第60話

「綾都!」

 崩れ落ちる綾都を瀬希が抱き止める。

 すると綾都を介していたからか、自らを守護する四神の声がハッキリと伝わってきた。

『主神の今の名は綾都と仰るのか』

「その声は水神か?」

「瀬希? 水神の声が聞こえるの?」

 レスターの問いに瀬希は戸惑いながら答えた。

「綾都に触れているからか、ハッキリと聞こえる。レスターも触れたら聞こえるかもしれない。触れてみればいい」

「いいの? 瀬希の第一位の側室なのに」

「レスターを信じているからな。構わない」

「ありがとう」

 許可を貰い瀬希が抱いている綾都の肩に触れた。

『我らが愛し子か。瀬希と言ったか』

「綾になにが起きた? 他の三神は起きたのか?」

『私は最高神火神。綾都様により起こされた。綾都様に触れているものが他にもいるな。誰だ?」

「あの! ボクは精霊使いでルノールの第一王子レスター。四精霊の愛し子と綾都の双子の兄である朝斗に言われています。朝斗は瀬希の第二位の側室で、四聖獣じゃないかとボクは疑っているんです」

 レスターの言葉に反応したのは地神だった。

『四聖獣? あの方も復活されたのか?』

「綾の言った内容を少し説明してくれないか?」

『会話が聞こえてはいなかったのか?』

「ところどころ抜けて聞こえるといった感じだった。今みたいには正確には伝わらなかった」

『そうか』

「そもそも綾はどうやってあなた方を起こしたの?」

 レスターの問いには最高神火神が答えた。

『強い願いを秘めた言葉を発すれば力になる』

「強い願いを秘めた言葉」

『綾都様にとって言の葉は力。利用されたくなければ、綾都様の発言には注意を払うべきだ』

『後綾都様は愛し子瀬希の守護を強く望まれた。我らはこれより愛し子瀬希の守護に当たる。四精霊の愛し子はレスターと言ったか』

「はい」

『以前綾都様と会話した際、ルノールの精霊使いが、愛し子を狙うことを酷く心配されておいでだった。何故我らを召喚したからと言って愛し子が狙われる? そこが解せない』

「それは多分長い歴史の積み重ねの中で、大神殿の所有者がルノールだと思われているから。あなた方が灯してくれていた聖火も、今は大神官が灯していると勘違いされています。その聖火が消えることは国が滅ぶ前兆とされていて、瀬希があなた方を召喚したら一時的とはいえ聖火は消える。そうしたら」

『愛し子は忌み子と勘違いされ、命を狙われるというわけか。度し難い』

「すみません」

『何故そなたが謝る?』

「それはボクがルノールの世継ぎで、本来彼らを止めるべき立場にあるから。色々な事情から今のボクには、そんな権限はないけど」

『人の世というものは色々なものに縛られすぎだ』

『だが、覚えておくがいい。愛し子を守ることは綾都様の願い。祈り。我らはそのために動く。愛し子を傷付けるものを我らは絶対に許さない』

 四神の力で反撃されたら、瀬希を襲った精霊使いは、おそらく助からない。

 そうなれば畏怖の感情が瀬希に向けられるだろう。

 まるで意味のないイタチごっこだ。

 瀬希が恐れられているから、精霊使いが瀬希を襲い、瀬希は四神の愛し子だから、四神が怒って反撃する。

 すると精霊使いの力では敵わないので、精霊使いは亡くなりまた最初に戻り瀬希が狙われる。

 待っているのは精霊使いの大量虐殺だけだ。

 なんとかしないと。

 同胞が大勢死ぬとわかっていて放置できない。

 それになんの非もない瀬希が狙われるのも阻止したいし。

 同じルノール人として、それはルノールの恥だから。

「四神」

『なにか? 我らが愛し子よ』

「守られる立場でいうことではないかもしれないが、もう四神は起きているのに、まだ四神を召喚できないのか?」

『召喚そのものは可能だ。そなたが真に気にしているのは、召喚された際、聖火が消えない方法ではないのか?』

「できれば無用な混乱状態にはしたくないからな。それに幾ら四神の加護があるとはいえ、わたしが襲われれば、綾が心配するからな。できれば綾に心配をかけたくないんだ」

『綾都様は泣かれるだろうな。しかし聖火の化身が我らである以上、召喚されれば聖火が消えるのは避けようがない。済まぬな、愛し子よ』

「それと凄く初歩的な問いをするが、四神に叶えてもらえる願いとは何回なんだ?」

『ふむ。実はそれには条件があってな』

「条件?」

『そなたが普通の人間と婚姻した場合、願いの回数は全部で12回だが、例外があってそれが主神であった場合、綾都様を守るため、願いの回数が撤廃され、回数制限がなくなる』

「「え?」」

『あくまでもそなたが綾都様を唯一の伴侶とするなら、だが』

「朝斗には悪いが、わたしは生涯綾都以外は愛さない。綾都はわたしの生涯の伴侶だ」

『では回数はなしだ。気にすることはない』

『ちなみに綾都様の望まない願いを叶えるのは困難なことは覚えていたほうがいいだろう』

 そう言えば朝斗がそんなことを言っていたなと納得した。

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これはきみとぼくの出逢い〜黎明へと続く夜明け前の物語〜 @22152224

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