第17話

昨日更新を初めて2000pvを超えました。

読んで下さった方ありがとうございます。

本日もあともう1回更新予定です。

よろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


「軽くて硬い金属を生み出す?」


 ハニャッとミィミが首を傾げる。

 ちょっとあざといが可愛いと思ってしまった俺は、間違いなく敗北者だろう。

 だが、次の態度が魅力をマイナスまで下げてしまった。


「ぶはははは! クロノ、頭おかしいの? 頑丈なものは重い、柔らかいものは軽い。これは常識よ」


 ミィミは俺を指差しながら、さも当然と言った態度で俺を馬鹿にする。


 むかつくが、ミィミの意見は間違いではない。

 ここジオラントでは、それが常識だからだ。


 この世界では武器や建材、調理器具にいたるまで、たいてい木や鉄、青銅が使われている。

 金や銀、魔力を帯びた魔法銀も存在するが、平民の間では一般的ではなく、とても高価、武器として使われているのは全体の1割にも満たない。


 ミィミの言う通り、普段から木や鉄なんかに触れていると、頑丈なものは重く、柔らかいものは硬いと思うものだろう。

 そう思ってしまうのは、この世界が魔法文化で、物の質量が違うことが一般的に知られていないからだ。


 説明するよりもやってみせた方が早そうだな。


 俺はアンジェの武器屋に赴き、鍛冶場を借りる。

 有害なガスが出ると悪いので、毒を中和し、外に漏出しないようにする結界を張った。


「軽くて硬い金属ですか。興味がありますね」


 ミィミと一緒に、アンジェも見学する。


 まず【収納箱イ・ベネス】から俺が取り出したのは、赤い石だった。


「何これ? 揚げパン?」


「ミィミはお腹空いてるのか?」


「ち、違うわよ!」


 途端、ミィミの腹から小さく訴えるような音が聞こえてきた。

 本人は真っ赤になって否定したけど、お腹は実に正直である。

 後で屋台で売ってる揚げパンでも食べさせてあげるか。


「これ……。もしかして鉄礬土てつばんどですか?」


「さすがミィミ。よく知ってるな」


 聞き慣れない名称だろうが、俺たちの世界では通称ボーキサイトと呼ばれる鉱石だ。


 このボーキサイトに、以前作った苛性ソーダなどを混合。

 魔法の炎を使って加熱する。

 そこで出来上がったのは、俺が作りたい金属の元となるアルミナだ。


 次に俺は【収納箱イ・ベネス】から白い石を取り出す。

 さすがにこれはアンジェでもわからないらしい。


「これは氷晶石ひょうしょうせきっていう鉱物だ。アンジェが知らないのも無理はない。この石は寒い地域で取れる石だからな。寒さが苦手はドワーフには見つけるのは難しいだろう」


 ジオラントでもごく限られた所でしか産出しない。

 珍しい石なので、1000年前に取って置いたのだが、まさかあの金属を精錬する溶剤として使うことになるとはな。


 魔法を使って氷晶石を溶かし、炉の中に入れて、先ほどできたアルミナと混合させる。


「ここからが俺の腕の見せ所だな」


 目的の金属を作るには、大量の電気が必要になる。

 だから、この金属は「電気の缶詰」なんて呼ばれている。


 だが、ここは異世界。

 魔法優位の世界だ。

 そして、俺は元賢者。


 大量の電気を捻り出すなど、造作もない。



 【号雷槍レッザ・アーク】!



 炉の中に中級の雷属性魔法を落とす。

 それをしばらく維持し続けると、炉の下から銀を溶かしたような液体がトロトロと落ちてきた。


「よっし!」



 アルミニウムの完成だ!



 早速、冷えて固まったアルミニウムをアンジェは持ち上げる。


「軽い! この体積で、こんなに軽いなんて!」


「ミィミも! ミィミも!!」


 手を上げて、ミィミもアルミニウムの塊を持ち上げる。

 その軽さに目を広げて驚くばかりか、言葉にもできないらしい。


「ふふふ。驚くのはまだ早いぜ」


 アルミニウムにさらに銅、亜鉛、マグネシウムを加えると……。


「さらに頑丈になった、アルミニウム合金ジェラルミンの出来上がりだ」


 早速、アンジェに頼んでアルミニウム合金を既存の型に流してもらう。

 最終的にミィミの身体のサイズに合わせた防具が完成した。


「できましたよ」


 ジェラルミンの胸当てに、籠手、さらに腰当てに、すね当てが装備される。


 まだ露出度は多いが、これ以上装備をつけると、可動域が制限されてしまう。

 盾騎士や重装騎士というわけではないので、これぐらいがちょうどいいだろう。


 ミィミは早速、身体を動かしてみる。

 俺が見た感じ、速度は落ちてない。

 逆に技術を覚えて、防具の重さを拳に乗せられればいいのだがな。


「悪くないわね。ありがとう、アンジェ。クロノ」


 ミィミは嬉しそうに笑う。


「あ。そうだ。ちょっと気になっていたんですけど……。ミィミさん、手を出してくれますか?」


「こう?」


 ミィミが手を差し出すと、アンジェは小さな刷毛を取り出す。

 オイルの中に刷毛を突っ込み、ミィミの爪に塗っていった。

 それが乾くと、今度は上から絵を描いていく。

 作業は30分ほどで終わった。


「爪を保護するためのオイルを塗っておきました。ミィミさんも女の子ですからね。ちゃんとお手入れしておかないと」


「この絵は?」


「そっちはおまけです。可愛いでしょ?」


 アンジェは笑顔で返してくる。


 うーん。可愛いといわれれば、可愛いのだが、若干子供っぽさがあるというか、完全に子どもの絵だ。


 ミィミは何も言わないが、もしかして怒ってたりしないだろうか。


「か、かわいいぃぃいいぃいぃ!!」


 めちゃくちゃ目をキラキラさせていた。


 マジか。俺の美的感覚がおかしいのか。


 俺の心配を余所に、ミィミはアンジェとともに女の子繋ぎをしながら、ピョンピョンと跳ね回っている。


 よく考えたら、これまでお洒落というものにミィミは無縁だった。

 初めての人並みのお洒落に、興奮が抑えられないのかもしれない。

 防具なんかより、まずはそっちの方を送るべきだったな。


「ミィミ、良かったな」


「どう? どう? クロノ!」


「ああ。似合ってるぞ」


 褒めると、ミィミはさらに顔を輝かせて喜んでいた。

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