第57話
「それで四精霊の命令すら無視するのですね。従って静まってもまた暴れ出してしまう。精霊たちに強大な力を与える神々がいるから」
「はい。実はその神々は今このルノールにいます」
「え? どこに?」
「それは言えません」
「レスター」
「お許しください。絶対的な力の持ち主を特定することは、世界に混乱しか招きません。これ
以上の混乱を避けるため、だれなのか、それは言えないんです」
「仕方がありませんね。そういう事情では」
納得するしかないと王妃の苦い声が言っていた。
本心では納得しきれていないのだろう。
母の胸中を思いレスターは苦い気分になる。
王妃としては当然の感想だ。
この事態がルパートたちによって引き起こされているなら、彼らになんとかしてもらえたらと統治者ならそう考えるのは当然のことだ。
だが、レスターの主張の正当性が理解できるので、王妃は諦めるしかないのだ。
わかってるからレスターも辛かった。
「ひとつだけ言えるのは」
「なんですか?」
「精霊使いが生まれてしまったがために、過去に神として生きていた頃のように、彼らにも精霊を御しきれなくなっている、ということです」
「神々にもどうにもできないなんて、ではどうすれば」
「だから、ボクは力を温存しているんです」
「どういうことですか?」
「その神々に言われました。精霊に力を与えるのは自分たちでも、その精霊を操り静めることができるのは精霊使い。つまり神々の助力を得て、最上級の精霊使いであり、四精霊から加護を与えられたボクが、この事態をなんとかするしかないのだと」
「あなたにすべての重責がかかっていると?」
「はい。ですがその賭とも言うべき方法を成功させるためには、力を使いすぎて弱っていては意味がない。体調も万全で力にも余裕があるボクでなければならないそうです。ですから力を温存させて体力と力の蓄積に努めているんです。ボクが上手くやれるかどうかで、ルノールの未来が、世界の未来が決まってしまうから」
そう。
この賭に失敗してレスターがしくじったら、そのときは瀬希が四神を召還して精霊を鎮めるしか方法はない。
そうすることで現在の危機は救われる。
だが、それは聖火が消える事態を招き、三度目の大混乱が引き起こされることになる。
ルノールを救ってくれた恩人なのに、瀬希が四神を召還し聖火を消したことから、彼の身にも危険が迫ることになる。
だから、レスターは力の温存に努めながらも、自分が背負うには重すぎる重圧に必死に耐えていた。
「そんな重要なことをどうして黙っていたのですか? 理由さえ説明していれば臣下たちだっ
て誤解することもなかったでしょうに」
「母上。これが事実だと証明する術がないのです」
「ですが」
「四精霊と会話できる精霊使いはボクと朝斗様だけです。そこへ持ってきて当事者の神々から、世界を混乱させたくないから、自分たちのことは伏せていてほしいと頼まれていて。とても素性を明かしてほしいと頼める状態ではありませんでした」
「確かにそんな伝承ですら伝わっていなかった神々がいて、今現実にこうして精霊を暴れさせほどの影響力を持っているとなれば、臣下たちも放置しておけないでしょう。その場合神々の存在を明かせば問題となる。それはわかります」
「はい。ですからすべてが事実だとボクにはわかっていても、それを証明する術がなく今まで
黙っていました」
それは理由の一端でありすべてではない。
確かに朝斗からは無用な混乱を招かないため、また今は自分で自分を護れない綾都のために、自分たちのことは明かさないでほしいとは言われていた。
だが、同時にそれだけの影響力を持つ者が4人もいる。
そのことが世界を動乱へと誘いそうで、レスターにも明かす決意ができなかったという動機もあった。
それに聖火の問題もあったし。
尚更言えなかったのである。
「それを明かすことは可能ですか、レスター?」
「今言ったようにそんな神々が存在すると明かせば問題視されます」
「ですがこのまま黙っていても、あなたのやろうとしていることは理解されません」
「ですが」
「神々がだれなのか知っているのはあなたひとり。ではなんとかなるでしょう? どうせ今のルノールにあなたに敵う精霊使いはいないのですし。状況からみて朝斗様はあなたと同じ意見なのでしょうから」
唯一レスターに対抗できる最上級の精霊使いである朝斗もまたレスターと同じ考え。
つまりレスターに勝てる見込みのある者が、現状ルノールには存在しないということなのだ。
だったら明かしても大丈夫だろうと言われ、レスターは受け入れるしかなかった。
ここで逆らうと嘘だと思われるから。
レスターが認めるのを確かめて母が出ていく。
その背中をレスターが不安そうに見ていた。
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