第9話

昨日、1日のpv数が1000件を越えました。

読んで下さった方ありがとうございます。

投稿を初めて、1週間経たずに1日のpv数が4桁超えたのは初めてです。

週間ランキングも、あともうちょっとで2桁まで来たので更新頑張っていこうと思います。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~



 帝都を離れて3ヶ月……。



「はあああああああ!!」


 裂帛の気合いが道場に響く。

 素足で硬い木の床を擦る音に加え、木刀が打ち合う音が広がる。

 その度に歓声が上がり、周りを囲んでいた道場生たちを熱狂させた。


 そして俺の渾身の上段からの振り下ろしは鮮やかに裁かれる。うまく力を横に逃がされ体勢を崩されると、すかさず対戦者は深く腰をかがめた。狙いはがら空きになった俺の胴だ。


「ぬおっ!」


 気合いで横薙ぎをかわす。幸い練習着をかする程度だったが、相手は本気だ。

 当たっていたら、肋の1本ぐらい折れていたかもしれない。


 といっても、ジオラントでは骨の1本ぐらいで騒ぐヤツはいない。

 現代科学、異世界の魔法文化の大きな違いは、出鱈目な医療方法だ。


 魔法ならば簡単に骨を接ぎ、現代では致命傷と思われる傷も迅速に塞ぐことができる。そんな名医並みのスキルを持つ人間が、わんさかいるのだ。


 スキルでチートしなくても、現代知識を持つ俺には、魔法技術はあまりにチート過ぎる。


 さて、試合は佳境に向かっていた。


 横薙ぎをうまく躱した俺は、一旦距離を取ることにする。だが、向こうは俺の動きを読んでいたようだ。薙いだ木刀をすぐさま返すと、摺り足の前に残してきた手が狙われた。


 剣速は速く、このままでは指の骨が折れるだろう。


「なろっ!」


 俺は後退を諦め、後ろ足でジャンプするように逆に懐に飛び込んだ。道場で磨いた身体は、3ヶ月前と違って軽やかに動く。いや、自分が思っていたよりもスピードが出た。


「なにっ?」


 相手も驚く。本人が驚嘆しているのだ。対戦相手が戸惑っても無理はない。すなわち、俺は願ってもいない奇襲に成功した。


 ――かに見えた。


「あれ?」


 相手の懐に飛び込めたはいいが、残念ながら制動が効かない。そのままつんのめるようにして、相手に寄りかかる。結局タックルのようになって、対戦者を押し倒してしまった。


「す、すみません!」


 慌てて起き上がる。

 その時、謎の柔らかい感触が手の平に感じた。今一度確かめるように力を入れる。同時に「あっ……」と耳朶をくすぐるような甘い声が聞こえた。


(これって、もしや……)


 よく見ると俺の手は、相手の大きな胸の中に沈んでいた。


「あわわわわわわわわ! すみませんすみませんすみません!」


 俺は平謝りする。

 すると、相手は頭に付けていた防具を脱いだ。

 気持ちの良い汗とともに、現れたのはブロンドの長い髪と、挑戦的な青い瞳だった。


 吊り上がった瞳を見て、俺は一瞬強ばるが、殺気立った表情はすぐに柔和な笑顔に変わった。


「構わんよ。試合場のアクシデントだ」


「で、でも、師範……」


 この人の生はリサラ・ダー・バンギルという。この剣術道場の師範で、ジオラントの最東にあるルーリア王国からさらに東にある島国の出身らしい。


 その島国の剣術を広めるために、はるばるティフディリア帝国領内で道場を開き、今や門下生1000人を抱える道場主となっていた。


 この辺りの冒険者の間では割と有名で、冒険者になる前、ある程度体術や剣術を習得したい人間が門を叩くらしい。言わば、冒険者登竜門だ。


 だが、そのやり方はゴリゴリのスパルタだ。入って1日で退会する者が8割を超えるという。でも、リサラさんの教え方は非常にうまいし、熱心だ。もう少し優しくしてやることはできないのかと提案したら、こういう言葉が返ってきた。


『この道場に足を踏み入れる人間のほとんどが、後に命のやりとりをすることになる。その時、恐怖に支配されないようにするためには、確固たる〝自信〟が必要になるのだ。そしてその自信をつけるためには、練習しかない。私は道場生みんなに生き残って欲しいからこそ、厳しくしてるんだよ』


 知識ではなく、背負った経験から来る言葉に感心した。全くその通りだろう。

 世話になっている武器屋の勧めで入門したが、なかなかの賢人のようだ。


「それに気持ち良かったぞ、お前の愛撫」


 うん。ただこういうところは改めてほしい。

 ほら、うぶな練習生が正座したまま立ち上がれないでいるじゃないか。


 折角、俺が美談を引き合いに出して紹介してるのに、全部台無しになってしまった。


「クロノ、お前が来て、何ヶ月になる?」


「3ヶ月です」


「そうか。もうそれぐらいになるのか。3ヶ月前は干物みたいに弱っちぃ身体をしていたのに、随分とたくましくなったものだ」


「師範の教え方がうまいんですよ」


「褒めろ褒めろ。もっと褒めてくれ」


「普通、そういう時って謙遜しません?」


「私は褒めて伸びるタイプだからな」


 師範がそれを言いますか……。


「だが、初めて見た時から筋が良かったことは事実だ。こいつは伸びると思った。まさか3ヶ月で私に1本取るとは思わなかったがな」


「1本って……。師範を押し倒しただけですよ」


「自慢じゃないが、生まれてこの方私は男に押し倒されたことがない」


 え? それって、リサラさんがしょ――――。


「今、変なことを考えただろう?」


「滅相もございません」


 リサラさんの鋭い眼差しを見て、俺は慌てて首を振る。


 でも、リサラさんって一体何歳なんだ? 見た目は20代後半か30代前半って感じだけど。でも、言ってることが親父臭いところもあるし、精神年齢的にはそれ以上な感じがするんだが……。


「クロノく~~~~ん。何を考えているのかな~~~~?」


「い、いいえ! 何も考えていません!!」


 ヤバい。今の顔は一番怒ってる時の顔だ。こ、殺される。マジで。


「だが、クロノになら押し倒されても構わないがな」


「さらっと驚くべき告白しないで下さい。冗談でしょ?」


「(別に冗談じゃないんだが……)」


「何か言いました?」


「別に!」


 怒鳴ると、リサラ師範は道場の脇に置いていた剣を拾い上げ、俺に渡した。


 それは西洋剣というよりは、刀に近かった。

 いや、刀そのものだ。刀身の長さからして、小太刀だろうか。鯉口を切ると、見事な波紋を描いた刃が露わになる。


「これは?」


「免許皆伝した者に渡している私の島国に伝わる剣だ」


「免許皆伝って……。え? 俺、3ヶ月しか通ってないのに?」


「ああ。私の覚えている限りでは、お前が最速の免許皆伝者だ。おそらく今後破られることはないだろうがな」


 マジか。

 俺、3ヶ月で免許皆伝しちゃったのか。

 いくら賢者の時の記憶があるとはいえ、こんなに早くリサラさんほどの実力者に認めてもらえるとは……。


 この人、恐らく世が世なら剣神と崇められてもおかしくないほどの実力者だぞ。


「何を驚いている。その3ヶ月で、私に土を付けたのは、紛れもなくお前だろう。先ほどの試合。私の籠手狙いがすべてだった。まさかあそこから飛び込んでくるとはな。無謀だが、悪くない戦術だった。死中に活を見出すとはよく言ったものだが、本当にやれる人間は数少ない。あの飛び込みは、一生忘れるなよ」


「はい。ありがとうございます、師範」


 俺が礼を言うと、道場生から拍手が送られる。心地良い汗と、温かい空気に胸がいっぱいになった。


 現代世界では、俺を褒める人間など1人もいなかったからだ。


「その小太刀、私だと思って大事にするんだぞ」


 いやいやいや、それはちょっと重いかな。

 でも、大事に使わせてもらおう。


「師範、免許皆伝しても道場に来てもいいですか?」


「ああ。大歓迎だ。……それと今後どうするかは知らないが、お前は間違いなく有名になる。広告塔として、じゃんじゃんうちの道場を宣伝しろ。うまくいけば、お前を道場2号店の師範にしてやろう」


 もしかして、それが狙いか。

 ちゃっかりしてるなあ。

 さすがは賢者の師範だ。

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