちもビンビンよ」


 ダギア辺境伯は笑う。


「…………」


「ふはははは! よう効く薬だな、勇者カブラザカ」


 話しかけると、隣の部屋からカブラザカが現れた。


「いいんですか。パダジア精霊国の精霊士ですよ」


「メイシーはそう名乗らなかった。つまり、本当にこの女はすべてを捨ててきたのだ。わしはな。こういう女を薬漬けにして、首ったけにするのが大好きなのだ」


「首ったけって……」


 カブラザカは苦笑する


「さて、メイシーはいつまでわしを楽しませることができるかな」


 ダキア辺境伯は目を細めて、好色そうに笑う。



 ドォオオオオオォオオンンン!!



 突如、轟音が屋敷を揺るがした。

 スキル以外、身体能力ではからっきしのカブラザカは、思わず足を取られて転倒する。一方、辺境伯は椅子の肘掛けに掴み、事が収まるのが待つと、ゆっくりと立ち上がった。


「な、なんだ?」


「決まってるだろう、カブラザカ」



 敵襲だ。



 ダギア辺境伯のもう1つの顔が、嬉しそうに笑った。



 ◆◇◆◇◆



「ふははは! あはははははは!!」


 その笑い声は、ダギア辺境伯の屋敷正面から聞こえた。

 すでに鉄格子の入った門は、屋敷を石垣ごとを消し飛ばされていた。


 濛々と煙が上がる中で、まるで名乗りを上げるように笑っていたのは、緋狼族の少女だ。


 騒ぎを聞きつけ、屋敷を守る衛兵たちが集まってくる。折しも、深夜であった。その手には魔法灯が握られていた。

 その魔法灯を賊に向かって掲げ。


 突如、柔らかそうな尻尾と耳のシルエットが浮かぶ。

 最初こそ獣人の姿を取っていたが、月を見た人狼ワーウルフのように姿を変えていった。

 ついに現れたのは、1匹の大狼である。

 しかも、その毛色は夜であってもはっきりと赤く見えていた。


『うっぉぉぉおおおおおおおお!!』


 ミィミことミルグは、無数の衛兵を前にして吠えるのだった。

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